これは、俺が採用担当者だったときの話だが
――ある日。
小さな町の、とある小さな集合面接会場での話だ。
俺はある女の面接をしていた。
集合面接会場ってのは、でかいホールや会議室に机とイスをたくさん並べて、いろんな会社の面接を受けられるってやつだ。まあ、今回はこじんまりした感じの場所だけど。
俺は採用担当者として、その場にやってきていた。
その女は地味なリクルート用のスーツを着た、色白で巨乳の清楚系。
栗色のふんわりセミロング。
……俺好み。いやいや。
例えばこいつに内定を出したくて、俺が人事部長に推薦しても、きっとダメだ。
「営業は女の仕事じゃない」とか、言いそうなタイプだしな。
前時代的なカタブツめ……。
だがしかし、こいつになにか『光るもの』があれば、人事部長を押し切れる可能性もゼロじゃない。
俺としては、なんとかこいつに内定をとってもらいたい。
なんたって、色白で、巨乳で、清楚系のセミロングだぞ。
……実に俺好みだ! まあ待て。
それはさておき。
緊張の面持ちをした彼女に、俺は軽く話題を振った。
自己紹介とか、自己PRとか、ごく普通の話題……のつもりだったが……。
おいおい、そんなに緊張しなくていいぞ。
彼女は唇をグッとかみしめて、どこか助けを求めるように、丸い瞳をうるうるさせてる。
やべ、かわいー。
ちっ、しょうがないな。
いま俺の、採用担当者【魂】に火がついた!
いいぜ、お前がそういうつもりなら、俺がお前を、内定に導いてやる!
***
【これは、俺が採用担当者だったときの話だが】
なあ、すこし俺の話を聞いてくれ。
大丈夫。
簡単な質問をするだけだ。
とても簡単だぞ?
それは、お前自身が、この世界でどんな価値を発揮したいかってことだ。
んー、難しいか?
そうだな、だったら少し噛み砕いてみるか。
お前、RPGってわかるか?
お、おお。わかるのか。
意外に食いつきいいな。
例えば、俺は剣士だ。
素早く動いて敵を翻弄し、鋭い刃で敵を倒す。
だが、俺ができるのはそれだけだ。
攻撃魔法は使えないし、扉の鍵も開けられない。
敵から何かを盗んだり、相手の特殊な攻撃をマネたりもできないだろう。
だが、お前は何でもできるとしよう。
選んだもの、なんでも『ひとつだけ』、お前はこの世界のトップクラスだ。
さあ選んでみろ。
お前はどんな分野で力を発揮したい?
……。
えーっと、そんな困った顔をされるとこちらもちょっと困ってしまうんだが。
だから、俺はお前が秘めている本当の力を確認したいんだ。
うちみたいな小さな会社の面接に来てくれたお前に、俺は落ちてほしくないんだよ。
お前が何も言ってくれなきゃ、俺だって人事部長を説得できないんだってば。
いや、『無口で静か』ってのも、確かに美徳だよ。
そういう人だって、社会人にはいっぱいいる。
ただ……、うちはそういう仕事じゃないんだよ。
『営業支援会社』なんだ。
簡単に言うとさ、『他の会社の代わりに、テルアポする』会社なんだ。
……わかんないか。
そ、そうだよねー。
俺も会社入るまでよくわからなかったし、口で言うだけじゃな……。
ざっくり説明すると、いろんな人に電話をかけて、アポイント……つまり直接会う約束を取りつける仕事ってことだよ。
朝、会社に行くだろ。
それで、電話帳を開く。
上から下まで電話をかける。
すげー簡単に言うと、それだけだ。
それで、一応生活できるくらいの金が稼げる。
もちろん、いいことばっかりじゃない。
アポイントがとれなかったら最悪だ。
上司に呼ばれてさ、
『お前、今日一日、電話代を無駄にするために会社に来たの?』って怒鳴られて終わり。
いやいや!
俺だって、アポイントとるつもりで電話かけてますよ!
とか、言いわけなんて通用しない。
アポイントがとれればOK。
とれなきゃ、どんな努力もクズみたいなもんさ。
で、お前さ、結構緊張してるみたいだけど、俺としてはわりと前向きに考えてほしいと思ってるわけ。
女の人で、テルアポ上手い人も結構いるんだぜ。
まあ、全体数から言うと、たしかにまだ男の方が多いけどさ。
俺は、女の人の方が向いていると思うね。テルアポ。
男からかかってきた営業電話なんて、俺が言うのもどうかって話だけど、やっぱり面倒だよ。
できれば、ぱぱっと切ってしまいたいね。
ぱぱっとね。
……で、話は戻るんだけどさ、どうなの?
お前さ、何かすげー『特技』とかないの?
人事部長、結構カタブツでさ。
なんとか説得したいんだけど……。
***
そんな話をしているところに、どうやら彼女の友だちらしい別の女がやってきた。
「チカ~、お待たせ!」
「あっ、遅いよミナ」
清楚系の巨乳はさっと立ち上がると、
「あ、すいません……私、友だち待ってただけなので」
そう言い残して、俺の前から立ち去っていった。
えっ……、まだ話、終わってなくね?
俺は彼女のあとを追おうと……
「あ、あの……」
「ねー、チカ、何の話してたの?」
「わかんない。テキトーに相づちしてたら、なんか調子に乗ってしゃべってた」
「わー、ウザッ! 採用担当つったって、空気読んでほしいよねー」
「ねー!」
彼女たちは大声でわいわい話しながら、雑踏の中に消えていく。
あいつ、マジで待ち合わせ時間つぶすためだけに、ウチのブースに来たのか……。
俺は自分が話したことを思い出しながら、がっくりとうなだれた。
やべー、泣きそうだ。
採用担当者も、人間なんだぜ?
傷つくときは、けっこう傷つく。




