究極下での選択(飛狼版)
拙い文章ですが、どうぞ
男は街の中を、彷徨っていた。愛する者の姿を求めて。
男には大恋愛の末に結婚した妻と、18になる息子がいた。
昨夜は息子が某有名大学に合格したため、ささやかだが、家族で合格祝いのパーティーをした。
男にはもったいないほどの美人の妻と、自慢の息子に囲まれて、男は幸せを噛み締めていた。
男にとって、二人は同じぐらい大切な、宝のような存在だった。
だが、男が今朝起きてみると妻の姿はなく、息子の姿もなかった。
今日は日曜日なので、二人で朝から何処かに出かけたのかと思い、リビングで寛いでいると、目の前のテーブルに奇妙な物が現れた。
それは四角い金属製の箱の上に、赤いボタンと青いボタンが付いている物だった。
「なんだこれは」
男は呟き、何気なく触ると、突然ノイズのような物が頭に走り、それが何なのか理解できた。
赤いボタンを押せば妻が死に、青いボタンを押せば息子が死ぬ。
24時間以内にどちらかを押さなければ、二人とも死ぬ。
そんな事が何故か、頭の中に浮かんでくる。
それはまるで、情報が頭の中に、上書きされるような感覚だった。
そして、頭の中でカウントダウンが始まった。
男は呆然として、テーブルの上の箱を眺める。
混乱した頭で考えて、男は取り敢えず、警察に連絡してみた。
暫くして、近くの派出所の若い警察官がやってきて、男に問いかけた。
「えーと、それでいつから奥さんと息子さんは、行方不明なのですか」
男が焦りと不安を抱えながらも、今朝からだと答えると、
「えっ、今朝からって旦那さん、今はまだ昼前ですよ」
警察官は書きかけた書類を閉じて、呆れたように言った。
男は頭の中のカウントダウンに焦り、慌てて説明するが、警察官はますます呆れた顔をする。
警察官を引っ張るようにして、リビングに連れて行って、テーブルの箱を指差し説明するが、
「あんた、ふざけてるのか、私にはそんな物、見えないのだがね」
そう言うと、警察官は怒って帰ってしまった。
男はどうしたらいいのかわからず、困惑して何も考えられなくなっていた。
そして、気が付いたら街を彷徨い歩いていた。
男は自分がおかしくなっただけで、実際には妻と息子が何処かに、買い物に行っただけかも知れないと思い、探し歩いていた。
しかし、その間もカウントダウンは、容赦なく進んでいた。
男は一晩中歩き回り、疲れはてて公園のベンチに座り込んだ。
すると何故かまた、ボタンの付いた箱が、目の前に現れた。
男は箱を見ると頭を抱え込み、呻き声をあげた。男にはどちらのボタンも、押すことが出来なかった。
暫くそうしていると、遂にその時がやってきた。
カウントダウンが容赦なく進む、5、4、3、2、1…………。
そして公園内に、男の絶叫が響いた。
***
男の家に訪れていた警察官が、派出所に戻ってきていた。
派出所の中にいた少し中年の警察官が戻ってきた警察官に尋ねた。
「どうした、浮かない顔をして」
「いやー、どうも妙な話でして、奥さんと息子さんがいなくなったというので、行ったのですが」
若い警察官が、困惑して話しだす。
「うん、それは変なおっさんの狂言だったのだろ。そう連絡を受けたぞ」
「それが、念のため近所の人に聞いたのですが、どうもあの家には、元から奥さんや息子さんは、居なかったみたいなのですよ」
若い警察官が更に、困惑した顔をして言った。
「なんだそれは、ますます、けしからん狂言だな」
中年の警察官が、顔をしかめて言った。
「いやそれが、五年前に息子さんの、大学の合格発表を見に行った帰りに、交通事故で亡くなったようでして、どうも昨日が命日だったみたいですね。毎年、命日の前後の日は様子がおかしいらしいですよ」
「おっ、なんだそれは死んだ事が信じられず……嫌な話だな。どちらにしても、もう一度事情を聞かないとな」
中年の警察官が、憂鬱そうにため息をついて言った。
***
男は頭を抱えて、公園でうずくまっていた。
暫くすると、突然立ち上がり、頭を振りながら歩き出した。
男には何故、公園にいたのかが、わからなかった。
男は困惑しながらも家に帰った。
そして、玄関を開けて中に入ると、いつもと変わらぬ美しい妻が微笑みかけ、自慢の息子が笑いかけてきた。
終わり
*あと書きに別バージョンのオチもあります。
《別バージョンSF風》
「それが、念のため近所の人に聞いたのですが、どうもあの家には、元から奥さんや息子さんは、居なかったみたいなのですよ」
若い警察官が更に、困惑した顔をして言った。
「なんだそれは、ますます、けしからん狂言だな」
中年の警察官が、顔をしかめて言った。
その時、二人の警察官の頭の中に、ノイズのような物が走る。
「あれっ、俺は今何か喋ってたか」
中年の警察官が怪訝な顔をして言った。
「いえ、何も言ってませんでしたよ」
若い警察官も首を捻って答えた。
二人の警察官は男の事を忘れ去っていた。
***
光輝く部屋の中で、二つの影が、何かの機械のような物を操作していた。
「やはり情報が足らなくて、バグが発生しているようです」
「うむ、そうか。今暫くこの辺りで、このオスの情報の残滓を探してみよう」
彼らは銀河の中枢部より飛来して、辺境の太陽系にかつてあった文明を、調査するためにやって来ていた。
彼らの宇宙船は、小惑星帯の中を縫うように飛んでいた。
「しかし、何故この文明のあった惑星は、砕け散ったのでしょうか」
「これは私の推測だが、我々の文明とは違って、個人の主義主張の強い個人主義の文明だったと思われる、それ故に最後は星と共に滅びたのだろう」
彼らの姿はかつてこの太陽系にあった、3番目の惑星に生息していた、蟻に似た姿をしていた。
そして、彼らの文明にはボタンという概念がなく、それが情報の再構築する際に、バグとなり現れていたのだ。
終わり
どうですかね。
縛りのあるお題小説はきついですが、楽しいですね。