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我らが閣下 〜バツイチ中将はハムが好き〜  作者: 依馬 亜連
ジョルジュ閣下と風林の章
8/27

7:ジョルジュ閣下と子供たち

 スポケーン地方に、束の間の平穏が訪れていた。

 パラポレ地方の工業地帯で発生した火災も無事に鎮火され、スポケーン国境警備基地はジョルジュの放任主義と、セルゲイの的確な指示によって及第点以上の働きを示していた。

 それを耳にしたのか、アンゴラ国からのちょっかいも、先日の誤射事件以降発生していなかった。


 珍しく穏やかな時間を過ごすスポケーン基地に、本日は子供たちの歓声が響いていた。

 基地近くにある学校へ通う児童たちが、遊びに来ているのだ。

 名目としては遊びではなく、「国を守る軍人さんの、お仕事と生活を学ぶ」ための校外学習だという。


 だが子供を育てた経験がないジョルジュにとって、彼らは鬼門または公害でしかなかった。

「おじさん、結婚してないの?」

「していないのではない。終わらせたのだ」

「カッコよく言ってるけど、離婚ってことだよね? 捨てられたの?」

「……双方の、合意の上だ」

「そう言う男は振られてるって、お母さんが言ってた」

「おじさんださーい。みえっぱりー」

「ってかおじさん、カノジョは?」

 矢継ぎ早の質問に、ジョルジュはちらりとマチルダを見た。何かを期待する眼差しである。

 しかし無視どころか、存在そのものが無いものとして扱われた。

 噛みしめた歯の奥で、ジョルジュはうめく。

「い、いない……」

「うわ、もうダメじゃん」

「おじさーん、老後どうするの?」

「独居老人?」

 彼らはこのような、側近でさえ口にするのをためらうような言葉のナイフを、遠慮なしに振るいまくっていた。一応、引率らしい教師がいさめているものの、効果は無いに等しかった。


 もはやジョルジュの心は、血みどろである。

 軍のイメージアップのため、ぐっと堪える彼の顔にも、青筋がみるみる浮かび上がっていた。

 耐えるおじさんの血の涙に、子供たちは気づかない。

 それどころか、訳知り顔で彼の背中を叩く。

「おじさんさ、孤独死はやめときなよ」

「うんうん。ちゃんと近所付き合いしなよ?」

 プッツーン。

 とうとう、堪忍袋の緒が切れた。彼にしては耐えた方だろう。

 右手を強く握りしめ、ジョルジュは叫んだ。

「うるさいぞ貴様ら! 子供の作り方も知らん、クソガキの分際で!」

 ジョルジュのこの怒声によって、途端に場の空気は凍りついた。

 だが、今の彼をたしなめようとする部下は、さすがにいなかった。

 彼を見つめる部下たちの眼差しと、基地へ降り注ぐ陽光は、どちらも生暖かかった。

 一番血の気が引いたのは、きっと引率の先生。

 

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