7:ジョルジュ閣下と子供たち
スポケーン地方に、束の間の平穏が訪れていた。
パラポレ地方の工業地帯で発生した火災も無事に鎮火され、スポケーン国境警備基地はジョルジュの放任主義と、セルゲイの的確な指示によって及第点以上の働きを示していた。
それを耳にしたのか、アンゴラ国からのちょっかいも、先日の誤射事件以降発生していなかった。
珍しく穏やかな時間を過ごすスポケーン基地に、本日は子供たちの歓声が響いていた。
基地近くにある学校へ通う児童たちが、遊びに来ているのだ。
名目としては遊びではなく、「国を守る軍人さんの、お仕事と生活を学ぶ」ための校外学習だという。
だが子供を育てた経験がないジョルジュにとって、彼らは鬼門または公害でしかなかった。
「おじさん、結婚してないの?」
「していないのではない。終わらせたのだ」
「カッコよく言ってるけど、離婚ってことだよね? 捨てられたの?」
「……双方の、合意の上だ」
「そう言う男は振られてるって、お母さんが言ってた」
「おじさんださーい。みえっぱりー」
「ってかおじさん、カノジョは?」
矢継ぎ早の質問に、ジョルジュはちらりとマチルダを見た。何かを期待する眼差しである。
しかし無視どころか、存在そのものが無いものとして扱われた。
噛みしめた歯の奥で、ジョルジュはうめく。
「い、いない……」
「うわ、もうダメじゃん」
「おじさーん、老後どうするの?」
「独居老人?」
彼らはこのような、側近でさえ口にするのをためらうような言葉のナイフを、遠慮なしに振るいまくっていた。一応、引率らしい教師がいさめているものの、効果は無いに等しかった。
もはやジョルジュの心は、血みどろである。
軍のイメージアップのため、ぐっと堪える彼の顔にも、青筋がみるみる浮かび上がっていた。
耐えるおじさんの血の涙に、子供たちは気づかない。
それどころか、訳知り顔で彼の背中を叩く。
「おじさんさ、孤独死はやめときなよ」
「うんうん。ちゃんと近所付き合いしなよ?」
プッツーン。
とうとう、堪忍袋の緒が切れた。彼にしては耐えた方だろう。
右手を強く握りしめ、ジョルジュは叫んだ。
「うるさいぞ貴様ら! 子供の作り方も知らん、クソガキの分際で!」
ジョルジュのこの怒声によって、途端に場の空気は凍りついた。
だが、今の彼をたしなめようとする部下は、さすがにいなかった。
彼を見つめる部下たちの眼差しと、基地へ降り注ぐ陽光は、どちらも生暖かかった。
一番血の気が引いたのは、きっと引率の先生。