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我らが閣下 〜バツイチ中将はハムが好き〜  作者: 依馬 亜連
ジョルジュ閣下と風林の章
6/27

6:ジョルジュ閣下と生ハム

 ジョルジュの日ごろの言動を見れば明らかであるが、彼は下から煙たがられる存在である。

 しかし同時に、彼はたとえ相手が上司であろうと、医者であろうと、弁護士であろうと、税務署職員であろうと、尊大さを崩さない。そのため上からも嫌がられていた。よくもここまで出世できたものだ。

 もちろん、態度の大きさおよび悪さは、同僚に対しても変わらない。よって横からも、彼は厄介者扱いをされている。

 つまりは八方ふさがりの人生なのだが、本人にその自覚はない。


 その中でもことさら、犬猿の仲と呼ぶべき人物がいた。

 「アゾリスの英雄」と呼ばれる老将、フランソワ少将だ。

 彼は一見すると小太りで、人のよさそうなおじいさんなのだが、ジョルジュとは宿命のライバルであった。

 二人は顔を合わせると、ひどく程度の低いののしり合いを繰り広げ、最終的に殴り合いのケンカへ発展するという。

 ケンカの最中は、どちらも猫パンチかビンタしか繰り出さないため、公の醜聞にまで発展していないのが幸いである。


 そのフランソワ少将は現在、パラポレ地方の基地を任されている。

 パラポレ地方には大規模な工業地帯がそびえており、その中には国内最大の軍事工場も含まれている。

 そこで、大規模な火災が発生した。

 途端に国内はパニックへと陥った。

 パラポレ地方にほど近い、スポケーン国境警備基地にも救助の要請が入れられた。


 その要請を携え、セルゲイは指令室へと飛び込む。

「……要請内容は以上の通りです。閣下、出動のご準備を」

「クソが! 嫌に決まっているだろう!」

 セルゲイにうなり、ジョルジュは椅子へ深々と座り直した。肘掛けをギュッと握り、動いてたまるかこん畜生、と全身で語る。

 彼の背後に控えるマチルダも、ジョルジュへ困った顔を寄せた。

「なぜです? アゾリス国にとって、パラポレ地方は国軍の要ではありませんか」

 秘書の憂い顔に心が揺らぎつつも、ジョルジュはしかめっ面を崩さなかった。

「嫌だ。なぜなら、あそこにはフランソワのクソがいる」

「ご年配の方を、クソ呼ばわりしてはいけません」

「では、老いぼれファッキン・ケツの穴野郎ならばいいだろうか」

「いいわけがありません。より悪辣です」


 マチルダの表情が、いつものちょっと怒り気味のものとなった。次いで、呆れた様子でため息をつく。

「なぜ閣下は、そこまでフランソワ少将をお嫌いなのです?」

「聞きたいか、マチルダ君?」

 本当はそこまで興味もなかったが、マチルダは大人しくうなずいた。

 悪童のごとき顔で、ジョルジュは続けた。

「パラポレに居座っているあのジジイは、クソみたいにぬめぬめした、生ハムが好きなのだよ」

 頬杖をついてそっぽを向き、貧乏ゆすりをする。

「生ハムだぞ、生ハム! 俺はな、燻製されているくせに『生』などと言いふらすあいつらが、大嫌いなのだ! よって、そんなハムの偽物を愛するクソジジイも、大嫌いだ!」

 ほとんど少将ではなく、生ハムへの逆恨みである。


 セルゲイが、小さく咳払いをする。

「閣下。生ハムの中には燻製されず、塩漬けされたものもございますよ」

 落ち着いた訂正にも、ジョルジュはバシバシ肘掛けを叩いて反撃した。

「ならば魚で考えてみろ! 塩漬けされたそれは、生魚と呼べるのか? いいや、違う!そいつは魚の塩漬けだ! 純然たる生ではない!」

 本来の論点を見失って叫ぶジョルジュの背後で、マチルダがゴルダードへ手招きした。

 呼ばれたゴルダードは、遠慮なくジョルジュに頭突きをお見舞いした。

 アゾリス国に最大の危機が訪れていた瞬間、ゴルダードは通算四千回の頭突きを達成したのだった。

燻製していない生ハムを、プロシュートと呼ぶそうです。

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