4:ジョルジュ閣下とお見合い
ジョルジュは四十にして、独身である。一応、過去に一度結婚生活を営んだことはあるらしいのだが、
「私とハム、どっちが大切なの?」
「ハム。その次はこの箱庭かな」
と答え、離婚されてしまったのだという。
なお、その箱庭は現在もジョルジュの私室に置かれ、彼の情緒不安定な内面を支えている。箱庭に飾る、お気に入りのミニチュアが墓石だという彼に、黄金の精神が宿ることを願ってやまない。
だが、彼も一応は中将にして司令官。すなわちエリート、高給取り。
性格と口癖とハム好きという、彼の大部分を除去すればあら不思議、優良物件である。
彼の上司も気を利かせ、何も知らぬ女性へ余計なことは一切書かれていない釣書を見せ、見合いの席を設ける時がある。
ジョルジュもそのたびに、口では
「クソが、仕事が立て込んでいるというのに……」
と言いながら、ニヤニヤしっぱなしの顔で休暇を取る。なお、彼は面食いであるため、いつもなかなか可愛らしい女性が連れて来られるという。
上司の手腕が、恐ろしい。
しかし見合いのあった翌日、必ずジョルジュは暗い顔で出勤するのだ。
「お顔の色が優れませんね。より一層、貧相に見えます」
そして必ずマチルダの淹れたコーヒーを受け取り、ジョルジュは愚痴をこぼす。
「……昨日、クソ上司に言われて、クソ見合いを受ける羽目になったのだ」
「休暇を取られていたので、見合いの件は皆存じ上げております」
淡白に答えながら、一応お義理で、マチルダはその先を促した。
「クソをつけるという事は、フラれましたね」
語尾は疑問ではなく、断定のそれである。こっくり、というよりもがっくりと、ジョルジュはうなずいた。
そのまま、地を這う声でうめく。
「『あなた、ハムしかないの?』等ととののしる女に、愛を囁けと?」
陰気な顔でにらむジョルジュにも、マチルダは涼しげなままであった。
「閣下。それはののしりではありません。真実です」
「うん……」
不動の秘書を前に、ジョルジュはちびちびとコーヒーをすするしかなかった。
彼女は知性漂う見た目通り、理性と本音で生きていた。
そしてそんな彼女が、ジョルジュはそんなに嫌いでもなかった。
むしろ結構好きだった。
箱庭療法、自分もやってみたいです。




