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我らが閣下 〜バツイチ中将はハムが好き〜  作者: 依馬 亜連
ジョルジュ閣下と風林の章
3/27

3:ジョルジュ閣下と最終兵器

 ジョルジュは、アゾリス国スポケーン地方の国境警備基地を守る司令官だ。こう表記すると、物々しい存在に思えるのだから不思議なものだ。

 すなわち彼は、日がな一日仕事もせず、怠惰にハムを食らって生きているわけではない。他地方や首都との連携、スポケーン地方一帯の治安状況の把握、また敵対国アンゴラ国の情報収集も、司令官としての重要な務めである。


 そして本日。珍しくも、手際良く書類を片付ける彼に、マチルダも滅多に見せない笑顔となった。

「今日は、やけにやる気ですね」

 ちなみにこの笑顔は、ジョルジュ以外へは頻繁に向けられている。

 そのことを彼は知らない。

「ああ。最近はアンゴラ国も大人しい。環境が良いと、俺の頭脳も冴え渡るようだ」

 こめかみを軽く叩き、ジョルジュは笑った。

 秘書官の裏、というか表の顔を知らないジョルジュの笑顔は、いつになく爽やかで好感の持てるものだ。

 その笑みは執務室を訪れた、年若いゴルダード準尉にも向けられた。

「やあ、ゴルダード。君も精が出ているね」

 食料・資材庫の管理を担うゴルダードは、尉官の中でも最年少だ。尉官・佐官達からは使いっぱしり扱いをされているのだが、それを苦にしている様子はない。

 むしろ、「お役に立てて嬉しいです」と、いつもにこにこしていた。

 すなわち彼は、極めて能天気な心根をしている。端的に言えば、馬鹿ということになるのかもしれない。


 馬鹿であるためか、彼はジョルジュにも、あまり嫌悪感を抱いていなかった。

「あ、どうも閣下。閣下もお仕事がはかどってますね、珍しいです」

「ああ、そうだろう? 俺は君と違い、有能だからね」

 お互いに、悪意ゼロの毒を吐き合っている。そして見つめ合っては、陽気に笑い合う。

 いつもの光景なので、マチルダも何も言わない。彼女にとっては、ジョルジュがハムハム言わず、さっさと仕事をこなしてくれることが最重要事項なのだ。


 視線を書類に落とし、手を動かしながらジョルジュは続けた。その口元は、穏やかに緩んでいる。本当にご機嫌なようだ。

「そうだ、ゴルダードよ。たまには二人で、飲みに行かないかね?」

「え、いいんですか?」

「久しく行っていないだろう?」

 ゴルダードの顔も輝く。単純だが、彼は実に気のいい若者なのだ。


 ただ、彼にはとんでもない癖があった。頭突き癖、である。

 喜怒哀楽等、精神的に大きな高ぶりがあった際に、思いきりのけぞり、そして周囲の誰かへ頭が振り落される。

 その痛さは、大の大人でも悲鳴を上げ、時には失神するほど。

「ありがとうございまぁす!」

「いてぇ!」

 彼を喜ばせたばかりに、うつむいていたジョルジュの頭頂部へ、強打が繰り出された。

 頭突きの勢いによってジョルジュの顔も、机へめり込む。玉突き事故のごとく彼の額がぶつかった机からは、書類や羽ペン、インクボトルが吹っ飛んだ。


 穏やかな昼下がりの執務室から一転、カオスへと変貌したこの光景も、マチルダには慣れたものだ。散らばった書類を素早く拾い上げ、転がる羽ペンを、起こしたインクボトルへ突き刺した。そしてこれらを、ジョジュルが突っ伏している机の隅に、無言で並べる。

 微動だにしないジョルジュへ、ゴルダードはようやく申し訳ない顔となる。

「ああ、ごめんなさい閣下! 最近飲みに行ってなかったから、嬉しかったもんで!」

「少しは加減を……いや、その癖を根本から直せ! クソが!」

 ぎりぎりと顔を持ち上げた彼の口調には、普段の刺々しさがなかった。本当に痛かったのだろう、目もうるんでいる。

 ごめんなさーい、とゴルダードは手を合わせ、茶目っ気たっぷりに再び謝った。

 なお、彼には「スポケーンの最終兵器」という二つ名があるという。

ゴルダードのモデルは弟です。

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