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我らが閣下 〜バツイチ中将はハムが好き〜  作者: 依馬 亜連
ジョルジュ閣下と火山の章

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27/27

後日談:ジョルジュ閣下とハムの店

 拍手お礼小話の加筆修正&再掲載です。


 時系列的には、本編最終話の直後に当たります。

「臨時休業……だと?」

 パラポレ地方まで遠征し、大規模な火災を鎮圧し、意気揚々と部下たちを引き連れて「ハムとワインのお店 ドゥヴィヴィエ」までやって来たというのに。

 店内に、明かりは点いていなかった。

「あら。『火災によってハムと養豚場が焼けたため、しばらくお休みします』とのことですね」

 マチルダが、店の看板に書かれた文字を見る。

 なお彼女は実にさり気なく、ジョルジュとの二人きりのディナーから、スポケーン国境警備基地メンバーでの食事会へ路線変更させていた。正に鉄壁の守りである。

「ハムがないのでは、致し方ないですね」

 格段ハム好きでもないセルゲイは、マチルダから借り受けたガイドブックを開いて、次の店を探していた。

 部下たちも皆、お腹はペコペコ。そしてヘロヘロ。

 大人数でわいわい騒げて、がっつりとご飯を食べられるお店はどこだ、とセルゲイは無言でガイドブックをめくっている。

 部下たちも通行人に声をかけては、おすすめの食堂などを訊いていた。この辺りの切り替えの早さは、さすがである。


 だがジョルジュは一人、諦めていなかった。

「おいゴルダードよ」

 腹が空き過ぎて座り込んでいる彼の肩を叩き、立てた親指でドゥヴィヴィエの扉を示した。

「やれ」

「いえ、やれって言われましても……それはまずいでしょ?」

「このままでは俺の気が晴れん。ハムの管理も甘いクソッたれな店など、ぶっ壊してしまえ」

「もう、仕方がないなぁ」

 言いつつも立ち上がり、額を店の玄関へロックオンしたゴルダードの首に、セルゲイのネクタイが巻き付いた。

「きゅぅっ」

「仕方がない、ではございませんよ」

 そのままぐい、と後方へ引っ張られて行く。

「ゴ、ゴルダードォォッ!」

 ジョルジュがそれに気付くと同時に、彼の頬へマチルダ渾身のビンタが飛んだ。

「タコス!」

「火事場泥棒でもするつもりですか、馬鹿!」

 本気で怒ったマチルダの気迫に、ジョルジュは腰が抜けてしまった。へなへなと地面に膝を落とす。

「マチルダ君に、馬鹿って初めて言われた……嬉しくもあり、もの悲しくもある……」

「気持ち悪いことをおっしゃらないで下さい。余計に腹立たしくなります」

 腰に手を当て、殺意をみなぎらせるマチルダ。

 紐魔術でゴルダードを締めながら、セルゲイも非常に怖い顔となっている。

「ハムはございません、と看板にも書いていらっしゃいます。八つ当たりをしても、仕方がないでしょう?」

「うう……だって……」

 四十の男がお姉さん座りをしながら、はらはらと涙をこぼす。

「だって貴様ら、ハムが食べられないのに、大して残念そうじゃなかっただろォォッ!」

 ついには地面をバンバンと両手で叩き、そのまま全身で突っ伏す。

 邪神にでも、祈りを捧げているかのような形相だ。

「あっさり鞍替えしやがって、この薄情者のクソッたれめ! 貴様らなんぞに、ハムを食う資格はないッ!」

「閣下……それは間違いです」

 マチルダの静かな声が訂正する。ジョルジュも涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を、麗しい秘書官へ持ち上げた。

「何が間違いだと言うんだ」

「私たちも皆、ハムは好きですよ?」

 もはや恒例行事でもある、司令官の愁嘆場を見守っていた部下たちも、その言葉にうんうんとうなずく。

「ですが閣下ほど、ハムに固執していないだけです」

 またもや部下たちが、揃ってうなずいた。

 みるみる内に、ジョルジュの瞳が再び潤みだす。

「では貴様たちにとって……ハムは……ハムは一体、何だと言うのだァッ!」

「単なる食肉加工品の一種、でございます」

 静かな答えに、ジョルジュはうつ伏せになって号泣した。

 こちらのエピローグ的小話にて、完結となります。


 ここまで閣下のお馬鹿にお付き合いいただき、ありがとうございました!

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