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我らが閣下 〜バツイチ中将はハムが好き〜  作者: 依馬 亜連
ジョルジュ閣下と火山の章

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おまけ1:ジョルジュ閣下とピクルス

 お蔵入りにしていたものを、おまけとして掲載です。

 単に、おっさん三人がピクルス片手に騒ぐだけの話です。

 食堂で、昼食を頬張っている時のことだった。

 ジョルジュはハムに限らず、食物全てを貴んでいる。それが彼の一族の家訓でもあった。

 だから彼は、デラックスハムサンドの付け合せであるピクルスが床に落ちた時も、躊躇なくそれを拾った。


「閣下ー。それはさすがに汚いですよ」

 骨付き肉を頬張りながら、ゴルダードがたしなめる。

 一方のジョルジュも、しかめっ面を浮かべている。

「何故だ、クソッたれ。俺はちゃんと、三秒以内に拾ったぞ」

「三秒ルールですか? あれって、でも、テーブルに落ちた食べ物にしか適用されないんじゃないですかね」

「そんなことはない。床でも安全だ」

「いやいや、汚いですよ。皆、土足でガンガン歩いてるんですよ?」

「俺はこれまでこのルールに則って生きて来たが、腹を壊したことなどない!」

「この前タンドリーチキンに当たったのに、よく言えるなぁ……それに、今までは運が良かっただけですよ。閣下って運だけで生きてる感じですし」

「クソが! 運だけではない、親の七光りだってある!」

 拾ったピクルス片手に、ジョルジュが勢いよく立ち上がった。

 なんだなんだ、また閣下がご立腹か、と周囲の部下たちも見守っている。

 ジョルジュはそんな視線に気づく様子もなく、ピクルスを離さずにゴルダードをもう片方の手で指さす。

「そこまで言うのなら、調べてみようではないか!」

「え、え? どういうことです?」

「ついて来いクソッたれ!」

 言うが早いか、ゴルダードの首根っこを引っ掴む。こういう時のジョルジュは、妙に素早く、力持ちだ。


 右手にピクルスを持ち、左手にゴルダードを鷲掴み、彼が向かった先は魔術師たちの研究室だった。

「おいこらセルゲイ! 顕微鏡を貸せェェい!」

「唐突でございますね」

 そう言いつつも、セルゲイに驚いた様子はない。さっと手製の弁当に蓋をし、ジョルジュへ歩み寄る。

「使い方をご存じでしょうか? そもそも、閣下が顕微鏡の御厄介になられる機会があるとは思えぬのですが」

「このピクルスを見たいのだ」

 ジョルジュがつまんだピクルスを見下ろし、セルゲイは涼しげな顔のまま首をかしげる。

「ピクルスを? それは、ピクルスを模した最新の武器、もしくは魔石の類でしょうか?」

「そんなわけない、食堂のおばちゃんお手製のピクルスだ」

「そうでしょうね。匂いも、おば様製特有のものですね」

 かすかに顔を寄せ、くん、と鼻を鳴らすセルゲイ。

「ただし、うっかり床に落としてしまったのだがな」

 セルゲイの鷲鼻が、さり気なくピクルスから離された。

「……手に持たれたりなどせずに、捨てられてはいかがでしょうか」

「三秒以内に拾ったから大丈夫だ、問題ない。それを証明するために、さっさと顕微鏡を貸せ」

「……かしこまりました」

 長居をされると面倒、と判断したのだろう。ため息ひとつ、セルゲイは棚から顕微鏡を取り出した。魔術師たち愛用のそれは大きく無骨で、物々しい。

 両手を広げて巨大顕微鏡を受け取り、プレパラートの上にピクルスをセットするジョルジュはどこか楽しそうだ。

「壊さないよう、お気を付け下さい。本当に、お気を付け下さい」

「何故二度も言った!」

 一度セルゲイへ吠え、顕微鏡のレンズをのぞきこむ。

「顕微鏡で変な菌とか見つかったら、どうするんですか。かえって物食べられなくなりますよ」

 ゴルダードの忠告にも耳を貸さず、顕微鏡のハンドルをいじっていたジョルジュが

「んっ?」

やにわに声を出した。


「どうしたんですか? ……ダニでもいたんですか?」

 ゴルダードの恐る恐るの問いに、顔を上げたジョルジュは妙な顔を返した。

「いや、ダニ、ではないのだが……なんかいた」

「なんか、とは、どのようなものでございますか?」

 セルゲイもたまらず割り込む。

「なんか、としか形容できん。何度も言わせるな、クソが」

顔を強張らせる部下二人へ、ジョルジュは手招きした。

「いいから、もう、見て」

「いやですよ、怖いですよ」

「見なさい。司令官命令だ」

 なかばジョルジュに頭を押し付けられ、渋々ゴルダードも顕微鏡をのぞきこむ。

「うわっ!」

 一声叫び、ゴルダードは顕微鏡から飛び退いた。

「ゴルダード君まで、何だと言うのですか……おぉっ」

 思わずセルゲイも顕微鏡へ顔を押し付け、同じく絶句した。

「これは……何でしょう?」


 ピクルスには、なんだかよく分からない生き物がへばりついていた。形態は太めのおじさんなのだが、それは半透明で、緑色だった。

 小さいおじさんは馬乗りになったピクルスを、一心不乱にむさぼっていた。


 スポケーン地方にしか生息しない、新種の妖精が発見された瞬間であった。

「いずれにせよ、これではピクルスは食えんな。おじさんごと食べるのはしのびない」

 黙考の末、ジョルジュはそう結論付けた。

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