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我らが閣下 〜バツイチ中将はハムが好き〜  作者: 依馬 亜連
ジョルジュ閣下と風林の章

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20:ジョルジュ閣下と善と悪

「セルゲイよ。つくづく思うが……お前の紐魔術は、紐っぽい形状なら大抵の物に適用されるのか?」

「はっ。長年の研究の結果、細長い紐状の物でしたら大方操ることが可能であると判明しております」

「何でもありだな、無双だな、地味に凄いな」

「派手に凄い魔術であったならば、と若かりし頃には羨んだものです」

 マチルダが司令室に入ると、ジョルジュがセルゲイと世間話をしながら、分銅に両肩を叩かれていた。

 正確には、セルゲイの紐魔術が操る鎖付きの分銅に、両肩を叩かれている。

 何となく得体の知れないその光景に、マチルダはすっと扉にへばりついた。

「閣下。それは一体、どのような心理療法なのでしょうか。それともハムの過剰摂取により、とうとうおかしくなられたのですか?」

「いや、単なる肩叩きだ」

 両肩に拳サイズの分銅をめりこませながら、ジョルジュは爽やかな笑顔で即座に答える。

「そうでしたか。それにしても……大雑把な処置ですね」

「最近、クソみたいに忙しかっただろ? 肩が岩みたいにクソ凝り固まっていてな。これぐらいしないと、叩かれている感がない!」

 ハキハキと喋っているものの、分銅にドンドコ叩かれているため、声が上下に揺れていた。

 無表情にマチルダが、魔術の発信源であるセルゲイを見やる。

 心なしか、鎖を操るセルゲイ本人も楽しそうだった。


 アンゴラ国軍から急襲を受けるも、全裸の奇襲返しで見事撃退。捕虜を首都へ護送し、重傷の傷痍兵を療養地へ送り出したり等々。

 確かにここ数か月、スポケーン国境警備基地司令官は多忙であった。

 赤毛を一つ撫で、マチルダはある書類を肩叩き中のジョルジュへ手渡す。

「む? なんだこれは」

「パラポレ軍事基地よりの、救援要請です」

「なんだ、また火事でも起こったのか?」

「鋭いですね、ご明察の通りです」

 にこり、と小さく笑ったマチルダへ、ジョルジュは肘掛けをきつく握りしめて

「断るッ!」

やはり即答だ。

「そうおっしゃるとは思いましたが、一応お伺いいたします。何故でしょうか」

 紐魔術を解除し、セルゲイもジョルジュの前に立つ。

「分かり切ったことだろう! クソッたれの死にぞこない生ハム中毒クソジジイが、今でも基地を牛耳っていやがるからだ!」

「でしょうね」

 ふう、と息を吐きながら、マチルダは指を鳴らした。


 パチン、と音が鳴ると同時に外で控えていたゴルダードが、司令室へ飛び込んで来た。

「すいませェん、閣下!」

 投げやりな謝罪と共に、剛速の頭突きがジョルジュを狙う。

 だが、

「甘い! 二度も食らってたまるかクソが!」

工事用ヘルメットを素早く被ったジョルジュが、それを防いだ。

「おぉー、閣下さすがですね!」

 ヘルメットにはじかれたゴルダードは、額を軽くさすって破顔する。

 が、当の防御したジョルジュはヘルメットを投げ捨て、頭を抱えて椅子から転げ落ちる。

「クッ……クソッたれェェェェ! ヘルメット被ったのに、めちゃくちゃ痛いじゃないか! お前の頭蓋骨はどうなってるんだ! アダマンチウムでも仕込んでいるのか!」

「小さい頃から毎日、牛乳飲んでたおかげですかね」

 えへへと笑うゴルダードを押しのけ、マチルダとセルゲイがジョルジュの眼前に仁王立ちする。

「そういうわけですので、閣下」

「パラポレ軍事基地へのご出立準備を」

「ヤだね!」

 二人へ心底憎らしい顔を見せ、頭突きによってへこんだヘルメットを被り直し、ジョルジュは床へふて寝する。


 前回もあれだけごねたのだ。こうなることぐらい、マチルダもセルゲイも想定済みだ。

 二人は顔を見合わせてうなずき、まずセルゲイがひざまずく。

「閣下。何やらここ最近、頭髪に白いものが混じられていらっしゃる、と伺いましたが」

「貴様、何故それをっ!」

 真っ青な顔でがばり、とジョルジュが上半身を起こす。ジョルジュに最近白髪が生え始めたことは、彼だけの秘密であったはずなのに。

「こちらにも守秘義務がございますので、情報源は申し上げられませんが……パラポレ地方ドーリ市には、非常に腕のいい美容サロンがございます、という情報でしたらご提供できます」

「なんだと」

「何でもそのサロンには、某俳優や某女優、果ては某貴族も足しげく通われており、皆サロン店主の神業に骨抜きであるとか」

 ぐらり、と心が揺らいだジョルジュへ、続いてマチルダが雑誌片手に囁きかける。

「同じくドーリ市には、美味しいハムを提供されているバーがあるようです。はい、こちらがお店を特集なさったグルメ雑誌でございます」

「ぐぬぬ……」

「何でもバーの店主が、某養豚場と専属契約を結んで作られているハムだとか」

 なまめかしいハムの並んだ写真に、ジョルジュはよだれを思わずこぼしかける。


 ジョルジュの中で、二人のジョルジュが争っていた。

 いわゆる善と悪、すなわち白ジョルジュと黒ジョルジュ。

 黒ジョルジュが、右側からがなり立てる。

「やいジョルジュ! ただでさえ仕事立て込んでんだよ! 無視しちまえ! ハムなんざ、後でこっそり食べに行きゃいいんだよ!」

 白ジョルジュも、左側からがなり立てる。

「行くのですジョルジュ! お国のためです! そして自分へのご褒美で、ハムを食べるのです!」

 白ジョルジュの甲高い声に、ジョルジュ本人は少し傾いた。

 だがすかさず、黒ジョルジュが耳を引っ張って来る。

「忘れたのか! あの生ハム大好きのフランソワ爺さんに、会うたび殴られてることを!」

「ハゥッ!」

 正しくは「会うたびに殴り合い」なのだが、そこはジョルジュ。記憶のねつ造もお手の物だ。


 楽な方へと思いきり気持ちが傾いているのを、秘書官であるマチルダがいち早く見抜いた。

 最終手段を、彼の耳元で炸裂させる。

「こちらのバーに、私も行ってみたいのですが……ぜひ、閣下とご一緒に」

「よし、パラポレ地方へ出動だ!」

 ヘルメットを放り投げ、ジョルジュが立ち上がった。

「新兵どもを中心に、片っ端から連れて行くぞ! 救援活動という実地訓練で、性根を鍛え直してやるのだ!」

「かしこまりました」

 生き生きと輝き始めたジョルジュの指示に、セルゲイが一礼して司令室を去って行く。


 先の大火災とは大違いに張り切りまくるジョルジュと、変わらず優秀なその部下たちは、今回も国民から何だかんだで称賛を受けることなる。

 だが、そんな未来はまだ彼らも知らない。


 そしてジョルジュのお目当てだったハムの店が、火災の影響によって臨時休業していることもまた、今は誰も知らない。

 ジョルジュ閣下の一連の迷惑行動は、ひとまずお開きです。


 今後は拍手お礼に掲載していた小話や、ちょっとした番外編等を時々掲載しようと思いますので、またお暇な時にでも閣下と不愉快な仲間たちにお付き合いいただければ、と思います。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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