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我らが閣下 〜バツイチ中将はハムが好き〜  作者: 依馬 亜連
ジョルジュ閣下と風林の章

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14/27

12:ジョルジュ閣下とカマドウマ

 泥だらけで会議室に現れたジョルジュを、一同はぽかん、と見上げていた。

 四歳児ならいざしらず、四十歳中年が泥だけでいると、言葉では表しにくい不安感があった。

「閣下。制服のままジョルジュ号と遊んではいけない、とあれほど申し上げたじゃありませんか」

 眉間にしわを寄せ、マチルダが第一声を発する。言っている内容はお母さんである。

「本日は新兵の配属を決める日だというのに、今までどちらにいらっしゃったのですか?」

 呆れ声のセルゲイに向けられたのは、殺意みなぎる視線であった。

「……そのクソ新兵どもの仕業だ、クソったれ」

「それは、つまり?」

「クソガキ共が、バカみたいにクソ深い落とし穴をこしらえてたんだよ! ご丁寧に、俺の通り道にいくつもな!」

「うわー。閣下、愛されてますね」

「こんな愛などいらん! そもそも男の愛などクソくらえだ!」

 能天気なゴルダードの感想にも、ジョルジュは吠えた。

「本当に俺を崇め奉っているならば、ハムでも奉納しろ!」

 ジョルジュへ真っ白なタオルを渡し、マチルダがため息をつく。

「軍事基地ではなく、邪教の総本山と思われるのでおやめ下さい。新人さんたちもようやく、この基地に慣れてきたという証拠ではありませんか」


 そう。先月の始めに新兵たちが、このスポケーン国境警備基地にもやってきたのだ。

 首都とは大違いの辺境っぷりに目を見張る者や、国境付近の物々しさに尻込みする者なども沢山いた。

 また、中にはジョルジュ号の立ち上がりパンチを浴びる者や、ゴルダードに気に入られて頭突きを食らう者、うっかりジョルジュのハムを食べて激怒される者もいた。

 いや、ほぼ全員が、いずれかの洗礼を受けていた。

 どの新兵も赴任当初は、右も左も分からぬ迷子状態であったが、一ヶ月かけて基地の雰囲気にも馴染みつつあった。


「そうは言うけどな……穴の中に、イヌのウンコらしきものまで設置されていたんだぞ?」

「え」

 マチルダが一歩退いた。

 ジョルジュはさすがに傷ついた顔を浮かべる。

「踏んでない、踏んでないぞ! 誓って踏んでいない、かろうじて避けた!」

 慌てるジョルジュの手元から、ふわりとタオルが浮き上がった。

 セルゲイの紐魔術に操られたタオルは、遠慮なしにジョルジュの顔面をこすり、制服の表面をはたいていく。

「念のため、ブーツはお脱ぎ下さい」

「踏んでいないと言っているだろ、クソが!」

 などと言いつつちゃっかりブーツを脱いだので、真相は闇の中だ。


「閣下の新人時代に比べれば、この程度のいたずらは児戯でございます」

 ブーツの口を指でつまみつつ、セルゲイは口髭を揺らした。

「閣下の若かりし頃って、どんな感じだったんですか?」

 真っ先に身を乗り出したのはゴルダード。

「ふむ。基本的には、今とさして変わりませんが……」

「ハムが好きなところとか、ですか?」

「ええ。今と変わらず病的でした」

「クソが! 誰が病的だ!」

 仁王立ちするジョルジュを聞き流し、セルゲイは天井をにらんで過去を振り返る。

「ただ……相性の悪い上官殿がいらっしゃったのですが、彼へ執拗にいたずらを繰り返していらっしゃいましたね」

「落とし穴とかですか?」

「いえ。上官殿の制服にカマドウマを仕込まれたり」

「うっ」

 声をもらしたのはマチルダである。彼女は多くの女性と同じく、虫全般に非友好的だ。

「また、枕にカマドウマを仕込まれたり、ピクルスをカマドウマにすり替えられたり……ああ、そういえばブーツにもカマドウマを入れていらっしゃいましたね」

 手にしたブーツを見下ろして付け加えられた言葉に、男性陣も息を飲む。

 ゴルダードも顔をひきつらせて、ジョルジュを怯えた目で見る。

「どうしてそこまで、カマドウマにこだわってたんですか?」

「上官がカマドウマに似ていたので、ムシャクシャしてやった」

 当の本人は開き直り、にやりと笑っている。

 その犯行動機に、マチルダは額を覆った。

「よくクビにならず、今まで生き延びられましたね……」

「というか、よく軍人になろうと思いましたね」

 ゴルダードは首をひねっている。

「閣下ってほら、見学に来た子供たちに好かれてたし、保育士さんとか向いてそうですよね」

 ジョルジュが保育士をしている保育園に子供は預けられない……と言いかけて、セルゲイは寸前で口をつぐんだ。

「あと、カマドウマ専門のペットショップとか」

「クソが! 便所で捕獲できるクソ虫を、誰が買いに来るんだ!」

 ジョルジュが泥をまき散らしてわめく。

「俺の家系は、代々軍人を務めていたんだぞ! 祖父はファフロツキーズ戦争にて鬼将軍と恐れられ、父はベルメス戦争の救世主と呼ばれている!」

 そして当の本人は、ハム狂いのカマドウマ使いである。

「つまり、コネ入隊なんですね?」

「うむ!」

 ゴルダードの躊躇ないあけすけな質問に、ジョルジュは満面の笑みでうなずいた。

 インドネシアへ旅行に行った際、巨大カマドウマと遭遇したのが未だにトラウマです。

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