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我らが閣下 〜バツイチ中将はハムが好き〜  作者: 依馬 亜連
ジョルジュ閣下と風林の章

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12/27

幕間 10.5:ジョルジュ閣下と引き出物

拍手お礼小話を加筆修正いたしました。

10話直後の馬鹿話です。

 ようやく笑いの波が引いたところで、マチルダが涙を拭いながら身を起こす。

「……ところで閣下。ハムのお土産はいただけたのですか?」

 まだ大仏頭を直視するのは厳しいらしく、さり気なく彼の顔面を視界から外していた。

 いつになく目ざとくそれを悟り、ジョルジュは俊敏に視線を追いかけつつ、小さくうなずいた。

「うむ、一応引き出物は貰った」

「一応と、おっしゃいますと?」

「肉絡みではあったのだがな……」

 嫌なことを思い出したらしい。

 秘書への嫌がらせを中断し、突っ立って歯ぎしりする。


 ジョルジュという男は、人生の三分の一をイライラしながら過ごしている。だから不機嫌になった上司にも、周囲は慣れたものだ。


 なお、残りの三分の二は無意味に過ごしている、ともっぱらの評判である。


 ギリギリと歯ぎしりするジョルジュへ、マチルダはいつもの淡白な口調で問いかける。

「では引き出物は、ハムではなかったのでしょうか?」

「そうなのだ! オドレイのクソ小娘め……俺がハム好きだと知っていながら、わざわざベーコンの詰め合わせを押し付けやがったのだ! クソッたれめ! 今まで貴様にやったお小遣いを返せッ!」

 姪のしたり顔を思い出したのだろう。ジョルジュは地団駄を踏んだ。


 そのたびに頭がゆっさゆっさと揺れ動くので、顔を真っ赤に染め上げたセルゲイが、彼の動きを押しとどめた。

「お止め下さい。揺れられますと、我々が持ちません」

「どう持たないのだ。ほれ、具体的に述べてみろ」

「……お分かりでしょう? ところで、閣下はオドレイ様に何かなされたのでは?」

「うん? それはどういう意味だ?」

「姪御のイタズラとはいえ、いささかやり過ぎでは……ウププッ……いえ、失礼いたしました」

 途中でこみ上げた笑いを飲み込みつつ、

「気付かぬ内に、オドレイ様を怒らせたのではないでしょうか」

と続ける。

 この推測に、ジョルジュは少し傷ついた顔になった。

「そんなことはないと思うぞ。あいつはクソガキの時分から、俺にべったりだった。オドレイの父である兄上からも、俺によく懐いている、と太鼓判を貰っていた」

 意外な事実に、一同は揃って目を丸くする。

 再びジョルジュは地団駄を踏んだ。

「なんだその顔は! 司令官の言うことが信じられないのか、クソッたれどもめッ!」

「部下の戯れと思い、どうぞ菩薩のようなお心でお許し下さいませ」

「菩薩と呼ぶなァァッ! セルゲイよ……貴様、俺の頭を……いいや、俺そのものを馬鹿にしているだろ!」

「滅相もございません」

 決して馬鹿にはしていない。ただ、少々軽んじているだけだ。

「それはともかく。閣下、話を戻しましょう」

「うまくごまかしやがったな、貴様」

「恐縮でございます……オドレイ様と親しかったとなられると、数々のイタズラも深い愛情の裏返し、ということでしょうか?」

「そうなのか……いや……待てよ」


 何かを思い出したらしい。顎に指を添え、ジョルジュはしばし考え込む。

 その様がまた仏像的だったので、部下たちは再び小刻みに震えた。

 彼らの挙動に、ジョルジュは眉を潜める。

「お前たち、何を震えてるんだ? 低血糖か?」

「……そのようなところです」

 笑いを空咳でごまかしながら、マチルダが返した。

「そうか、ちゃんと飯を食うのだぞ。オドレイの件で一つ、思い当たる出来事があったんだが」

「どのような出来事でしょう?」

「三年ほど前に、一族郎党でキャンプへ行った時のことだ」

 司令室の面々は真面目な顔で、ジョルジュの言葉に耳を傾ける。

「そこで、色々あってハムの奪い合いになってな……俺は軍で鍛えた脚力を活かし、ハムを抱えてオドレイを振り切った」

 ジョルジュはやや遠い目になる。

 泣きながら追いかけてくるオドレイを置いてけぼりにした、湖畔でのほろ苦い記憶を思い返しているのだ。

「それです、絶対に」

 部下たちは渋い顔で、声を揃えて答えた。

 相手はジョルジュの親族だ。ハムにまつわる恨みであるならば、おそらく死ぬまで覚えているだろう。

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