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我らが閣下 〜バツイチ中将はハムが好き〜  作者: 依馬 亜連
ジョルジュ閣下と風林の章
1/27

1:ジョルジュ閣下と賞味期限

 アゾリス国の、国境地帯に配置された一団を束ねるジョルジュ中将は、変わり者として有名であった。

 まず、いい年をした、きちんとした職に就いている大人であるにもかかわらず、口癖は

「クソが!」

であった。繰り返すが、彼は反抗期の子どもではない。

 毎年税金をコツコツ払い、独りが寂しい夜には飲んだくれ、己の枕の匂いに顔をしかめる、いい年をしたオッサンだ。

 そして、四十にして中将にまで上り詰めた切れ者のはずなのだが、彼は常にカリカリと、何かに苛立っている。圧倒的にCa──カルシウムが不足しているのかもしれない。


 また彼は、ハムをこよなく愛していた。

 それは、隣国のアンゴラ国との小競り合いが長期化した際にも、変わらなかった。

 一つ前の世紀から、飽きもせずにダラダラと続くこの因縁がもたらす災いの火の粉は、国境地帯を越え、他の都市にまで及ぼうとしていた。


「閣下。このままでは両国の主要な市街地まで、戦火に晒される危険性があります」

 彼よりもずっと若いのに妙な迫力のある、美女のマチルダ秘書官が、戦況を読み上げた。そして、指示を仰いだ。

 彼女の美声が届いていないのか。うつむいたまま、ジョルジュは椅子に腰掛けていた。

「閣下、聞いておられますか?」

「ああ、聞いているとも、クソ! クソが!」

 叫んで身をよじり、マチルダに何かを押しつけた。

 彼の朝食に供されたハムが入っていた、ビニールパックである。

「賞味期限の日付を見たまえ。今日なのだ」

「そのようですね」

「だから停戦だ。即時、停戦だ!」


 この宣言に、司令室はざわめく。長い赤毛をかきあげ、マチルダも目をまたたいた。

「ハムと停戦に、どのような因果関係があるのでしょうか?」

「小競り合いが続いていては、ハムを届けてくれる補給路が断たれるだろう? そうしたら俺は、賞味期限の切れた、腐ったハムを食べる羽目になるんだぞ。そんなこと、してたまるか!」

 しかし、と部下たちから声が上がる。

「ここで我らから停戦を申し出れば、向こうを増長させるだけです」

「賞味期限は、少しぐらい過ぎても大丈夫です」

 むっつりと椅子に座ったジョルジュへ、一際大きな声が投げかけられる。

「閣下! あなたにとってハムとわが軍の名誉、どちらが大切なのですか?」

「ハムだ!」

 何の迷いもない、即答であった。もちろん部下からは、あんまり過ぎる上司の回答に、悲鳴や泣き声が上がる。

 一連の発言からも伺えるように、彼は責任能力も判断力も乏しい。ついでに言えば、ボキャブラリーも貧弱である。

 必要以上に持ち合わせているのは、おそらくハムぐらいだろう。


 しかし指令室でハム論争が巻き起こっている最中、前線では変化が起きていた。

 アンゴラ国側から、停戦の打診があったのだ。

 曰く、今回の泥沼長期戦によって、ずいぶん前にアンゴラ国側の補給路は寸断されていたらしい。そして飢えに耐えかね、腐った食料を食べては、食中毒を患う兵士が続出しているとのことであった。

 この粘り勝ちを、後世の人々は「ハムの恵み事件」と呼んだ。

だんだんとハムの字が、ゲシュタルト崩壊して来ました。

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