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深い夢

 大きな机には書類や書きなぐりのメモ、パソコンが広げられている。その机の前にサキチとみさ希は起立していた。

「そんなに硬くならなくてもいい」

 社長の志磨聡、四十歳。頬がこけ、明らかに疲れた顔をしている。夢乃調査室を立ち上げ、3Dシステムの基礎を作り上げた人物。サキチは数えるほどしか会ったことがない。ほぼ、社長ルームか開発室ルームに閉じこもっている。

「今日、君に来てもらったのは他でもない。過去類を見ない深い夢への潜入を行ってもらいたい」

 なんだ、ミッションの話かぁ。志磨の言葉を聞いてサキチはホッとした。てっきり怒られたりするものと思っていたからだ。普段のミッションであれば事前に資料をもらう程度だが、今回はどうも勝手が違う。社長を前にしているせいか、みさ希さんも緊張しているみたいだな。

「林原班長にダイバーの選出を頼んだところ、君の名前があがり、今こうやって話をさせてもらっている。次のミッションは十年以上昔の記憶、正確には十七年前に遡る。一度や二度のダイブでは記憶をリコールすることはできないと思う。さらに、想定外の危険がダイバーに迫るかもしれない。万全を期すためにダイバー選出とともに柔軟な連携のできる精鋭のチームを結成したい。サキチ君、君にそのチームのダイバーをお願いしたいのだが……。どうだろうか?」

 ――。

 ――。

 ――。

 ――十年以上の記憶だって? 俺がダイブした深い夢はせいぜい八年前が一番深い。いきなり十年越えかよ……。社長が頼み出るほどの深い夢だ。単に深い夢というわけじゃない、絶対。

「もし、ここで俺が断ったら……?」

「第二候補者にお願いをするつもりだ。ただ、第二候補者もダイバー経験としては君とさほど変わらない。ハル・レゾナンツの高さと安定性を見る限り、ミッションクリアできる可能性はサキチ君の方が高い」

 ――。

 ――。

 ――。

 サキチはチラっとみさ希を見た。すぐにみさ希と目線が重なる。

「無理強いはしない。けれど、正直、私はサキチ君以外にミッションクリアできないと思っています」

 ――なんだろう、この過大評価は。

 ――期待されている……。

 ――こういう状況を待ち望んでいなかったといえば嘘になる。

 ――直面してわかったよ。

 ――重い。

「このミッションの依頼者は、私の知り合いの女性なんだ。私情を持ち込んで申し訳ないが、過去を引きづる彼女の錘を解き放って欲しい。苦しんでいる彼女を、この通り、救って欲しい。お願いだ」

 志磨は立ち上がり、深々頭を下げた。

 ――期待値はふっ切れて、強迫観念さえ覚える。これじゃ強制だ。

 ――本当の期待って。

 ――。

「わかりました。そのミッションのダイバーを引き受けます」

 よし、俺は言った。

「本当か」

「はい。記憶を取り戻すことで、その人が先に進むことができるなら、なおのことです」

 思わずピナ理論を言い放ってしまったが、本当のところ、そこに嘘はない。もし、今、この年でしかできないことがあるならやっておきたいと付け加えて言っていたら、あとあと俺は後悔していただろう。

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