1章 4
廊下をズルズルと引きずられ連れて来られた先は少し広めの部屋だった
扉の真正面に大きなディスプレーがある、そのすぐ横にはテーブルを囲むようにソファがおいてあって、さらにその正面、扉から見て左側にはバーカウンターを挟んで向かい側に沢山の酒をしまった棚がある
ぱっと見洒落たバーみたいだった
そして部屋の所々に人がいてこちらを見ている
「おいおい、なんで人質くんが簀巻きにされてるわけ?」
その中でソファに座ってグラスを弄んでいたお姉さんが青年に問いかけた
「仕方ないじゃないッスか、反抗して言うこと聞かなかったんスから!!
てか、那草さんが説明してなかったからこんなことになったんスよ!?」
はぁ?と首を傾げるお姉さん
「そんなはずはないぞ、なんせ搬送する途中にしこたま説明をしたはずだが…?
あぁ、そうかそういえばあの時は首を落としてたんだったな!!すまない、ならば分かるわけもないか」
呆れた顔をしながら青年は俺を椅子に座らす
できればこの縄も解いてほしい、てか解け
「はぁー…ならもう一度説明してあげてくださいッス」
「あー…嫌だ、面倒だから」
「いや、そんな事言わないで下さいッスよ」
「なら…『やる気しない、面倒だから金取るぞ』
ほら、言葉変えてやったぞ」
「いや、そういうことじゃなくて…」
「残念ながら私は同じ事を二度説明すると蕁麻疹が出るんだ」
「要は嫌なんじゃないッスか!!
いいッスよ俺が説明しますから」
すると、奥の扉が開いた
「うーす。本日もお仕事頑張れやーい。あー…ねーむい」
入ってきたのはまるで絵に描いたようなオッサンだった
上はダルダルのTシャツで下もダルダルのジャージ、ひげは生えっぱなし髪はボサボサ
見るからに生活に溢れたオッサンだった
「あ、局長良いところに…ってなんスかその格好!!」
局長なのかよっ!!
「髪はボサボサ髭ボーボー…本当、こんなのが私達を引っ張ってきた奴だなんて信じられないな」
お姉さんが蔑むような目でオッサンを睨む
「お~怖い怖い。那草ちゃんに睨まれて局長様は目が醒めちゃったよ
てか、そこはこうさ『ネクタイ曲がってますよ』ってさ」
「わー本当だーネクタイ緩んでますねー」
と言ってオッサンのネクタイ(首)をきつく締める
「あごっ!!か…!!な…那草ちゃん!!ギブ!!ギブだって!!」
オッサンがタップするとお姉さん…いや、那草さんが手を離す
にしても…
「ひっどいなぁ…那草ちゃんは…まぁいいや、おーい、玄さんウォッカくんない?え?駄目?」
いつまで…
「いいじゃんよー。ね?一杯!一杯だけだから!」
いつまで…
「いつまで俺を放置するんだよこの野郎ぉぉぉ!!」
全員がこちらを向く
「こっちはいつまで簀巻きにされたままこんな茶番劇を見なきゃ行けねえんだよ!!嫌がらせか!?苛めか!?ふざけんじゃねぇ!!」
今気がついたのかオッサンは驚いたように俺を見た後、青年に
「誰?こいつ」
ふざけんな!!
「局長が連れてこいっていったんじゃないッスか」
と青年に言われ
「あーあーあー、はいはいはい君が、えーと…さ……なんとかなんとか君」
連れて来た張本人のくせに、名前も覚えていやがらねぇ!!
「坂波秋耶だよ!!
てめぇ…何のために俺を攫った!!」
「そうそう、坂波秋耶君だよ。
えーとだね、面倒臭いから手短に言わせて貰うとね」
オッサンは少し間を空けてから
「君は今日から我らN.C.Sの一員になってもらう」
…………は?
「そりゃ…どういう事だ?」
意味が分からない
オッサンの唐突すぎる告白に混乱する
「あ~、局長…それなんスけど…
まだ、一つも説明してないんスよ…」
「おいおい、なんだそりゃ。
那草ちゃん…説明しておいてって言ったじゃん」
「あたしは説明したよ
人質くんが聞いてないってだけだよ」
オイ、那草テメェ
だが、状況が把握できない事には変わりはなく、仕方なくそういう事にしておいた
「でだ、何から説明したもんか…
ひとまず君に関係する事から説明しようか」
と、オッサンは説明を始める
「まず、初めに…君はバイオチルドレンは知っているかな?」
「あぁ、確か昔廃止された研究の産物だったか?」
「まぁ、だいたいあってるな
<Project B.C>またの名を<バイオチルドレン計画>
どんな物かと言えば、被検体である受精卵の遺伝子や細胞を弄くって強力な人間を作ろうって計画で…」
要は人体実験だ
来るべき戦乱の世界に備え生物兵器を作って対抗する戦力を産み出す計画
最初の内は順調に進んでいた
特殊な力を持った人間が次々産まれたらしい
旧政府もそれに協力したらしく、特殊な力を持った人間に対しての疎外、イジメなどで被検体に精神的ダメージを無くすために法律まで新設したとか
そこまではうまく行っていた
だが、ある年を境にプロジェクトは破綻していった
その年、研究所で事故が起こり被検体である受精卵を全滅させてしまった
その年に支給された国からの補助金は各段に減り、次の年の被検体を減らさざるを得なかった
そこから段々と赤字が増えていき遂には廃止
その時生きていた2万6000人のバイオチルドレンはプロジェクトの保護を一切失い、生きるため各地へ散った
「で?そのバイオチルドレンが何なんだ?」
「ここまで話してだいたい分からないか?
お前がそのバイオチルドレンなんだよ」
「…………」
「なんだ?自覚してなかったのか?」
「いや………」
自覚はあった
赤朱団に入って二回目のミッションで俺は一度死んでいるはずだった
だが、気がついた頃には戦闘区域に一人で突っ立っていた
全滅した部隊の屍を踏みながら
「さて、ここからが本題だ」
オッサンが俺の意識を引き戻す
「バイオチルドレンは生物兵器だが、あくまでも生物だ斬られれば血を流すし頭を吹き飛ばされれば死ぬ
だが、お前はちょっと違う」
あぁ、知ってるよ
「俺は死なないんだろ?」
オッサンはニヤニヤしながら「そのとおりだ」と続けた
「正確には少し違うがな。
お前は自らの『死』を否定し続ける限り、自分への『死』という現実をねじ曲げ消し去ることができる
なんとも、都合のいい力だか」
俺も望んだ覚えはねぇよ
「そしてこんな世の中だ、その力は当然どこの国でも喉から手どころか全身が飛び出るくらい欲しがるし、確保するために血眼になってお前を探す
だから、我々N.C.Sは君を保護の意味もかねて隊員としてスカウトしようと思うんだ」
「それは俺にどんなメリットがある?」
「絶対見つからないように匿ってやる
情報のひとかけらも漏らさないことを約束しよう」
「見返りは?」
「我々の仕事を手伝って貰う…
っと、そこも説明する必要があったな」
そこで、オッサンは煙草を取り出して火を付けた
「我々は簡単に言えば傭兵の集まり見たいなものだ
Not.color.Soldiers略してN.C.S。どこの軍からも依頼を受けてこなす、存在を確認されてない影で生きる存在さ」
「どの軍からも依頼を受けてるんだろ?
それなら存在を知られるんじゃないか?」
「我々は依頼を受ける際、情報工作員を経由している
実際はN.C.Sとしての繋がりがあるが、各軍の書類上では全く繋がりの無い寄せ集めの傭兵となっている」
オッサンは煙を吐いて続ける
「そして、軍が我々に依頼する仕事は軍が表に出せない裏の仕事ばかりだ
故に軍の人間と共に行動する事はない」
なるほど、つまり自分の手を汚したくない奴らの尻拭いをさせられる訳で
お偉いさんは傭兵を集めて後は知らんぷりって事か
「N.C.S本部からの仕事もあるが、これも正直代わりはない
さて、説明はここまでだ」
オッサンは二本目の煙草を吸い始める
「さて、お前は我々に付いてくるか?」
「まず、この縄を解いてくれ」
オッサンは青年に解いてやるように命令し、青年は縄を解く
と同時に手をナイフに見立てて首を切る要領でオッサンの首に当てる
「俺が今、本物でこんな事をしたらどうなってた?」
だが、オッサンは身じろぎ一つせず、ニヤニヤ笑いながら
「へ~え、お前は騙し討ちだとかそういう汚い手段を好むのか」
「残念ながら、正攻法は性に合わないんでね
で?これであんたの首を取ったらどうなった?」
「そりゃあ、首が飛んださ…お互いな」
そう言ってオッサンは視線を下ろす
丁度、俺の首あたりにはよく手入れの行き届いた刀が置かれていた
お互いにとはそういう意味か…俺がオッサンの首を落とすために後一歩踏み込んでいたら容赦なく俺の首を分断しただろう
それだけではない、頸動脈あたりにナイフが触れていたり奥の方で青年が銃構えてたり玄さんが投げナイフ構えてたり
今現実、どれをどう回避しても回避しきれない状況だった
「でも、俺は首を落としても死なないんだろ?
結局、俺はあんたを殺れた」
「だな、だがそうなったら次に目が覚めるのは手足を縛られたベットの上で怖い怖い人間惨殺ショーが始まるな」
「それは、ごめん被りたいな」
手を降ろすと俺に向けれていた四つの殺気も消えていった
にしても本物を出すのは駄目だろう…俺はあくまでそういうフリなんだから
「で?どうする」
オッサンが迫ってきた
「我々に匿って貰うか、殺人ショーに参加するか…それとも世界中の全軍隊から逃げ続けるか?」
オッサンは相変わらずニヤついている
「おいおい、それだと選択じゃなくて脅迫だぜ?オッサン
いいぜ、その話乗ってやるよ」
こうして俺はN.C.Sの一員となった