第2話:名前が3話目で判明する主人公って、たぶんこれだけ
「えっと、君、たしかラッセルク君だった…よね。昨日は、ありがとう」
彼に、眼鏡をかけたボサボサ頭の青年が声をかけてきた。
彼はそれにダルそうに彼の方へ顔を向けた。
「あー、誰?」
「いや、僕だよ僕! ほら、この前オークを召喚しちゃったジミーだよ」
「おいラッセル、授業始まるぞー。 あれ、君誰?」
「先生、ジミですよジミ。 あの目立たない地味ですよ」
「ジミじゃねえし、ジミーだし!」
彼ら二人が一人の少年をからかっていると、突如、空を矢のような光で埋め尽した。
大地に穴でも開けるのかとでもいうように激しく降る矢。 それに慌てるジミー。
そして彼等がとった行動は、ラッセルクが頭を、アルテウスが足を掴み彼を盾にした。
もっとも彼らは防御魔法で守っていたので、ジミーは無駄死にだ。
無数の肉片と血しぶき、そして彼の断末魔とラッセルクの笑い声…。
そして動かなくなったジミーをそこらへ捨て、矢の降って来た方を注意深く見る。
しかし、視力はそんなによくない。 両目合わせて0.5くらいだ。
だが、動く人影を見つけたのでとりあえず死霊をそこへ向かわせる事にした。 猫などの動物でない事を願うばかりだ。
「おい、ホドホドにしとけよ」
「了解!」
「ちょ、君待っ━━━━━」
どうやら、偶然そこへ居合わせた青年が犠牲になったようだ。
少し謝罪(もっとも、「あーすまんすまん」といった軽いものだが…)しつつ、矢を打ってきた標的を探す。
《おい、其処らの生徒達が犠牲になってるぞおい。 あ、ちょっペルセポネ、それ以上デスソース入れちゃあかん! つうかデスソースなんかどっから持ってきた!?》
《合田から貰った(キリッ)》
《キリッじゃねえよ!》
冥界も冥界で、いろいろと大変なようだ。 もっとも、ラッセルクは凄く楽しそうだが…。
そしてアルテウスは、始末書めんどいとでも言いたそうな目をラッセルクへ向けている。
「うし、俺はパチ行ってくるからあとよろ」
「競馬にしとけ。 つうか金あんのか?」
「さっき死体からぱくった(キリッ)」
「キリッじゃねえよ!」
ラッセルクが勢いよく、アルテウスが乗った原付を蹴り飛ばした。
そして坂道に差し掛かり、アルテウスが乗ったは勢いよく加速し、湖に勢いよく突っ込んだ。
「・・・あれ、また来てる様な・・・?」
また、空を埋め尽くす光の矢。 近くに壁は無い。
そして穴だらけの死体しかない。 よって、彼を守る物は何もない。
「我以外を守り、他を傷つけし壁よ。 我が前に現れよ! 強酸の壁!」
彼の目の前に、まるで水のような壁が現れる。
だが、その壁に刺さった矢は、まるで氷を鉄板で焼いた時のように蒸気を出し、消滅してしまった。
そして、彼の周りに咲いていた花はすべて彼のせいで消えてしまった。
そして彼の隣から、手に炎を宿した青年が殴り掛かってきた。
「くたばれ!」
「アァ? あー、お前死ぬぞ?」
「へ? 手、手があああああ!!」
ラッセルクはしっかりと、詠唱に「他を傷つけし」と言っていたのを、赤い髪の彼は聞いてなかったようだ。
そしてラッセルクは思った。 こいつ、ただのバカだ。 と。
「で、何の用だ糞ガキ。 つうかハデス、どうなってんだこれ」
《・・・ああ、そういえば世界創るのめんどいからもうあった世界に送り込んだんだったな。 いやー、すまそすまそ》
「うしケルちゃん、そこに居たらハデスを噛み千切れ」
《あ、ちょっケルちゃん待っ・・・!》
冥界では、ハデスとケルベロスの追いかけっこが始まったようだ。
その光景を想像し、ラッセルクは少し頬を緩ませた。
「で、何の用だ?」
「テメェが俺のダチを殺した、だからテメェをぶっ殺す!」
それを聞いてラッセルクは、悪魔のように笑った。
友の為に、友の敵の為に戦うなど彼にはただのバカバカしい光景にしか見えない。
そして彼が笑ったのに腹を立てたのか、赤髪の青年は右手に炎を宿し、ラッセルクに殴り掛かった。
それをラッセルクは奇妙な魔術で受け止め、いつも持ち歩いている斧を大きく振り上げた。
その斧には、奇妙なほど大きな、まるで血のように赤い宝石のようなものが埋め込まれていた。
どこにそんな力があるのかと聞きたいが、よく見ると彼の斧には軽量の術式がかかっている。
軽量の魔術とは、その名の通り物を軽量化する魔術である。
この世界ではこの術式のおかげで、幼稚園児でもテレビを持ち上げる事が出来るのだ。
もっとも、ラッセルクの持つ斧を幼稚園児が持ち上げる事は出来ないであろう。
何故なら、この術式は体内の死者の魂を食べて発動するからだ。
これにより、盗難防止をしていると彼、ラッセルクは語る。
「さぁて、まずは腕を切り落とすぞ!」
「ひ、や、助け━━━━━」
彼の持つ斧が赤髪の青年の腕に当たる直前、空から3度目の光の矢が降り注ぐ。
そして彼は、赤髪の青年を盾にすることを決めた。
一時的に自身の力を強化する魔法をかけ、何のためらいもなく青を盾にした
何故青年を盾にしたかと言うと、、斧を盾にしたら斧が使えなくなってしまうからだ。
それには血のように赤い宝石が関係しているのだが、今は関係無いので省略させてもらおう。
「おろ? 生きてるし…しぶてぇなテメェは!」
「る、ルル。 助けてくれ」
「戦場で女の名前を口にするのはなァ、死にかけの兵士が甘えで言う言葉なんだよォ!」
ラッセルクは赤髪の青年の頭を掴み、力を籠め、握りつぶそうと思った。
だが、握りつぶす直前に何処からか飛んで来た矢に当たり、彼の頭を離してしまった。
「光の矢…おいハデス、これはなんという魔法だ?」
《ん、ああ。 それは具現化魔法だ。 だがあの量の矢を創ろうと思ったら並大抵の魔力は必要だぞ?》
具現化魔法とは、物を0から創り、役目を終えると再び0に戻るといった魔法だ。
元々は矢を節約するために創りだされた魔法だが、今や科学の力によってお役御免となってしまった魔法。
だが、それ相応の人間が使えばそれはもう無敵の力を得られる…らしい。
「…なにしてんのサラマンダー、その程度の人間にやられちゃうなんてさ」
「こいつの魔力、超馬鹿デカいぞ! あんなのに勝てる訳ないって!」
「何言ってんの、私達は神と契約しているのよ? あいつも同じように神と契約した人間なら、あんたと魔力なんて変わんないでしょ」
どうやら赤髪の青年の名は、サラマンダーと言うようだ。
ちなみにサラマンダーとは、四大元素を司る精霊のうち、火を司るもの。手に乗る位の小さなトカゲもしくはドラゴンのような姿をしており、燃える炎の中や溶岩の中に住んでいる。サラマンデル、サラマンドラとも呼ばれている。
サラマンダーの毛は燃えないらしい。 事実、ラッセルクも何度か売られているのを見た事はある。
「本当に変わらないと思っているのか?」
「当たり前じゃない、魔力が努力で増えるのはほんの微量。 しかもその微量を増やす為に4年も修行しなきゃいけないのよ?
見たところ、あんたもデカい魔力の家系に生まれたっぽいけど、それなら普通は変わらない筈よ」
「なら教えてやるよ。 俺の生まれの不幸って奴をよォ!」
彼は狂ったように笑いながら、彼がこれまでどんな生活をしてきたかを全て話した。
そしてそれを語る彼は、凄く楽しそうだった。
「俺は生まれた瞬間は、一般の屑と同じ程度の魔力だった。
勿論俺もお前らと同じ、元々の魔力の高い血筋に生まれた人間だ。
そして、生まれついての契約者だったが、子孫にそれが受け継がれることは無い。 お前らも中学の頃習ったろ?
つまり、俺は魔力の高い子孫を残す事は出来なかったんだ。
だが、テメェ等も知ってるだろう? 死者を食べれば、その者の魔力の半分を手に入れる事が出来る」
「だ、だけどそれは魔導違反法第23条で禁止されてる筈!」
「そう、だから俺の親達は捕まってしまった。 そして人間の味を覚えた俺は、更なる美味を求めて小さなギルドを一つ潰した。
昔ニュースで報道されてただろう? ギルドの人間がみんな肉片に代わってたってニュース。
それ、俺がやったんだよ。 俺は考えた、生きた人間を食べればその魔力を全て手に入れられる…とな」
「あんた、もう最十級犯罪者ね」
「むっちゃ不味かったぞ。 あの骨が喉に…あ、でも生きた人間は瑞々しくて美味かったな」
サラマンダーは口を押えている。 吐き気を我慢しているようだ。
もっとも、ルルも眉を上げているが…。 まあ、聞いていていい気はしないであろう。
「そこまでして、魔力が欲しいのか?」
「いや、ぶっちゃけて言うと人肉がどんな味か気になった(キリッ)」
「・・・思い出したわ。 貴方、たしか前世で強酸で生徒2人を殺したって事件の犯人…確か名前は、合田。 だったかしら?」
「良く知ってるな。 そう、俺は悪魔も恐れるド外道、合田さんだぜ」
「私はあんたのせいで虐められ、そして自殺してこの世界に来た。 貴方のせいで…貴方を、殺す!」
ルルが踏み込み、ラッセルクの首を狙い、思い切り斬りつけた。
どうやら契約を変えたようだ。
契約は一人に付き基本、1体のみ…。 だが稀に、多重契約ができる人間が居たりする。
どうやら彼女も、その多重契約者のようだ。
そして、ラッセルクの首が落ちた…ように見えた。
そう、一瞬のうちにそこらの死体を盾にし、攻撃をしのいだのだ。
「そいつ、まだ息があったんだぞ! それを貴様…!」
「テメェが斬ったんだ、テメェのせいだよ。 そして赤髪、テメェはもう死んどけ」
「あ、後は頼んだぞルル!」
ラッセルクの腕から黒い衝撃が走り、サラマンダーの前に落ちた。
その衝撃が当たった場所は、全ての草が枯れてしまった。
「…はあ、やっぱ使えない男」
「ガキに何求めてんだテメェ。 ああそうそう、頭上注意な」
「へ?」
ルルの頭上から、大量の臓器が降り注ぐ。
そしてラッセルクは思った、嫌がらせ最高と…。
「貴様、ドSだろ?」
「残念、ただの外道さ」
地面には無数の臓器が落ちている。
それをラッセルクは踏み潰す。 その行為に、特に理由は無い。
「これはこれまで殺した人間の数だ。 もっとも、23人目からは数えてないから何人殺したかは忘れたが…」
《ちょ、ルルこれヤバいって! 逃げようよ、ねっ?》
そう、彼は召喚術式を始めようとしている。
アルテミスはその時の邪気を感じ取り、逃げようと指示したのだろう。
だが勿論、彼女がその指示を聞くはずもない。 何故なら、自分を殺した人間が目の前に居るのだから…。
「貴方、何人殺したか分からないって言うの?」
「では聞こう、貴様はこれまで食べたパンの枚数を覚えているか?」
その答えを聞いた瞬間、彼女はラッセルクに向かって思い切り剣を薙ぎ払った。
ラッセルクの胴体に当たる瞬間、彼を黒い光が包みこむ…。
「降臨魔術、ルシファー」
「グ、キャアアアアアア!!」
彼女は勢いよく吹っ飛ばされ、木に激突しその勢いを失った。
勿論、落ちた先には死体が転がっている。
彼はそれを楽しそうに眺め、教室へ向かった。
今回、彼の気まぐれで死んだ人間の数は約100人。 彼の罪が、また増えた。
そこには、機械と妙な魔方陣、そしてその部屋の真ん中に座っている人間と、秘書のような眼鏡をかけた少女が居た。
そして彼女の報告により、彼はおかしそうに笑った。
「何を笑っているのですか? 彼が今日殺したモルモットの数は100。 これは全生徒の2.4%も減ってしまったのですよ!?」
「良いではないか、たったそれだけの被害で済んだんだ。 私はもっと被害が出ると思ったがね」
彼の声は、天使の声のようにも聞こえ悪魔の声のようにも聞こえた。
そして、そこに座っている人間が席を立ち、彼女にこう告げた。
「次は期待してると彼に伝えておいてくれ。 彼、ラッセルク=シアンに…」
「…理解しかねます、理事長。 何故、あのような殺人者をこの学園へ?」
「簡単だ。 生き残るには強くならなければならない。 なら魔法を知らなければならなくなる。
そうすると、自然と魔法の知識を得るようになる。 そして、大きすぎる力を持ったところで困る事は無かろう。
この学園は、もはやほぼ無法地帯なんだから」
「そうしたのは、彼の為なのでしょう?」
ばれたか、とでもいうような笑顔を彼女に向け、彼は部屋の扉に手を掛けた。
何処へ行くのか、彼女は気になったので彼に付いて行くことにした。
勿論、その後惨劇を知る事にろうとはこの時、彼女は思いもしなかっただろう。
お気に入り登録数0は不味い、誰か登録してくれ!
と、心の中心で叫ぶナムです。
さて、今回は少し暴走しすぎました。
いやー、書いてて面白かったですわ。 やっぱ書きやすいですね、残虐表現ありって。
さて、とりあえず主人公の名前の由来でも書きましょうか。
ラッセルクはインドの4大毒蛇の一つ、ラッセルクサリヘビが由来です。
そしてファミリーネームのシアンは、無機化合物という毒の種類の一つ、シアン化ナトリウムが由来です。
もっとも、コレを覚えていても何も得はしないでしょうが…。
まあ、毒の種類とか毒蛇の種類とかを自慢したい場合、彼の名前の由来を検索してみればいいと思います。 まあ、そんな人は居ないでしょうが…。