精霊たちの戦い
木の精霊ディーアは大木の姿に変化すると、その枝をケンジに向けて伸ばした。ケンジは慌ててその枝を避ける。さっきまで味方だった木の精霊レンはディーアとなり、ケンジに攻撃を仕掛けていた。
「いいぞ、ディーア!」
ルドゥルは楽しげに笑った。その横に土の精霊ルガーは無言で立っている。
「さあ、ルガーよ。水の精霊の契約も解くのだ!」
「誰がアナタの精霊になるものですか!」
水の精霊アクアは氷の槍をルドゥルに向けて投げた。ルガーはルドゥルの前に立つとその氷の槍を破壊する。
「アクア!」
ルガーの黒い炎がアクアを襲う。しかし、アクアはぎりぎりでルガーが放った黒い炎をかわした。
「油断できないわね」
ケンジはアクアが避けたのを見たほっとしたが、状況が思わしくないことはわかっていた。
レン……いやディーアを傷つけたくない……。
ケンジはディーアが次々と繰り出す攻撃をただ避けることしかできなかった。しかし、体力に限界があり、徐々にディーアの木の枝が体をかするようになっていた。
「べノイ!ケンジの元に戻らなければ。木があの魔族に奪われました。このままではケンジが危ないですわ」
金の精霊カリンが珍しく焦った様子で言った。
「なんだって?!レンが契約解除されたのか!」
「カリン、お願い。ケンジのところへ飛んで」
カリンの言葉を聞いたユリは顔色を変え、反射的に懇願する。
「狐……。お前を信用していいんだな」
べノイはユリを安心させるようにその頭を優しく撫でた後、ナジブに視線を向ける。
「心配しなくてもいい。俺はウェルザを傷つけるようなことはしない」
「その言葉、信用するぜ。ウェルザ、その狐野郎。信用してもいいんだな」
「うん」
ウェルザは迷うことなく返事をした。
「おし、ユリ、ケンジのところへ戻るぜ。カリン頼む」
カリンは頷くと光となり、べノイとユリを包むとその場から消えた。墓場は光を失い、再び暗さを取り戻した。
「さあ、行こう。俺が家まで送り届けるから」
ナジブは安心させるように微笑むとウェルザの手をとった。
「ナジブ……」
ウェルザはナジブの手を握り返して微笑み返した。
ケンジの目の前に光の壁が現れ、ディーアの攻撃からケンジを守った。そしてその後ろにべノイたちが現れる。
「ケンジ!」
ユリはケンジに抱きついた。ケンジは少し顔を赤らめながらもユリを抱きしめた。
「おや、金の精霊がもどってきたようだな。水の精霊と金の精霊、渡してもらうぞ」
ルドゥルがそう言うとルガーは黒い炎を作りだした。
「あれに当たると契約解除されるんだ!」
ケンジはユリから離れるとルガーが放った黒い炎に向けて水の剣を振り切った。大量の水が剣から発生し、炎を飲み込もうとしたが、炎に水が触れた瞬間、水が消滅した。
「魔法を無効にする力か!」
ケンジは水の剣を構えるとその黒い炎を叩き切った。炎は二つに割れ消滅した。
「その炎には物理的攻撃しか効かないってことだな」
べノイは金の剣を構えて不敵に笑った。
「べノイ、ウェルザは、ウェルザは無事なの?」
ケンジは新たな攻撃に備え、剣を両手で握り直しながら聞いた。ユリはその横で火の弓を構えている。
「ああ、ウェルザは無事だ。安心しろ」
べノイは答えながら目の前の大木を見つめた。大木ディーアの前には金の精霊カリンが光の壁をつくり、攻撃がこちらに届かないように防いでいた。
「レンが奪われたのか」
べノイの言葉にケンジがうなずいた。
「あいつの支配下になるなんてごめんだわ」
アクアが顔を強張らせながらケンジの横で氷の槍を構えていた。
「また来た!アクア」
ケンジはアクアの前に立ち、黒い炎を断ち切った。アクアは氷の槍をルガーに投げる。ルガーは手に黒い炎を発生させ、氷の槍を消滅させた。ユリはその隙をみて、ルガーに炎の矢を放つ。ルガーは片手を地面につくと、土の壁を作り、矢を防いだ。べノイが間髪いれず、その横のルドゥルに金の剣を振り下ろす。
「甘い!」
ルドゥルは剣を木の杖で受け止めるとその杖先をべノイに向けた。
「ホンエン!」
木の杖から発生した炎がべノイに襲い掛かる。アクアはそれに水を浴びせ、べノイに炎が当たる直前に凍らせて破壊した。