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南国の魔法  作者: ありま氷炎
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カナエの想い

「上杉、待ってよ」

 タカオがそう呼ぶのをカナエは無視をして歩いていた。


 高校に入った時からカナエは彼が苦手だった。


 なぜ苦手がカナエ自身もわかっていなかった。

 ただ同じ空間に二人でいると息が苦しくなった。


「上杉、今日は(空手)部長の送別会だから。参加しないとだめだよ」

 タカオはそう言ってカナエの腕を掴んで強引に送別会の会場へ連れていく。

 掴まれた腕は痛くないはずなのに、なぜか痛んだ。


 不思議な痛みの正体はそれから1年後の高校2年の時にわかった。


 ゴミ箱のごみを捨てるために焼却炉に行くと途中、カナエはタカオが同級生の子にキスをするのを見た。


 誰も来ないと思っていたのか、それは大胆なキスだった。


 タカオの手が女の子の胸に触れるのが見えた。


 カナエは思わずゴミ箱を落とす。

 するとタカオがこっちを見て、少し驚いたような顔をした後、猫のように目を細くして笑った。


 カナエはゴミ箱を拾うと走り出した。


「上杉、見てたの?」

 教室で一人残っていたカナエに武田はそう話しかけた。

 体から甘い香水の香りがした。


 カナエはタカオの問いに答えず、ただ机の横に置いてあった鞄を取って、教室から出ようとする。


 するとタカオは強引にカナエの腕を掴み引きよせ、その唇に自分の唇を重ねた。


「今日のこと誰にも言わないでね」

 そしてタカオはカナエの耳元でそう囁いた。


 カナエはタカオの顔を鞄で殴ると、そのまま廊下へ走り出た。

 顔が真っ赤に染まるがわかった。



「……主任、上杉主任」

 目を開けるとケンジの顔が見えた。

「上杉さん、聞いてくださいよ。あのおばちゃん、このか弱い私に皿洗いやら掃除をさせるんですよ!」

 隣でユリが唇を尖らしてそう不満を述べる。


 その姿はとてもかわいらしく、ケンジはそんなユリの姿を目を輝かして見ていた。


 カナエはケンジのユリへの淡い恋心がわかっていた。

 しかしそれはまるで自分の苦い思い出のようだった。


「でもそのおかげで今日は見てください!」

 ケンジは嬉しそうに大きな皿を持って見せる。その皿には鶏の丸焼きやパン、果物が乗っていた。

「これって、山元くんが作ったの?」

 ユリは疑わしそうにケンジを見た。

「半分はね。さあ、上杉主任食べましょう。僕はらぺこです。」

「そうだね。ご飯にしよう」

「あ、私お皿とってきますね」

 ユリはそう言ってお皿を取るためにに宿の奥へ消える。

「上杉主任、明日はいよいよ奇跡の星の情報収集ですね」

 ケンジがカナエを慰めようとしてか、そんなことを言った。

「そうだね」

 カナエがケンジに笑いかけると、ユリがちょうど戻ってきた。

「ケンジくん、上杉さんに近づかないでよね」

 ユリはケンジを睨むと皿を、配り始めた。

「じゃ、上杉主任、お先にどうぞ」

 会社の上下関係をこの世界にきても気にするのもおかしな気もするが、ケンジはそう言ってよく焼けた鶏のもも肉をカナエの皿にとりわけた。

「山元くん、私にもちょうだい」


 僕のチキンが…… しょうがないな。


 ケンジはユリには勝てないと、もう一方の鶏のもも肉をユリの皿に取り分ける。

 そして自分の皿には鶏の胸の部分を入れると食べ始めた。

「ちょっと、いただきますは?」

 ユリはそう文句言いながらも、お腹がすいてるのか食べ始めた。

 カナエはそんな二人の様子を見ながらも、武田のことを考えられずにはいられなかった。



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