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南国の魔法  作者: ありま氷炎
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土の精霊ルガー

「ごほっつ」

 ルドゥルから解放されたウェルザは、息を吸いこもうとして咳き込んだ。首の周りには掴まれた跡が赤く残っている。

 ルドゥルはウェルザを一瞥した後、奥へ歩いていった。

 そこはどこかの地下だった。部屋の中では焼け焦げた匂いが漂っており、周りにあるすべてのものは焼けて黒くなっていた。ウェルザは逃げ道を探したが周りはただ黒く焦げたレンガで囲まれており、出口のような場所は見つからなかった。

「!」

 ふいに肩を掴まれた。振り向くとそこには数時間前、サミーに化けて自分を脅した人狐がいた。人狐――ナジブはウェルザが悲鳴を上げないように口を押さえた。

「乱暴しないから。静かに」

 ナジブの穏やかな声とその眼差しにウェルザは抵抗をするのをやめた。

「あの時はすまない。君を守りたかったんだ」

 ナジブの瞳は悲しげでウェルザはその瞳に吸い込まれるような気持ちがした。自分をじっと見つめるウェルザの口からナジブは手を放した。

「君を外に逃がす。俺についてきて」

 そう言うとナジブはレンガの一部に触れた。すると音がしてレンガ動き、通路が現れた。

「行こう」

 ナジブは微笑みかけるとウェルザに手を差し出した。ウェルザは恐る恐るその手を掴み、二人は通路に向かって歩き出した。



「ティーカ」

 ルドゥルがそう言うと黒光りする石が光を放った。そして光は人型になった。褐色の肌に長い黒髪のたくましい肢体を持つ男が現れる。

「お前が土の精霊だな」

 ルドゥルの問いに土の精霊は何も答えなかった。ただその黒い瞳をルドゥルに向けていた。その視線はルドゥルを憐れんでいるようで不快にさせた。

「まあ、いい。お前に名を授けよう。わしの父ルガーの名を!」

 ルドゥルがそう言うと、土の精霊が砂と化して宙に散った。そして砂煙となり渦を巻き、中心から光が放たれる。光は人の形となり、砂煙が全て吸い込まれていく。

 静寂が訪れ、その場に現れた人影。それはがっちりとした褐色の肉体に短い黒髪を持つ青年だった。

 ルドゥルは土の精霊ルガーの姿を見ると満足そうに微笑んだ。

「ルガー。わしと共に精霊たちを契約から解き放ち、5つの精霊すべてを手中に収めるのだ」




「あ、あなた、あの魔族の仲間なの?どうして私を助けるの?」

 ウェルザはナジブに手を引かれ、通路を歩きながら尋ねた。

「俺はナジブ。昔、君に助けられた狐なんだ。多分覚えてないだろうけど」

「狐?」

 ナジブの言葉にウェルザは自分の記憶を探る。そして子供の時に迷い込んだ森で罠にかかっていた狐を助けたのを思い出した。

「あの時の……。でも小さな狐だったわ。人狐だったの?」

 ウェルザは立ち止まってそう聞く。

「そうじゃない。サミーという男と同化してるから人間のような姿をしている」

 ナジブは優しい笑みをウェルザに見せてそう答えた。ウェルザはサミーという名前を聞くと顔を強張らせた。

「大丈夫。サミーは死んでいないし。君が彼を傷つけたわけじゃない。俺がマスターの力を借りて彼を傷つけた。君を守りたかったんだ」

 ナジブはウェルザを安心させるようにそう言うと再び、手を引いて歩き始めた。

 ウェルザはこの数日なぜサミーが自分に優しかったのかわかったような気がした。ナジブだったからだった。ウェルザが大好きなサミーはナジブだった。掴まれた手から温かさが伝わってきて、薄暗い地下通路を歩いていてもウェルザは恐怖を感じなかった。



「土が、土が契約されたわ」

 水の精霊アクアは緊迫した声でそう言った。

「行こう。ウェルザが連れていかれたんだ。追うしかないよ」

 ケンジの言葉にアクアと木の精霊レンはうなずいた。そしてユリはケンジの手を握りしめた。

「そうだな。契約解除させられるのはまずいが、行くしかない」

 ベノイもうなずき、金の精霊カリンを見た。そして精霊たちは光になりケンジ達を包むと部屋から消えた。

「頼んだぞ」

 ウェルドは光が消えた空間を見つめ、つぶやいた。その隣ではキャランが青ざめた顔をしており、ウェルドは安心させるようにその肩を抱いた。


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