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南国の魔法  作者: ありま氷炎
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奪われた土の精霊の石

「あらー。キツネじゃない」

 水の精霊アクアは暗闇に現れたナジブの姿を見てそう言った。

 ナジブは立ちふさがる数人の影に気づき、驚いた顔を見せる。

「精霊に、契約主か……」

 ケンジ達は、ウェルザ達に迷惑がかからないように家から少し離れたところで、ナジブを待ち伏せしていた。

「土の精霊の石が目的なの?」

 ケンジはナジブを見つめてそう尋ねた。

「そうだ。どけ!」

 ナジブは加速をつけると一気に跳ぶ。

「逃がさないわよ!」

 アクアがケンジの頭上を跳ぶナジブに氷の粒をぶつける。ナジブは空中で辛うじて避けるがバランスを崩して地面に着地した。

「キツネごときが、ワタシから逃げようなんて思わないことね」

 ナジブは舌打ちすると体を起こす。

「木、金、手を出さないでよ。ワタシだけで十分よ」

 アクアは腰に左手を当て、空いた手を夜空に向ける。手の平が光り始め、水の玉ができ始めた。

「火の真似なんかしたくないけど、有効的だからしょうがないわね」

「水の精霊さん。俺を単なる狐だと思ったら大間違いだ」

 ナジブはそう言って腰のベルトに刺してあるナイフを引き抜いた。同化する際にマスター――ルドゥルから魔族の力を少しだけ受け継いでいた。精霊一人であればどうにか逃げ切れるかもしれない。そう思いナジブはナイフを構える。

「試させてもらうわ」

 不敵な笑みを浮かべ、アクアが水の球を投げる。ナジブは飛んできた水の球をナイフで切り裂き破壊すると、すかさず別のナイフをアクアへ放った。



「きゃあ!」

「ウェルザ!」

 ユリはウェルザの悲鳴とウェルドの声に起こされた。そして火の弓矢を持つと悲鳴の聞こえた場所へ急いだ。

 そこは店の奥の部屋だった。薄暗い部屋には金色の髪を持つ大男がいるのが見える。男の耳はとがっており、その頭上には角が生えていた。

 男はナジブのマスターのルドゥル。

 彼は片手でウェルザの首を掴み、ウェルドの前に立ち塞がっていた。

「魔族の生き残りめ。娘を放せ!」

 ウェルドは恐怖に歪めながらも懸命にそう叫ぶ。

「ウェルザ!」

 ユリに遅れキャランもその場に駆けつける。だが、娘の首を掴む男を見て悲鳴を上げた。

「この!」

 ユリは火の矢を掴むと弓を握り、矢を放つ。矢は炎を放ち、男を襲った。

だがルドゥルは笑みを浮かべると木の杖でそれは簡単に振り払う。

「火の弓矢か……。効かぬな。石の管理者よ。娘の命が惜しくば石の魔法を解く呪文を教えることだ」

「魔族などに教えられるか!」

「ほう、いいのか」

 ウェルドの答えに、ルドゥルはウェルザの首を握るその手に力を込めた。ウェルザは手足をばたつかせ、もがく。

「あんた!」

 キャランは悲鳴のような声で夫を呼び、ユリがウェルザを助けようともう一度火の矢を男に放つ。

「うざいな」

 ルドゥルは矢を振り落とすと、木の杖で地面と叩いた。すると地面から木の根が現れユリの体を掴む。



 アクアとナジブの戦闘を見ていたレンとカリンは同時にウェルザの家の方角に顔を向けた。

「この気配!」

「ケンジ、ウェルザの家に戻りましょう!手遅れになります」

「わかった。連れていって!」

 ケンジがそう言うと、レンが光の球になりその身を包む。そして夜空に溶け込むように消えた。

「ふん。アンタは囮だったのね!」

 アクアはナジブを一瞥すると水の球になりケンジを追う。

「俺達も行くぜ」

 ベノイの言葉にカリンは頷くと金色の光を放ち、ベノイを包み、同様に夜空に消えていく。

「囮?何のことだ?」

 ケンジ達の行動を不可解に思い、気配を探ろうと屋根に飛び乗る。するとウェルザの家の方向に確かにルドゥルの気配を感じた。

「マスターが!」

 ナジブは舌打ちをするとウェルザの元を目指した。



「く、このぉ」

 ユリは動こうともがいたが木の根はびくともしなかった。

「さあ、管理者。娘が死ぬぞ」

 ルドゥルに首を絞められたウェルザはほとんど動かなくなっていた。

「わかった!教える。呪文は『ティーカ』だ!」

 ウェルドがそう叫ぶと、ルドゥルは笑った。木の杖を器用に使い、身の回りに素早く魔法の円陣を描く。

「バタル ビ フナン」

 ルドゥルがそう呟くと円陣が光り、その体を包む。

「ウェルザ!!」

 次の瞬間、ルドゥルの姿はウェルザと共に部屋から忽然と消えた。

 そして数秒遅れてケンジ達がその場に現れる。

「ケンジ!」

「ユリ!」

 ケンジは木の根に囚われているユリを見つけると、走り寄った。

「なんでこんなことに?」

「気配が消えています」

 レンが辺りを見つめながらそう言い、木の根に触れた。根は元の地中に戻り、ユリの身は自由になった。

「何があったんだ?」

 ベノイはユリに尋ねた。しかしユリが答えるよりも先にウェルドがつぶやく。

「もうおしまいだ。何もかも手遅れだ」

 ウェルドは両手で頭を抱え、その場にうずくまる。

「魔族に土の精霊の石が奪われるなんて、もう終わりだ。ウェルザも!もう……」

 そこにはいつもの力強いウェルドの姿はなかった。ただ絶望して嘆き悲しむ男の姿があった。


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