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南国の魔法  作者: ありま氷炎
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「サミー」の正体

 激しく背中を水面に打ちつけた。

 カナエの体は海に吸い込まれるように沈んでいく。


 ああ、死ぬのか……。


 朦朧とする意識の中、カナエはそんなことを思った。


 武田……


 ふっと思い出すのはタカオの顔だった。

 蘇ってくる気持ち。


 忘れたフリをしていた気持ち。


 本当はずっと好きだったのに。

 忘れられなかったのに。


 心を失ったタカオ。

 それでも自分の気持ちを伝えればよかった。


 心を失ってもタカオはタカオだった。

 別れを切り出したことはずっと後悔していた。

 身代わりはたくさんだった。

 心が折れそうになっていた。


 だから別れを切り出した。

 でもそれは間違いだったかもしれない。


 ずっと一緒にいればよかった。

 そしたらこんなことにならなかったかも知れなかったのに……。


 結局、男になっても何も変わらなかった。


 彼との距離は縮まらなかった。


 本当はただ伝えればよかったんだ。


 好きだってことを……。


 カナエはごほっと口から泡を吐き、苦しそうに体をくの字曲げた後、意識を失った。

 抵抗しなくなった体は急速に海の底に落ちていく。


 そんな彼女の腕を掴まえたものがいた。

 それはタカオで、彼はカナエの体をぎゅっと抱きしめた。


 海に穴が開く。

 タカオの周りをドーナツを形とり、海水が蒸発した。

 その瞬間を狙って風の力が二人を取り巻く。

 少し強引だが、二人は陸に吹き上げられた。

 カーナはタカオの無事を確認し、海に向かって放っていた力を止める。すると海に空いた穴が一気に塞がれた。



「上杉……」

 カナエは息をしていなかった。

 タカオは迷うことなく心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。すると暫くしてカナエは口から水を吐き出し、息を吹き返した。

「た、武田……?」

 目をうっすらと開けたカナエはタカオの名を呼んだが、再び意識を失う。しかし呼吸はしており、その胸は規則的に上下していた。

 タカオはカナエの側から腰を上げる。

「濡れちゃったから僕は着替えてくる。カーナ、上杉も濡れてるから家の中に運んで、着替えさせて」

 タカオは感情の読み取れない声でそう言うと、家の方へ歩いていった。

「え~!ワタシは嫌よ。タカオ以外の男の体なんてみたくないわ。ましてカナエのなんて!!フォン代わりにやってよね」

「オレか?!」

「元はといえばアンタが木のところへ行くってごねるからでしょ。カナエを放置してるとますます行けなくなるわよ」

 カーナはべらべらとそう言葉を続けるとカナエとフォンを置いてタカオを追った。フォンは舌打ちをした後、カナエに視線を落とす。

「仕方ないか。木に会うためだ」

 そして大きく息を吐くと、カナエを抱きかかえ、ゆっくりと家に向かって歩き出した。



「マスター」

『サミー』はシランの街外れの家の地下に来ていた。

「手に入れたようだな」

 男はそう言って『サミー』から黒光りする石を受け取った。『サミー』はサミーの姿ではなく、大きな耳と尻尾を持つ人狐の姿に戻っていた。

「その姿がやはり落ち着くか。ナジブ。それで呪文は手に入れたのか?」

「それは後日です」

 ナジブは平伏したまま、静かにそう答えた。

「小娘など痛めつければすぐ吐くものの」

「マスター。あの子を傷つけない約束のはずです」

 ナジブが顔を上げそう言うと、男は笑った。

「そういうことだったな。が、手ぬるいな。今夜中に呪文を入手するのだ。さもなければわしが自ら赴き、ウェルファ一族に聞くぞ」

 男は鼻で笑うと、手に持っていた木の杖で床を叩く。すると地下から根が生え出て、ナジブを襲う。彼はそれを簡単に飛んで避け、床に軽やかに降り立った。

「わかりました。今夜中にかならず聞き出します」

 男に相対し、ナジブはそう答えると踵を返した。




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