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南国の魔法  作者: ありま氷炎
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ケンジの彼女

「サミー。ここにご両親がいるの?」

静かな部屋に連れてこられて、緊張気味にウェルザが聞いた。

「石をみせてくれる?」

サミーはその質問に答えず、そう言った。様子がおかしいと思ったが、サミーに陶酔してるウェルザは素直に石を渡した。

「きれいな石だね」

 サミーは石を手に取ると蝋燭の明かりに近づけた。石が淡い光を放つ。

「それで、魔法を解く呪文は?」

 恋人の質問にウェルザは初めて疑問を持った。サミーにはウェルザの一族が伝説の薬師ウェルファの末裔で土の精霊の石の管理者であることは話していたが、精霊を簡単に呼び出せないように魔法をかけていることは言っていなかった。

「サ…ミー。どうして魔法のことを知ってるの?」

 顔を強張らせてそう聞くウェルザに、サミーは能面のような笑みを見せる。

「すまない。ウェルザ。俺の目的は土の精霊の石だ。利用させてもらったよ」

 男は優しくウェルザの頬を触れながらそう言った。そしてウェルザの目の前でサミーの姿は変化していく。耳が大きくなり、肌が白くなり、その髪は黒から茶色に変化した。そして大きな尻尾が現れた。

 ウェルザは壁際に後ずさった。悲鳴を上げたかったが、喉がからからで出なかった。

「ウェルザ……。あの夜を思い出して。このサミーって男が君に何をしたか…」

 耳の大きな男の言葉にウェルザは頭痛を覚え、その場に座り込んだ。そして脳裏に記憶がよみがえる。

 大好きなサミー、あの日。付き合ってくれといわれ森でデートをした。

 そしてその時……

 ウェルザは自分を守るように腕を抱いた。


 そう、あの時、サミーは私に無理やりキスをして……

 私は無我夢中でサミーを突き飛ばした。そしたらサミーが倒れて……

 目の前で倒れたサミーの頭から血がどんどん流れていった。サミーは驚いた顔で私を見ていた。


「私…が、殺したの?」

「そう、君が殺したんだ」

 男はそう答えると元のサミーの姿に戻った。

「魔法を解く呪文を教える気になった?」

 男はサミーの姿でウェルザの耳元でささやいた。

「知らないわ!」

 ウェルザは悲鳴のような声で答えた。

「親から聞き出すんだ。そうしないと町中に君が人殺しだということが広まるよ。親はどんな顔をするかな」

 男はサミーの顔で狐のように笑った。

「やめて!お願い。呪文なら聞き出すから!」

「それでいい。さすが僕のウェルザだ」

 男はウェルザの肩をやさしく抱いた。ウェルザの肩は振震え、顔色は青白くなっていた。


「ウェルザ!」

 ケンジとユリが水の精霊アクアと木の精霊レンを、ベノイが金の精霊カリンを連れ、その場に光と共に現れた。

「おかしいなあ」

 その場にサミーとウェルザしかないのを確認するとケンジは訝しげに首をかしげた。屋敷を捜索してると、ふいに木の精霊レンが人体化し、変な気配がすると言った。その気配を辿って飛んで来たのだが気配は完全に消え、ただサミーとウェルザの姿だけがあった。

「気配を感じられません」

 レンは顔を強張らせてままそう言った。

「おかしいですわ。わたしくも確かに感じましたわ」

 カリンもベノイの横で眉をひそめた。


「すごいね。この人たちが精霊なんだ」

 ケンジ達が部屋の中を疑わしそうに見ていると「サミー」はそう声をかけてきた。その腕の中でウェルザはなぜか青ざめていた。

「ウェルザ?どうしたの?気分が悪いの?」

 ユリは心配げにたずねた。ウェルザはただ無言でうなずいた。

「体調を崩したみたいなんだ。家に帰って休ませたほうがいい。ウェルザ、また明日会おうね」

「サミー」はそう言ってウェルザの頬にキスをするとユリにウェルザを任せた。

「そうだな。帰ったほうがいいかもな」

 ベノイは「サミー」を見た後、あくびをした。

「そうだね。キャランさんも心配してるだろうし。アクア、レン、僕達をウェルザの家まで連れていって」

「わかったわ」

 アクアはいつものように液体になるとケンジとウェルザを連れるユリを包んだ。レンはふと「サミー」を見つめた後、宙を見据え、光の玉になった。

「サミー、精霊のことは誰にも言うんじゃないぜ」

 ベノイは「サミー」を睨み付けて、そう釘を刺すとカリンの光の玉に包まれた。3つの光はひとつになり、部屋から消えた。

「疑われたか……?」

 静寂の戻った静かな部屋で「サミー」の呟きを聞くものは誰もいなかった。



「しょうがないね。今夜はうちに泊まりな」

 元気のないウェルザを家に送り届けたケンジ達にキャランはそう言った。

「今から宿を探すのも大変だろう。空いてる部屋はひとつしかないから、ユリはウェルザの部屋で寝な。男どもは私についてきな。ウェルザ、ユリをお前の部屋に案内しな」

 キャランはケンジ達に顎で着いてくるように合図し、階段を上った。ケンジがユリを何気なしに見るとユリは微笑みを向けた。

「さあ、ここだ。広いだろう」

 連れて来られた部屋にはベッドが3つあり、壁にまだ染色していない布が立てかけたあった。

「普段うちで一時的に染色職人に使わせてる部屋だ。トイレとかもあるから勝手に使いな」

 キャランはそれだけ言うと、部屋を出て行った。

「ま、寝るだけだしな」

 ベノイはそう言うとベッドに腰を下ろした。

「なんだか妙に疲れた。この慣れない服のせいだな」

 ベノイは青色のシャツを脱ぐとベッドのフレームにかけた。

「おう、ケンジ。悪いが下から着替えの服、取って来てくれないか」

「なんで僕が?」

 ケンジが面倒くさそうにベノイを見た。

「年上は敬うもんだせ。どうせ、お前も着替えるんだろう?それともなんだ、俺の隆々とした肉体美をみたいか?」

「げ!まった、まった!取ってくるよ」

 ズボンを脱ぎ始めようとするベノイを慌ててケンジはとめた。

「じゃあ、よろしくな」

 ベノイは笑顔でそう言うとごろんとベッドの上に横になった。

「ちぇ」


 僕っていつもこうやって使いぱしりだよな。


 そう思いながらもケンジは素直に階段を下りていく。

「ケンジ!」

 薄暗い家の奥から突然現われたケンジをみて、ユリは驚いた声をあげた。

「びっくりさせないでよね」

ユリはそう言いながら、着替えなどが入ってる茶色の袋を探っていた。

「全部出して見たほうが早いかもよ」

 ケンジはユリの目の前から茶色の袋を軽々と持ち上げると、中身を出し始めた。ユリはケンジを見つめていた。

「何?」

 見つめられてどぎまぎして、ケンジがそう聞いた。

「ケンジ、そう言えば。今日どさくざに紛れて私のこと彼女って言っていたわよね」

 げっ!あのことか。

「ごめん、ごめん。だってあー言わないと奴はいなくならないと思ったから。」

 ケンジは慌てて謝りながらユリをみた。しかしユリは怒ってる様子はなかった。

「ケンジ……。付き合ってあげてもいいわよ」

「え?」

 ユリの言葉にびっくりしてケンジは手に持っていたベノイの服を落とした。

「だから彼女になってあげてもいいわよ」

 ユリは顔を真っ赤にしながらそう言った。

 橘さんが僕の彼女に?!

 ケンジは舞い上がりそうな気持ちになった。

「ただし、ユリって呼んでよね」

「う……ん。ユリ」

 ケンジがぎこちなくそう呼ぶとユリは柔らかく微笑んだ。


 その近くでは出るに出られないベノイがいた。

「今度邪魔するとアクアに殺されそうだな」

 ベノイは着替えを取りに行って、なかなかケンジが戻ってこないので様子を見に来ていた。しかし二人のほほえましい姿をみて、今日は着替えず裸で寝ることを覚悟した。

「毛布とかあったかな」

 ベノイはそう誰となくつぶやくと再び階段を上っていった。


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