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南国の魔法  作者: ありま氷炎
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パーティーの合間に

打楽器や笛の音が賑やかな音楽を奏でている。夕暮れの街でその一角は鮮やかな色の布を纏い着飾った人々で溢れていた。サミーはシランで一番大きな布地を扱っている店の一人息子だった。彼の両親は美しい息子を溺愛し、息子が望むことは何でも叶えていた。

 彼はパーティを開くのが趣味で毎週パーティを開くのが恒例となっていた。そして参加している人はほとんどが遊び好きな若者ばかりだった。

「ウェルザの親が反対する理由はなんだろうな。派手なところか?」

 そう聞くのはパーティー会場の華やかさに少しうんざりした様子のベノイ。

「多分そうかな。だってうまく結婚できたら玉の輿だもんね。反対理由はそれ以外ないと思うよ」

 答えるのはケンジで、彼も同じように会場の雰囲気に当てられ、疲れた様子で壁際に寄りかかった。

 その二人に反して女性陣ーーユリとウェルザは楽しそうにあたりを見渡している。華やかな二人の姿は男たちの視線を釘付けにし、女たちの反感の目を買っていたのだが、二人は気にしていない様子だった。

「ケンジ、ぼやぼやしてるとユリの奴が誰かにさらわれるぞ」

 ベノイの言葉が事実で、ケンジの視線の先で、彼と同年齢程のたくましい男がユリに声をかけていた。彼は拳を握りしめるとユリの元へ歩いて行く。ベノイは一瞬加勢をしようかと体を壁から起こしたが、恋する二人の行方を見守ることにした。

「俺の彼女に手を出さないでくれる?」

 ケンジは少しでも強く見せるように肩を張る。この世界に来てから彼はずっと戦ってきていた。

 これくらいの奴なら僕でも勝てるーーそういう自信が彼に行動を起こさせていた。

「お前の彼女?ほんとかよ?」

 男は馬鹿にしたような笑いを浮かべながら、ケンジに向き直る。

「ターファ!」

 しかしそう声がすると、男は慌てた様子を見せた。

「私の客人だ。乱暴にしないでくれるかな」

 声の主はサミーで、ケンジの後ろにふいに現れ、男――ターファに近付く。その視線は氷のように冷たく、ターファは顔を強張らせた。

「お、おう、サミーの客か。わ、悪かったな」

 そして、口をもぐもぐさせ、それだけ言うと逃げるように人が集まる場所へ消えた。

「悪かったね。君たち別の街から来たんだろう?」

 サミーは穏やかな微笑みを浮かべていた。

「サミー!!」

 ウェルザはケンジがその問いに答える間もなく、その胸に飛び込む。

「ウェルザ。今日はすごくきれいだね」

 サミーはぎゅっとウェルザを抱くと、人目をはばからずその頬にキスを落とす。


 か、軽い……

 でも外国じゃ普通なのか??


 二人のラブラブぶりを目のあたりにして、ケンジを始め他の2人も視線を宙にさまよわせる。

「あ、えっと。君たちはウェルザの友人ということなのかな?」

 そんな三人に、サミーは話しかける。もちろんウェルザの腰に手を回したままだが。

「そう、私のボディーガードなの。精霊の契約主なのよ」

 ウェルザは愛する彼に隠すことなく正直に答える。

「へえ。そうなんだ。精霊の契約主ね」

 それを聞き、サミーは興味深そうにケンジ達を見た。

 

 ウェルザ。なんでそんなこと話すんだよ!


 ケンジだけでなく、ユリやベノイもぎょっとして彼女を見つめた。しかし当人は恋人を疑う様子はなく、その腕の中で楽しそうにしている。

「そうだ、ウェルザ。頼んだもの持ってきてくれた?」

 男は彼女に優しい笑みを向ける。

「うん」

「じゃ、後で奥の部屋でみせてね。ウェルザ、来て。私の両親に会わせたいんだ」

 サミーはそう言うと、驚くケンジ達に構わずウェルザを人が集まる広間に連れていく。誘導される彼女は夢見る女性と化し、彼にしか目を向けておらず、ケンジ達のことを忘れているようだった。

「どうする?追ったほうがいいんじゃないか?」

「そうだね」

 ケンジとべノイが二人を追って広間へ足を踏みいれる。すると色気たっぷりの女性が二人、近づいて来た。

「は~い、楽しんでる?」

 女性達は魅惑的な微笑みを浮かべている。その豊満な胸を強調するように薄い布をまとい、深い切り込みに入ったスカートのスリットからは形のよい脚が見えていた。

「ねぇ。私達と踊らない?」

 女性の一人が誘うような目つきをして、べノイに頬に触れる。しかし彼は興味がなさそうに手を振り払う。

「すまないな。別を当たってくれ。いくぜ、ケンジ」 

 彼は刺激的な女性の姿にぼーとしてるケンジの頬をつねり、その腕を引っ張り女性達から離れた。

「あら、残念だわ」

 女性のそんな声が聞こえたが彼にはどうでもよかった。

「べノイ、べノイ」

 ぐいぐいとその腕を掴み、広間に向かうべノイをケンジは呼ぶ。

「止まって!橘さんがついて来てない」

 彼はその言葉に足を止める。

 二人は目を凝らして辺りを見る。しかし周りにユリらしき姿はなかった。

「しまった!あの女ども、俺たちの気を引いて、その隙にユリを浚ったんだ!犯人はきっとさっきの男だ」

 ベノイは悔しそうに足を踏みならす。

「探そう!僕達は精霊を使って連絡が取れる。僕はこっち側探すから、べノイはあっち側探して」

 怒っていてもしょうがない――ケンジは自分自身にそう言い聞かせると、そう指示を出す。

「わかった。見つけたら精霊を人体化させろ、気を辿ってすぐ飛べる」

 そうして二人は別行動を取り始めた。


 くそ、あの男!


 ケンジは唇を噛むと足早に広間の奥を目指す。

 男はユリを人目のないところに連れていったに違いなかった。



「この馬鹿男!」

 ユリは口を押さえているその手に噛み付く。男は痛みのあまり手を離した。

「姿に似合わず、おてんばなんだな」

 男―ターファはニタニタ笑いながらそう言った。彼女はターファを睨み付けながら背中に手をやる。しかしいつもならそこにあるはずの弓矢はなかった。


 しまった。今日は持ってきたなかったんだーーこんなことがあるとは予想できなかった。弓矢なしではユリはただの女性に過ぎない。

 彼女は、逃げるしか道がないと、男から距離を取る。

「逃げるつもりか?残念だな。それは無理ってことだ」

 男は下品な笑みを浮かべ、ユリの肩を掴む。

「ケンジ!ケンジィ!!!」

 彼女はとっさに彼の名前を叫ぶ。ターファは慌ててユリの口をその手でふさいだ。誰にも邪魔されるつもりはなく、たっぷり楽しむつもりだった。

 男は彼女が羽織ってる布地をはぎ取る。その肩があらわになり、ターファは下卑た笑みを浮かべた。



「橘さん!?」

 ふと、自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 声がした方向ーー屋敷に目を向けると1か所だけ窓が閉まっている部屋が見えた。


 きっとあそこだ!


「アクア!お願い!あの部屋に飛んで!」

「わかったわ!」

 水の精霊アクアはその願いを聞き、石から一気に人体化すると、ケンジを連れて跳ぶ。

「ユリ!」

 彼はそう叫びながら、閉じられた窓を外から蹴破り、部屋の中に入る。

 ターファは突然現れたケンジとその横の精霊を見て、表情を固まらせた。

「ユリを離せ!」

 ケンジは男を睨み付ける。その横でアクアは氷の槍を出現させた。

「ひぃ!」

 ターファはユリをケンジに押しやり、部屋の外に逃げ出そうと試みる。しかし怒った水の精霊がそれをゆるはずがなく、アクアは部屋の出口に跳ぶと男の前に立ちふさがった。

「逃がさないわよ。アンタみたいな奴にはおしおきが必要なの」

 水の精霊は憤慨し、男に触れる。するとターファの体は一瞬で氷の彫像と化した。

「アクア!」

 男は憎き相手、しかしケンジには殺す気がなかった。

「大丈夫よ。死にはしないわ。でもしばらくこのままだけど」

 心配するケンジにアクアはウィンクする。精霊にとって人間を殺すなど造作がない。しかし契約主の意向に沿わないことはするつもりはなかった。


「橘さん!大丈夫?」

 ケンジはその胸に抱いたユリにそう問いかける。彼女はしばらく、泣きそうな顔でケンジを見つめたが、すぐにいつもの彼女に戻った。

「あんた達が変な女と話してる間に捕まったのよ。火の弓矢もないからすごく怖かったんだから!」

 彼女はそう言いながらケンジの胸をたたく。いつもの怒鳴り声、それが聞けて彼はなんだか安堵する。たたかれる痛みに顔をゆがめながらもそっと彼女を抱きしめた。

「ごめん」

 抱きしめられ、ユリは一瞬身じろぎしたが、そのままケンジに体を預けた。


「えーと邪魔するぜ」

 べノイの遠慮がちの声に二人ははっとして離れる。ケンジもユリも顔を真っ赤にしている。

「ウェルザのことが心配だ。俺は広間を探すから、お前らはこの辺を探してくれ」

 ベノイはそれだけ言うと足早に部屋を後にする。

「邪魔しちまったな……」

 彼のつぶやきを聞いたのは、戦いに備え人型に戻った金の精霊カリンだ。二人が無事な今、役目はない。金の精霊は損な役回りの契約主に微笑を見せると、目立たないように石の姿に戻る。ベノイは溜息をつくと、石を拾い、ウェルザを探すため広間へ繋がる廊下を突っ走った。

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