パーティーの始まり
「タカオ!」
風の精霊はベッドでけだるそうに横になるタカオを見つけた。
「木が心配だ。木のところへ行く」
そう言ってフォンはベッドに寝そべったままのタカオの腕を掴んだ。
「行かせないわよ」
火の精霊は石から人体化するとフォンをにらみつけた。
「どうせ、後から来るんだから。待てないの?」
「木の様子がおかしんだ。確かめるだけだ」
飛ぼうとするフォンをカーナは腕を掴み止める。
「火、邪魔するな」
フォンは掴まれた腕を振り払うとカーナを睨みつけた。
「行かせないわ」
カーナは火の鞭を作り出すと両手で握りしめる。
「ふうん。オレとやる気か。ちょうどいい、いい準備体操だ」
フォンは手のひらを天井にに向け、いくつかの風のボールを作り出した。
タカオはそれを止める様子はなく、ベッドの上で両者を見つめていた。
カーナがまず動き、火の鞭がフォンに向かって振り下ろされた。風の精霊はそれに風のボールを当てる。鞭の一部が破壊され飛び、天井にぶつかった。すると一気に天井が燃え上がる。
タカオはため息をつくとベッドから立ち上がった。
「やるわね。これはどうかしら?」
火の精霊は鞭を捨てると、火のボールを作り出し、フォンにぶつけ始めた。タカオが壁に立ててある風の剣を掴む。そしてフォンは風のボールで火のボールを蹴散らした。タカオは飛んできた火のボールを自分に当たらないように風の剣で振り払った。
「まったく、なんなんだ」
風の精霊が家に入ったとたん、屋根が燃え始めた。カナエはいぶかしげに腰を上げ、家に近づく。
「何!」
不意に扉が飛んできた。カナエは土のグローブをはめた手で扉を破壊する。間髪いれず、今度は火のボールが飛んできた。カナエはそれを咄嗟に横に跳んで避けた。
「何なんだ?」
扉がなくなり、あらわになった家の様子をみてカナエは眉をひそめた。
カーナとフォンが険しい顔をして対峙していた。
ケンジはユリの姿に見とれていた。
ユリは色鮮やかな青色の布を体に纏い、花模様のレースをかぶり、金色の髪飾りでその美しいレースが落ちないようにとめていた。
「どう?」
ユリはぼーとしてるケンジを見つめ微笑む。
「すごくきれいだ」
「あ、ありがとう」
顔を赤くしてケンジがそう答えたのでユリまで顔を赤くなった。
「おい、ユリ。俺の服ってこんな感じなのか?」
学生服のような襟がある真っ赤な長いシャツに金色の布をベルト代りに巻き、シャツと同じ色のズボンを穿いたベノイが言った。
「赤って……なんかもっと別の色がないの?赤はケンジのほうが似合いそうだけど……」
ユリに突然そう振られてケンジはとまどった。
僕もあの服着るのか??
背が高く、顔つきの鋭いベノイにはなんだかアラブ系の民族衣装が似合っているけど……
僕が着るとお遊戯会みたいになりそうだ。
「わあ。見違えたわ!!」
そんなことを考えてるとユりが驚いた声を出した。視線の先には深紅の下地に金色の刺繍をした布を纏ったウェルザが立っていた。その大きな眼鏡をはずし、髪を結い上げ、少しお化粧してる顔はまったく別人で、まさにアラビアンナイトの王女様という感じだった。
「やっぱり。思ったとおりね。きれいだと思ったの!」
ユリは自分がコーディネートした服がウェルザにぴったりだったので満足そうに微笑んだ。
ウェルザは普段着ない、肩を露出したドレスに、少し照れくさそうに笑った。
「きっとサミーもびっくりするわよ。いざ、出陣よ!」
ユリは意気揚々とそう言った。
サミーは金色の刺繍がしている白の下地の服を着て、銀色の布を巻き、鏡の中の自分を見つめていた。鏡の中の自分は皮肉な笑みを浮かべて見つめ返していた。
サミーはその長い前髪を煩わしそうに振り払うと、部屋を出た。
部屋の外ではパーティの準備のため、給仕が忙しそうに働いており、演奏を担当する楽団も楽器を運び入れていた。