表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
南国の魔法  作者: ありま氷炎
80/151

パーティーに行こう

「だめだ。そんなパーティ行かせられるわけないだろう!」

 店の外までキャランの怒鳴り声は聞こえた。

 ユリはその声に目を見開き、ベノイは驚いた顔を見せた。

「あの声の主が石の管理者なのか?」

「違う、違う。旦那さんのほう……」

 そう答えながらケンジは店の中に入る。キャランの鋭い目が彼を射抜き、体を強張らせた。


 間が悪かったかな……

 声くらいかければよかった……


「何の用だい?こら、ウェルザ!」

 ケンジ達が店に入ってきた隙を見てウェルザが店を飛び出した。それをなぜかユリが追いかける。

 ユリが追いかけたのを不思議に思いながらをキャランはケンジ達に視線を戻して、口を開いた。

「で、今度は何の用だい?」


 ウェルザの姿は簡単に見つかった。川のほとりで石に座り、流れる川を眺めている。ユリは彼女があの飲食店で見たカップルの女の子のほうだとわかり、とっさに追いかけた。そして母親が反対しているパーティというのはサミーが参加するものだろうと予想した。

 ユリは断りもなくウェルザの横に座る。

「何か用?」

 彼女は警戒した様子で隣に座った自分より少し年上の女性を見る。

 浅黒い肌に黒髪のものが多いシランでは、ユリ達のように黄色い肌のものはすぐによそ者だとわかった。

「あなた、サミーのパーティに参加したいんでしょ?」

「なんで。そんなことわかるの?!」

 ウェルザはますます警戒した顔をし、彼女から離れようと立ち上がる。

「ちょっとね~、色々あって。でも私はあなたの協力者よ。私からお母さんに話してあげるわ」

「そ、そんなことできるの?」

 驚く彼女にユリは悪戯な笑みを浮かべて頷いた。


「あんたらも一緒のパーティにいくぅ??」

 ウェルザを連れ帰ったユリは母親にパーティには自分達も参加するから、娘を行かせてほしいと頼んだ。

「でも、」

「キャランさん。ここでサミーって奴の化けの皮を剥げば、ウェルザもあきらめるでしょ。そのために参加させたいのよ。わかるでしょ?」

 ユリは言いよどむキャランの耳元に囁く。ウェルザが聞いたら憤慨する内容だが、母親以外にその囁きは聞こえていない。

「う~ん。あんた達がちゃんとウェルザを守ると約束するならいいよ」

 母親は迷いながらも彼女の言葉に頷く。

「ユリさん、なんて言ったの??お母さんありがとう!」

 幸運なことに企みを知らないウェルザは、パーティに行けることが嬉しくてキャランに抱きつく。しかし母親は複雑そうな顔をしてユリを見つめるしかなかった。


「橘さん、何を言ったの?」

「おい、俺達は別れさせるのが目的だろう?協力したら意味がないぜ」

 小声でそう言い合うケンジ達にユリは微笑むだけで何も答えなかった。

「さあ、ウェルザ。仕度しましょう。パーティなんてうきうきするわね。ドレスとかあるの?」

 彼女の言葉にウェルザはキャランから離れると顔色を変えた。

「どうしよう。お母さん!」

「仕方ない。今回だけだよ。買ってきな」

 母親はため息をつくと娘に数枚の金貨を渡す。

「あんたらもその地味な服やめときな。せっかく行くのだからちゃんとした服着て行きな」

 いやいやながら参加させるはずなのに、どこか楽しそうにキャランはそう言う。

「どきどきするわね!この街のドレスってどんな感じなのかしら?ウェルザ、あんた。いいお店知ってるの?」

「うん、実はずっとほしかった服があるの」

 若い女性達の心は既にここにはなく、これから買う服のことで頭がいっぱいだった。楽しそうにきゃっきゃっとドレスの話をする。それを聞きながらケンジは少しげんなりした様子でベノイを見る。

「ベノイ。パーティってどんな感じなの?僕らはどんな服を着なきゃいけないの?」

「俺が知るか。そんなもの参加したことないぜ」

 戦士である彼が知る由もなく、こちらも困った様子で答えるしかなかった。

「ケンジ~。ベノイ!何ぼやってしてるの?買い物にいくわよ!」

 女性陣は行く店を決めたらしく、すでに店の外に出ていた。

「ほら、早く!時間がないんだから」

 ユリはいつものようにケンジを怒鳴りつけ、彼は浮かない顔で足を踏み出す。そして心中には一抹の不安が沸き起こる。


 僕達、こんなことしてていいのだろうか?


「ケンジ!ぼやっとしない」

「はい、はい。今行くよ!」

 しかしその不安は再度の怒鳴り声で立ち消える。だが、彼のポケットの中では緑色の石が心配そうな光を放っていた。



「嫌な感じだ……」

 ふいに風の精霊が立ち上がる。

「木、木がオレを呼んでる気がする」

 フォンは表情を険しくすると家のほうへ歩いていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ