ジャランの街
ジャランの街は薄汚れていた。
数時間前まで都市ビルが立ち並ぶ、近代的な都市から来たのだから
そう感じてもしかたがなかった。
あ~、まさにファンタジーの世界だ~
ケンジは街の雰囲気にゲームの世界に入ったような気分を味わっていた。
「山元くん!こっち」
ふらっとどこかに行きそうなケンジの腕を掴んで、ユリは強引に上司のいる場所へ連れていく。
「この宿にしようか?」
カナエは少し小奇麗な建物の前に立っていた。
入り口の右斜めに「宿」と看板が出ている。
「そういえば、上杉主任。僕たちはお金あるんですか?」
ケンジの素朴な疑問にカナエは安心させるように笑った。
「あのガイドがくれた袋の中に所持金としてコインがいくつか入っていた。それでどうにかなるんじゃないかな」
「よかった……実は心配してたんですよ。現実の世界のお金は使えないはずなので……」
ケンジがほっとして胸をなでおろしたがカナエは浮かない顔をしていた。
「でもこの所持金もいつまでもつかわからないよね。何かお金を稼ぐ方法を見つけないと」
カナエが宿の入り口で腕を組んで悩んでるとユリの悲鳴が中から聞こえた。
「橘さん!」
二人は慌てて中に宿の中に入る。
中は薄暗く、居酒屋も兼ねているようで旅の者と思われる武器や道具を持ったものが、カウンターの傍の各テーブルに座っていた。
「上杉さん、山元くん!」
ユリは酔っぱらってると思われる男たちに抱きしめられていた。
二人が話してる間に勝手に中に入ったユリが男たちに絡まれたらしい。
「おう、この女の連れか。どれもひ弱さそうだ」
がたいのいい男がそう言って笑った。
これはまずいぞ。
僕はこれっといって何か習っていたことないし。
喧嘩もしたことない……
上杉主任も元は女性だしなあ。
そう思ってケンジが冷や汗をかいているとカナエが躊躇なく、その男の前に立ちはだかった。
「その子を離せ」
カナエがそう言うと男は別の痩せた男と顔を見合わせて笑う。
「そんな女みたいなきれいな顔して、俺達に喧嘩売るとはいい度胸してるな。その顔見てるといらいらするぜ」
自分の顔が醜いのが心の傷なのか、男はユリをカナエの方に押しやると、壁に立ててあった大きなこん棒に手をかけた。
「山元くん!」
カナエはユリをケンジに預けると、振り下ろされたこん棒を避け、回し蹴りをその腹に食らわせた。
男は勢いよく、壁に飛ばされ気を失う。
「ひっ」
痩せた男はそれを見るとあたふたと逃げ出した。
「上杉さん、すっごい!」
ユリは抱きつきそうな勢いでそう言う。
「上杉主任、すごいですね。何か習っていたんですか?」
「空手を昔からやっていたんだ。あのガイドの胸元をつかんだ時に気がついたんだけど、力もスピードも女の時よりもかなり強くなってるみたいなんだ」
ケンジはカナエがそう答えるのを聞きながら、壁で気を失ってる男を見た。
なんか本当にゲームの世界のようだ……
僕にもなんか力がないのかな……
「そこのお兄さん!」
ケンジがぼんやりそんなことを考えてると頭上から声がかけられる。
「腕がたつみたいだね。この宿で用心棒をしないかい?」
声をかけてきたのは50代過ぎの人の良さそうなおばさんだった。
「わたしは、この宿「ラッフー」の女主人のマーラだよ。」
上の階から下りてきたマーラはそう言ってカナエに手を差し出した。
「ご飯も宿代も無料だよ。ただしこの宿の用心棒として働いてもらうがね」
手を握りかえそうとしないカナエ達にマーラはそう言った。
「上杉主任、お金もないから、そうしたほうがいいと思いますよ」
「上杉さん、強いから大丈夫ですよ。そうしましょ」
カナエは二人の左右からの囁きにため息をつくと、マーラの手を握り返した。
「決まりだね!そこのお二人さんは別に働いてもらうよ」
「えー!?」
マーラの言葉に二人が不満そうな声を出すのを無視して、マーラは二人の腕を掴むと強引に宿の奥へと連れていく。
二人とも大人だし、あのマーラという女性も悪いことはしないだろう。
カナエは重い荷物を持つと先ほど男たちが座っていた奥のテーブルに移動する。慣れない体のせいか、疲れていた。壁に固定されてる長椅子に座り、背中を壁に預ける。
目を閉じて、少し休みを取るつもりだった。