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南国の魔法  作者: ありま氷炎
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ケンジを探して

「気配が感じられませんわ」

 金の精霊カリンはシランに着くとそう言った。

「石の姿になってるのね。ケンジったら」

 ユリはため息をついた。

「まあ、まあ。焦るなよ。飯でも食おうぜ。丁度昼時だ。ケンジも飯を食べてるかもしれないぜ」

 ベノイはカナエのことをまだ知らないので呑気にそう言う。

「そうね。腹が減っては戦もできぬって言うしね。行きましょ」

「腹が減っては……??」

 きょとんとするベノイに背を向けて、ユリは街の中心部に歩き出した。




「ケンジ」

「しっつ」

 ケンジはポケットから聞こえた水の精霊アクアの声を制して、その店の中に入った。ウェルドから教えてもらったサミーがよくいる店だ。

 店の中はケンジより年下か同じ年くらいの若者の姿が多くみられた。皆それぞれ煙草を吸ったり、食事をとったりと一見普通の飲食屋に見えた。


 なんか変な匂いがするな……

 煙草ってこんな臭いだっけ?


 そう思って店の奥まで歩いていくと、目つきのおかしいケンジより年下と思われる男が出てきた。

「あ?お兄さん。何か用?そんな大きな剣を持って戦いでもするのかい?」

 男がニタニタ笑いながらそう言う。ケンジは男を一瞥したが、相手にしてもしょうがないと判断して、先に進もうとその男の横を通った。

「ケンジ!」

 ふいに、アクアの声がして、背中に風を感じた。振り返るとアクアが人体化しており、その手にはナイフが刺さっていた。

「この馬鹿男!」

 アクアは手に刺さったナイフを抜きながら男を睨みつけた。

「精霊だ!!」

「殺されるぞ!」

 店にいた若者たちはアクアの姿を見ると、我先にと店を逃げ出し始めた。店内は一瞬パニック状態になる。しかし目の前の男とその仲間だと思われる数人の若者はその場に残り、奇妙な光を帯びる目をケンジ達に向けた。

「失礼ね。ワタシは火と違って友好的なのに。でもアナタたち逃げないとはなかなか度胸あるじゃないの」

 そう言いながらアクアは氷の槍を出現させた。若者たちはナイフを構える。

「アクア、この子たち少し変じゃない?」

「何者かに操られてるみたいですね」

 木の精霊レンも人体化し、ケンジを守るように構えた。

「木、頭に来たから、アナタは手を出さないでね。ワタシだけで十分よ」

「手加減してくださいね。この子たちはただ操られてるみたいなので」

 レンはアクアに忠告するように言うと石の姿に戻る。ケンジは石を拾うと水の剣を構えた。

「精霊さんよ。準備はいいかい?」

 先ほどナイフを投げた男が不気味に笑った。

「えらそうに頭にくるわ!」

「アクア、殺さないでね!」

「わかってるわ!」

 ケンジの言葉に頷くと、アクアは氷の槍を振り回す。若者たちはそれを軽くよけ、ナイフを投げる。

「ケンジ!」

 レンが石から人体化し、そのナイフを木の盾で受け止めた。

「普通の人間じゃないみたいだわ」

「多分、薬か何かで力を得てるようです」

 薬……あの変な臭いか……

「さすがに精霊さんだ。でもこれはどうかな?」

 男は小瓶を持ち出し、それを地面に投げつけた。強烈な光が発生し、視界を奪う。

「ケンジ!!」

 アクアとレンが同時に叫んだ。

「ちっ」

 男は悔しそうに舌打ちした。ナイフはケンジの水の剣で打ち落とされていた。

「お兄さん、子供みたいな顔してなかなかやるね。単なる精霊の契約主ではないんだね」

 腰のベルトに差しあるナイフを掴みながら、男は笑った。




「うまい!」

 ベノイは皿にのったハムをおいしそうに食べた。それを横で見ながら、ユリはパンをかじる。

 そして視線を店内に向けるとあるカップルが目に入った。

 ベノイもそのカップルを見て驚いた顔を見せた。

「珍しい組み合わせだな」

 視線の先には眼鏡をかけた浅黒い肌に黒髪の地味なウェルザと、背が高く両耳に金色のピアスをつけ、前髪を垂らした彫りの深いハンサムな男サミーがいた。

「あの子、遊ばれてなきゃいいんだけどな」

 ベノイはそうつぶやくとユリに視線を戻す。ユリはベノイに答えず、ただその二人の様子をじっと見ていた。そんな様子を怪訝そうに見ながらもベノイは皿の上のハムを次々と平らげていった。

「ベノイ!水と木が力を使っていますわ」

 カリンは突然人体化するとそう言った。

 店にいた客は光と共に現れた金色の美女に驚き、ざわめく。

「まずい。目立たないようにしたかったのに。カリン、ケンジのところへいける?」

 ユリがそう言うとカリンはベノイを見つめた。

「ああ、頼む。ケンジを追ってくれ」

 ベノイの言葉にカリンは微笑んでうなずくと二人を連れて光となりその場から消えた。

 店にいた客は唖然として光と共に人が消えた場所を見つめていた。

 しかし、そんな中、一人だけ、驚いた様子を見せないものがいた。

「サミー、今のなんだったのかしら?」

 ウェルザは視線をサミーに戻してそう尋ねる。

「さあ、なんだったのかな。今巷で噂になってる精霊だったりして」

 サミーはウェルザに微笑みながらそう答えた。

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