土の精霊の石の管理者ウェルド
「ウェルザ!こら戻りなさい!ウェルザ!」
前方の店からそんな怒鳴り声が聞こえて、大きなメガネをかけた浅黒い肌に黒い髪の少女が店から飛び出した。
地図を見ながら歩いていたケンジはその子に気づかなかった。
「あいたたっつ」
ケンジにぶつかって少女が勢いよく転ぶ。
「ごめん!!大丈夫?」
ケンジは慌てて少女を抱き起こした。
「ウェルザ!」
「まずいわ!」
少女は落ちたメガネを慌てて拾うと、茫然とするケンジを残し走り去った。
店から体格のいい小太りの女性が出てきた。そして少女が視界から消えるのを見るとため息をつく。
土の都シランは全体的に活気のある街で、華やかだった。布の染色が盛んらしく、いたるところに色鮮やかな布が飾ってあった。その鮮やかな街並みに反して、人々の多くは浅黒い肌に黒い髪だった。しかし人々は様々な色の布を体に巻き、金色や銀色の飾りをつけており、街はさながら花畑のようであった。ケンジのように黄色い肌や白い肌の姿もちらほらと見れたが、対外地味な色の服をきており、街の中で目立っていた。
しかし街の人はそんなケンジをみて、警戒する様子はなく愛想のいい笑顔を向けていた。
その街の様子にケンジはアラジンというアニメを思い出していた。
「ほら。お水だよ」
店の女主人のキャランはそう言って水の入った木のカップをケンジに渡した。地図を辿ってきたら、少女とぶつかった。どうやらあの子はこのキャランの娘らしい。
すごい急いでいたけど、なんでだろう。
「で、用はなんだい?」
水の入ったカップを両手で掴んで、水をおいしそうに飲んでいるケンジにキャランは腕を胸の前に組んでたずねた。すこし警戒してるような気がした。
言っていいのか……
でも地図はここを示してる。
多分この人が土の石の管理者だろう。
悪い人じゃなさそうだし……
ケンジは覚悟を決めると話し始めた。
「なるほど。土の精霊の石を探してるんだね」
「はい」
キャランの問いにケンジはうなずいた。
「あんた、あんた!」
キャランは少し考えると店の奥へ入って行った。さまざまな色の布か飾っている店内にケンジだけが残される。
なんだか花屋にいるみたいだ。
そのカラフルな色合いにケンジはそんなことを思った。しばらくして、キャランの旦那と思われる体格のいい男が奥から出てきた。
「あんたか?石を探してるのは?」
男は鋭い眼光でケンジを睨む。ケンジは手の平に汗をかきながらも、口を開いた。
「そうです。お願いです。僕に土の精霊の石を渡していただけませんか?」
男はケンジをしばらく見た後、無言で店の奥に来るように顎で合図をした。ケンジは唾を飲み込んだ後、男の後ろについて店の奥に入っていく。キャランは腕を組んで二人の様子をみていた。
「あんたが、最近、世界で精霊の石を集めてる奴か」
「……そうです」
タカオのことも考えたが、ケンジは素直にそう答えた。
「あんたはいい奴のほうだな。土の精霊が言っていた。二つの力が石を探してると」
男は棚から古ぼけた箱を取り出し、開けた。そこには黒く光る石が入っていた。
「俺の名はウェルド。偉大な薬師ウェルファの末裔で、土の精霊の石の管理者だ」