幸せな結末と新しい旅の始まり
タカオ達が去った、崩壊した酒場の床に見慣れた石が落ちているのが見えた。
近づくとそれは奇跡の星のかけらだった。
上杉主任のポケットから落ちたんだ……
ケンジはその石を拾うと明るくなりつつある空を見上げた。
「ケンジ、本当に一人で行くの?」
水の精霊アクアはケンジを見つめながらそう聞いた。
「うん。武田係長が邪魔をしないから僕一人で十分だ。下手にみんなで動いて何かあっても嫌だし」
もう誰も傷つけたくない。
僕一人で十分だ。
「アクア、レン、行くよ」
ケンジがそう言うとアクアは液体になり、その体を包んだ。木の精霊レンも光に変わる。
「土の都シランへ」
水の塊は光になり、二つの光の球は宙に上がり、藍色にオレンジの光が混ざる空に溶け込んだ。
朝日が昇りはじめ、温かい光が街を包んでいた。
「エン!」
「ジン!」
金色の髪を持つ美しい女性たちは互いに名前を呼び合うと抱きしめ合った。
その近くにはヤップに連れられたメイの姿が見える。
ベノイ達はヤップ達と距離を置き、遠くからその姿をみていた。
「王様。あんた、今度こそ変なゲームなどしないだろうな」
ベノイはセンリャンを睨みながらそう尋ねた。
「もちろんです。私はジンと共にこの国ももっと豊かにするつもりです」
センリャンはベノイの問いに笑顔で答えた。その笑顔は以前と違い感情のこもった溌剌としたものだった。
「センリャーン!こっち来なよ」
ジンは王であるはずのセンリャンに、恐れのない、いつもの口調で呼び掛けた。
「ジン、今行きます」
センリャンはそう笑顔で答えるとベノイに手を振り、ジンのところへ歩いて行った。
「本当、変な王様だよな」
「そうよね」
ベノイの言葉にユリは苦笑して答える。
その側では金の精霊カリンが静かににセンリャンの様子を見つめていた。
「さあ、ケンジを探しに出かけるぜ!」
「うん」
カリンに精霊の気を探ってもらい、ケンジとタカオは別の場所にいることがわかっていた。水の精霊アクアと木の精霊レンがケンジにまだ契約されているので、ケンジ達が無事であると思い安心していたのだ。ベノイ達はセンリャン達の幸せそうな様子を見て、まさかカナエがタカオにさらわれたなどとは予想すらしていなかった。