上司たちの関係
現在連載中の「南国の魔法」は現実世界は東南アジアの某国を参考にしていますが、この作品はフィクションであり現実の場所、ものとは関係ありませんのでご了承ください。
「ねぇ、山元くん。上杉さんと武田さんって同期なんでしょ?」
ユリは小さい声でケンジにたずねた。
二人の前を黙々と重そうな袋をもった男性化した主任のカナエが歩いていた。
ケンジ達は奇跡の星があるはずのジャランを目指して歩いている。
しかし、ただならない様子のカナエはユリが隣を歩いていいのか戸惑うほどで、ユリはケンジの横を歩いていた。
ケンジにはそれが一時的とは言え、嬉しかった。
「高校の同級生で、入社も同じ時期だったはず。二人が仲良く話してる様子は見たことなかったんだけど……」
ケンジは急に人を寄せ付けないような雰囲気になってしまった上司を、いぶかしげに思っていた。
「まさか、上杉さん……。武田さんを好きだったってことはないわよね?!」
ユリは泣きそうな顔をしてケンジを見る。
「ないと思うけど。だって二人が話していたのを見たことなかったし。第一、武田係長は部長の娘さんと付き合っているって噂があったよ」
ユリより少しだけ入社が早かったケンジは、同僚の女の子たちは悔しそうに話していたのを聞いたことがあった。
ハンサムで温和な性格のタカオは社内の女性のあこがれの的だった。
でも、さっき見た武田係長は……
「それを聞いて安心したわ。あんな武田さんの様子見たら誰だって動揺するわよね。結構殺したって言ってたけど……」
ユリはタカオの様子を思い出したようで、青白くなって俯く。
ケンジはユリの肩をそっと抱いて安心させたかったが、後ではり倒されるのがわかっていたので怖くてできなかった。
「そう言えば、山元くん。メガネは?メガネしてたわよね」
ユリはふいに思い出しようにケンジの顔を見つめた。
ケンジはユリに見つめられて、胸がときめく。
性格は怖いけど、やっぱりかわいい……
「ああ、メガネ。こっちの世界にきた時に、衝撃で壊れたんだけど、不思議と見えるようになったから、必要無くなったんだ」
「ふーん。それはよかったわね」
ユリはそう言いながら、カナエに目を向ける。美しい青年は立ち止まり地図を見つめていた。
「上杉さーん」
ユリがカナエを呼ぶと落ち着いたのか、いつもの様子で振り返った。
「もうすぐ街に着きそうだ。夜はどこかのホテル……。ここじゃ、宿になるのかな。宿に泊まったほうがよさそうだね。人が集まるところに行けば奇跡の星について、なにか情報が入るかもしれないからね」
カナエは手元の地図を丸めながら前方を目を細めて見つめた。
見つめた先では森の切れ目で、もう夕方なのか赤い光がそこから放たれていた。