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南国の魔法  作者: ありま氷炎
金と銀
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金の精霊カリン

 ユリとベノイが宮殿に到着すると、すんなりと王のいる場所へ案内された。大きな黄金の扉を押すと、がらんとした空間にアドラン王のセンリャンが一人で金の玉座に座っていた。

 センリャンはユリとベノイの姿を見ると意外そうな顔をした後、にこやかな笑顔を見せた。

「ジンを連れ戻していただきありがとうございました」

 センリャンの言葉にベノイは顔をゆがめた。この王の下らないゲームのせいでエンが死んだと思うと王に殴りかかりたくなった。ユリはベノイの気持ちに気づいたかどうか、そっとベノイの腕を掴んだ。

「約束どおり金の精霊の石とその呪文とやらを教えてもらおうか」

 ベノイは怒りを抑えた声でそう言った。

「いいですよ。その前に最後にお願いを聞いてください」

 センリャンは近衛兵から手渡された黄金の鳥ジンを愛しそうに撫でながらベノイを見た。ベノイの怒りを感じていたがセンリャンにとってはどうでもいいことであった。

「あんたのせいでエンという女性が死んだ。その上また何か望むのか」

 ベノイは怒りを隠さずセンリャンを見つめ返した。

「エ……ン?」

 センリャンはその名前に懐かしい響きを感じた。確かジンの親友だった女性で何度かあったことがあった。ジンのように美しい女性だった。

 ベノイはセンリャンの表情の変化を怪訝に思ったが、センリャンはすぐいつもの笑顔に戻った。

「お怒りのようですね。私の最後の願いとは簡単です。私を殺してほしいのです。私が今まで生きてきたのはこの金の精霊様の石のため。契約主が決まれば私は解放されます」

 ベノイはセンリャンの言葉に息をのんだ。微笑みながら自分を殺してほしいという人間をいままで見たことがなかった。

 その横でユリも不可解な表情をしているのがわかった。

「いいぜ。殺してやる。俺はあんたみたいに人の命で遊ぶやつは嫌いなんだ」

「べノイ?!」

 ユリはベノイの言葉に驚きの声を上げた。

「ありがとうございます。これで安心して金の精霊様をお願いできます。ナジャル」

 センリャンがそう言うと黄金の石がまぶしい光を放ち、それは人型をとった。現われた精霊の姿にベノイとユリは見とれずにはいられなかった。金色の巻き毛に金色の瞳、まさに輝くばかりの美しさだった。

「さあ、あとは契約を結ぶのみです」

 センリャンは微笑みながらそう言った。

「ユリ、お前が結べ。俺より外の人間のほうがいいだろう」

 ユリは少し戸惑った表情をした。というのは契約主になるということは精気を与えるたびキスをしないといけないと思ったからだった。ユリは女性とキスをするということを生理的に受け付けなかった。

「私は遠慮しとくわ。ベノイ、よろしく」

「?」

 ユリの答えにベノイは不可解に思いながらも名前を考えた。

「じゃあ、俺が契約を結ぶぜ。名はカリン」

 金の精霊はベノイの言葉に微笑みを浮かべると金色の光を放った。そして次に現われたのはセミロングの真っ直ぐな金色の髪をもつ美女だった。

 その姿と名前にユリはふとある可能性を導き、そっとため息をついた。

「それでは、私の願いをかなえていただきましょう」

 姿の変化した金の精霊カリンを少しさびしそうに見た後、センリャンはそう言った。近衛兵は黄金の鳥ジンをベノイから受け取り、王センリャンに手渡した後、部屋を出るように命じられており、邪魔をするものはいなかった。



「しまった!」

 火の精霊カーナと風の精霊フォンはほぼ同時にそう叫んだ。

「ケンジ。ワタシたちの勝ちよ」

 水の精霊アクアは嬉しそうに微笑んだ。

「また先を越されちゃったみたいだね」

 タカオはカナエに向けていた風の剣を鞘に収めた。

「本当、何度も嫌になるね」

 タカオはため息混じりにそう言った。カーナは悔しそうな顔をしてタカオの元に飛び戻った。

 金の精霊が契約された今、これ以上の戦いは無駄だということがわかっていた。

「次が最後だね。土か……。ちょっと卑怯な手を使わせてもらうよ」

 タカオはふいにカナエに向かって跳ぶと、その首筋を手刀で叩いた。するとカナエが力なく倒れる。タカオはカナエをやさしく抱きとめた。

「タカオ?どういうこと?」

 カーナは突然のタカオの行動に訝しげな顔をした。

「山元くん、悪いけど。土の石を集めたら僕のところへ持ってきてくれない?もちろんほかの石も一緒にだよ。2日以内に石を持ってきてくれなければ上杉は死ぬことになる」

 タカオは微笑みながらカナエの髪を優しく撫でた。カーナはその行為を嫌そうに見ていたが、タカオの目的を聞き、口元の笑みを浮かべた。

「あなたに上杉主任が殺せるはずない!」

 山元ケンジはそう言ってタカオを睨み付けた。

「本当にそう思うかい。山元くん?」

 タカオはケンジに再び笑いかけ、カナエの首に手をかけた。

「こんな細い首だ。力を入れればすぐ折れるだろうね。僕は何人もの人間を殺してきた。もう迷いなんてないんだ」

 タカオの言葉にケンジは無言だった。

「信じていないんだね。上杉から何か聞いたのかい?しょうがないね。カーナ。上杉の腕燃やしてくれる?」

 タカオがそう言って力の抜けたカナエの腕をつかんだ。カーナは手の平を上に向けた。その手に小さな炎が現われる。


 まずい!本当に燃やす気だ!


「アクア!武田!」

 ケンジの言葉にアクアがすばやく動き、カーナの炎を氷の塊をぶつけて消した。

 カーナは舌打ちをすると再度炎を作りだした。

「カーナ!」

 タカオがそう言うとカーナは残念そうに首をすくめて炎を消した。

「わかった?僕じゃなくとも殺せるんだ。2日だよ。2日以内に僕のところに君たちがもってるすべての石、そして土の石を持ってくるんだ。いいね?」

 ケンジはタカオを睨み付けていたが、その腕の中で気を失っているカナエを見るとうなずいた。

「じゃ、これは僕達に必要ないから返すね。」

 タカオは茶色の紙をケンジに投げた。開くとそれはケンジから奪った地図だった。

「カーナ、さて行こうか。どこかのんびりしたところで待ちたいな」

「そうね。私はいつでもそいつを殺せるような場所がいいわね」

 カーナは忌々しそうにタカオの腕の中のカナエを見つめた。タカオはため息をつくとカーナの唇に口づけた。

「少し遠いところがいいな。海の近くとか」

「わかったわ。タカオ」

 カーナは名残惜しそうにタカオから唇を離すと、甘えるようにタカオの肩を後ろから抱きしめた。

「山元くん、2日だよ」

 タカオのその言葉を残し、カーナはカナエを抱くタカオを連れて宙に消えた。

「次が最後だ。木……」

 成り行きをみていた風の精霊フォンは少女の姿に戻った木の精霊レンをいつものように愛しそうに見つめると風と共に消えた。

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