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南国の魔法  作者: ありま氷炎
金と銀
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9年前の出来事

 9年前のあの日、王になり、石の管理者にもなった場所でセンリャンは黄金の鳥を持つものを待っていた。

 彼はこの日を待っていた。石の管理者として責務を負え、すべてを終わらせる日を。


 金の精霊の石を手に掴み、センリャンの思いは9年前に飛んでいた。


「センリャン、所詮世の中に本当の愛なんて存在しないんだ」

 センリャンの兄センガンは金の玉座に座りそう言って笑った。その腕にはセンリャンの恋人であったジンを抱いている。ジンはその青い瞳を下に向けたままセンリャンを見ようとしなかった。

 センガンはジンの金色の髪を指で玩ぶ。


 国王の父センリンが突然崩御して次期王として兄センガンが選ばれた。前国王から言葉がないままの選出だった。

 王になると同時に偉大な戦士センミンが伝えてきた金の精霊の石が後継される。そしてその魔法を解く呪文は王が次期王に口頭で伝えてきた。

 しかしセンガンは王からその呪文を聞くことがなかった。代わりにその呪文を知っていたのはその弟センリャンだった。

「この私がその石の契約主になり、世界を支配するのだ」

 センガンはそう言って笑うとジンに口づけた。センリャンは思わず顔を背けた。自分に優しく笑いかける数日前のジンの顔を思い出す。しかしジンはセンリャンの元を去り、次期王のセンガンの側室になろうとしていた。

「この私ではなく、お前が呪文を知ってるとは頭にくるな。父も死に際に教えなかったしな」

 センガンの言葉にセンリャンは息を呑む。それを見てセンガンは笑った。

「言ってなかったか?私が父に毒をもったのだよ。父は私を驚いた顔でみていたな。父が悪いのだよ。私に素直に王位を継承させればいいのに」

 センガンは面白い話をするような調子でそう言った。センリャンは言葉が出なかった。突然の死に奇妙さを感じていたが兄が直接手をくだしたと思いもしなかった。

「センリャン、私は愛しい弟には手を出したくないんだよ。素直に呪文を教えろ」

「金の精霊の石を貴方に渡すわけにはいきません。今わかりました。なぜ父上が呪文を貴方ではなく私に教えたのか」

 センリャンの言葉にセンガンは鼻を鳴らした。

「くだらない。石の力を使わなくてどうする。父といい、お前といい馬鹿だな。ジン、ここからはセンリャンと二人で話がしたい。先に部屋に戻り、ベッドと暖めておけ」

 センガンはセンリャンの顔が嫉妬でゆがむのがわかったがあえてそう言った。

「今宵もお前のその美しい体を楽しませもらうぞ」

 部屋を去るジンにセンガンはにやけた笑みを向けた。ジンは何も話さず、視線をセンリャンに向けることはなかった。

 数日前に会ったときはいつものジンだった。昨日ジンは硬い表情で兄、王の側室になると言った。センリャンが何を聞いても答えず、ジンはセンリャンの元をさった。そして今日、きらびやかなドレスを纏ったジンが宮殿に姿を表した。その美しい姿に誰もが魅了された。センガンはわざと見せびらかすようにセンリャンにジンを紹介した。

「ジンはいい女だな。ベッドでの腕もなかなかだ。あの女が俺の腕の中でどのように乱れるのかお前に見せたいくらいだ。」

 センガンはセンリャンをわざと挑発するようにそう言った。

「ジンを、どうやってジンを私から奪ったのですか?」

 センリャンの問いにセンガンは笑った。

「奪う?あの女から俺に媚びてきたぞ?俺は王だからな。王子なんかと比べられないだろう。」

 センガンの答えにセンリャンは怒りで拳が震えるのがわかった。‘

「悔しいか?世の中本当の愛なんて存在しないんだよ。力だすべてだ。わかっただろう。早く呪文を教えろ」

「貴方などに石は渡さない。王といえども呪文を知らない限り石の契約主になることはできない」

 センリャンはそれだけ言うとセンガンに背を向けた。センガンとこれ以上話すつもりはなかった。

「じゃあ、力づくで聞くまでだ!」

 センガンがそう言うと剣を抜いて切りかかった。センリャンはその剣をぎりぎりで交わした。

「ほお。本ばかり読んでる割には身が軽いな」

 センガンは口元に笑みを浮かべると再び切りかかった。センリャンはセンガンの剣を交わしていた。しかし。剣の訓練などしたことがないセンリャンにとって、その身に剣が触れるのも時間の問題だった。

「ほらほら、そろそろ。息が上がってきたようだな」

 センガンは息を乱さずそう言った。対するセンリャンは肩で息をしている状態だった。

「早く呪文を教えろ。そうじゃないと死ぬぞ」

 センガンの剣がセンリャンの首筋近くをかすった。

「死んでも教えるわけにはいきません!」

「じゃあ、死ね」

 センリャンの言葉に答えるとセンガンは剣を横に振り切った。

「うっ」

 剣はセンリャンの横腹を深くえぐった。大量の血がその身から飛び散る。センリャンは血まみれになりながら床に倒れた。

 その目は焦点があっておらず、意識が遠のいていってるのがわかった。

「力を入れすぎたようだな。手遅れか。兄から最後のやさしさだ。楽にしてやろう」

 センガンは止めをさすべく、剣を振り上げた。

「うぐっつ」

 センガンの動きが止まった。背後を見るとジンがいた。背中の部分に鈍い痛みがある。見るとナイフが腰の部分深くささったいた。

「この売女が!」

 センガンは振り上げていた剣をジンに向けて振り下ろそうとした。しかし、力なくセンガンは倒れた。

「センリャン、センリャン!」

 ジンはセンリャンに走りよりその名を呼んだ。しかし、センリャンは意識を取り戻すことはなく、その体は急速に冷たくなっていた。

「お願い、誰か!センリャンを!」

 その声を聞くものはいなかった。近衛兵はセンガンの指示ですべて遠ざけられていた。

「お願い!誰か!」


 金の精霊は死に行くセンリャンの手の中でその声を聞いていた。


 銀……銀!

 ジンの声があまりにも切なく金の精霊は自分が動けぬ代わりに弟の銀の精霊を呼んだ。


 銀よ。わたくしの代わりにあの哀れな女性の願いを聞いてくれないでしょうか。私は石の身……何もできません。


 しかしあなたなら助けてあげることができるでしょう。


 姉の言葉に銀の精霊はジンの前に姿を現した。

 ジンの顔が凍りついた。しかし。ジンは悪魔でもなんでも自分の願いをかなえてくれればよかった。

「お願い。センリャンを助けて。あたしの命あんたにくれてもいいから」

 銀の精霊は姉によく似た女を見て、少し考えた。通常命を助ける場合は命を奪うことも同時にしなければならない。それは生と死をつかさどる銀の精霊の役目だった。

 しかし姉の願い、姉に似たこの女の命を奪うのも惜しい気がしていた。

「わかりました。その男の命助けてあげましょう。あなたの命もいただきますが。あなたに少しだけ時間をあげましょう」

 銀の精霊がそう言うとジンの姿が黄金の鳥に変化した。そして同時にセンリャンの傷が癒えていく。


 姉君……

 あなたの願いかなえました。しかし、このことはこの男に伝えてはいけません。

 それが私が願いをかなえた条件です。

 もし、この男がジンの正体を自ら見破ることができたならジンの魔法は解けるでしょう。そうでなければジンは姉君が誰かの元に渡った際に死ぬことになります。


 それでは姉君。

 また会う日まで……


 銀の精霊は、石の姿の金の精霊にそう言うと空に消えた。


「うっ」

 センリャンは体をゆっくりと起こした。そして血の海に倒れる兄の姿をみた。

「私がやったのか……」

 その問いに答えるものはなく、側にいた黄金の鳥がその青い瞳でセンリャンを見つめていた。

 窓の外は満天の星が輝いていた。


「王!王!」

 しばらくして近衛兵達が部屋に入ってきた。玉座に座る血まみれのセンリャンとその横に控える黄金の光を放つ金の精霊、床に倒れるセンガンを見て近衛兵たちは動きを止めた。


 この日、センリャンは王になった。金の精霊の石を管理し、センリンの息子であるセンリャンの即位に異議を唱えるものはなく、センガンのことは闇に葬られた。


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