遊戯の終わり
「ふ~ん。宮殿ねぇ」
ジンはそう言うとベッドに体を埋めた。
最初の出会いから数ヵ月後、センリャンはいつの間にかジンのお客になっていた。
「あたしはそういう窮屈なのは嫌なんだよ。どうせ宮殿にいってもやることは一緒なんだろ?」
ジンがそう言ってセンリャンを見た。王子の妾の一人として宮殿に住む。ジンはその暮らしが今の娼館での暮らしよりずいぶん楽になるのを知っていた。しかし、妾の一人としてセンリャンに囲われるのは嫌だった。
「あたしはエンみたいに普通の男に貰われたい。男にとってたった一人の女になりたいんだ」
ジンはセンリャンにそう言ったが、無理な願いだということがわかっていた。娼婦が王子の正妻などになれるはずがなかった。
「それでは、私の妻になってくれませんか?」
センリャンはジンの金色の髪を弄びながら聞いた。しかしジンを見つめる瞳は真剣なものだった。
「王位は兄が継ぎます。私は王子の座に何も未練はないのです。ジン、私の妻に……」
ジンはセンリャンに最後まで言葉を言わせなかった。ジンはその唇に自分の唇を重ねる。
センリャンはジンの口づけに答え、その体を強く抱きしめた。
「センリャン。決着がついたようですわ。」
その言葉にセンリャンは視線を窓から金の精霊に戻した。また昔のことを思い出していたらしい。センリャンはそんな自分に苦笑して口を開いた。
「どちら側ですか?」
「ケンジ達のようですわ」
センリャンはその答えに意外そうに眉をひそめた。
「そうですか。それならもうすぐこちらに来ますね」
センリャンは金の精霊の髪にそっと触れ、軽く口付けた、
「貴方と別れるのはつらいですね」
金の精霊は微笑むとセンリャンの頬に軽く手を触れた。
センリャンが石の管理者になって9年近くが経とうとしていた。センリャンは心から笑うことがなくなり、すべてのことに無関心になっていた。彼は石の管理者から解放されることを待っていた。
金の精霊はセンリャンの繊細な横顔を見つめた。
窓の外はあの日と同じ満天の星空だ。
あの日から彼は王になり、同時に石の管理者にもなった。
そして彼は兄と愛する恋人をなくした。
べノイとユリは宮殿に向かって走っていた。その腕には黄金の鳥が抱かれている。ケンジ達がタカオを足止めしてる間に王に黄金の鳥を渡し、金の精霊の石を手に入れるつもりだった、
二人はただ前を見て走っていた。エンの死は黄金の鳥を入手するというゲームのよってもたらされた。直接手を下したのはトンという男で指示したのがタカオだったとしても、べノイ達がこのゲームに乗らなければ避けられる死だった。
ヤップの表情は絶望にあふれていた。メイはおびえきっていた。
べノイとユリは二人の表情を思い出したが、ただ宮殿に行く道をひたすら走っていた。
水の精霊アクアは不利な戦いにあせっていた。頭上の火の精霊カーナは余裕に笑みをたたえていた。
「ケンジ!」
アクアはケンジのもとへ一気に飛ぶとその唇に自分の唇を重ねた。精気が体に流れ込む。
「ありがとう!」
突然のキスに真っ赤になってるケンジに微笑むとアクアは氷の槍を出現させ、カーナに向かって飛んだ。
「木……。どうしてオレ達が戦わないといけないんだ」
風の精霊フォンは木の姿になった木の精霊レンの攻撃を避けながらそう言った。レンは無言で攻撃を続ける。
「オレはただオマエを石から解放して、前のように一緒に過ごしたいだけなのに」
フォンは繰り出される攻撃をただ避けながら悲しげな瞳をレンに向けていた。
「これで何度かな」
タカオは風の剣をくるくると玩びながらカナエを見た。タカオの頬には火傷の跡が赤く残る。
「武田……。心を取り戻して。一緒に帰るんだ」
カナエはタカオの嬉々とした瞳を見つめてそう言った。今のタカオにそう言うのは無駄であったがカナエは言わずにはいられなかった。
後悔してる。
あの時別れを切り出したことを……
タカオがカナエに母親の面影を重ねてるいるだろうが、なんだろうが、カナエはタカオが愛しかった……
本当はずっと一緒にいたかったのだ。
タカオはカナエにいつものような笑みを返すだけで何も言わなかった。
「お前に今殺されるわけにはいわかないんだ」
そう言ってカナエはタカオに向かって跳んだ。