金色の鳥とメイを追って
「ケンジ、火が人体化したわ。カナエも同じ場所にいるみたい」
水の精霊アクアはふいに人体化し、宙を見上げそう言った。
「行こう!」
ベノイはケンジの言葉にうなずくと金の剣を握りしめる。ユリもケンジのほうへ小走りでやってきた。
「さあ、行くわよ!」
アクアは液体化するとケンジ達を包み、宙に消えた。
「来るぞ!」
風の精霊フォンはそう言って、地味な人間の姿から元の精霊の姿に戻った。
タカオはため息をつくと風の剣の鞘を抜く。
「火、今度こそ逃がさないわよ」
アクアの声がしてケンジ達が酒場に現れた。それまで酒場に興味本位で残っていた人々も新しく現れた精霊達に驚き店を逃げ出した。
「タケダ!お前があの豚野郎に鳥を奪うように頼んだのか!」
べノイは金の剣の剣先をタカオに向けて怒鳴った。
竜巻に吹き飛ばされる前に、首を掴まれたヤップを見たので、実行犯はヤップではなく、自分達を吹き飛ばしたトンということが分かっていた。
「そうだよ。ベノイだっけ?なかなか勘が鋭いね」
タカオはいつものように穏やかに微笑む。
「くそったれが。また人を殺しやがって!俺が仇をとってやるぜ」
ベノイは金の剣を両手で握りしめるとタカオに跳びかかった。
「馬鹿ね」
火の精霊カーナはベノイの前に立つとその剣を片手で受け止めた。そして至近距離からもう片方の手で火の塊を放つ。
「ベノイ!」
ベノイの体が酒場の壁に激突する。幸運なことに金の剣がシールドとして役に立ったのかベノイの体にダメージはなかった。ケンジはほっとした後、タカオを振り返って見た。
また武田係長のせいで人が死んだ。
止めれなかった……
「アクア!火の精霊をよろしく!」
今度こそ、武田係長と止めてみせる。石をすべて集め元に戻すんだ!
ケンジはタカオに向かって跳んだ。ベノイも壁から立ち上がり、金の剣を構える。タカオを守るためにその側に戻ろうとした火の精霊を、アクアが氷の壁を作り阻む。
「ワタシ達もそろそろ決着をつけない?」
そう言って微笑む水の精霊にカーナは悔しそうな顔を見せた。
鈍い音がしてケンジは誰かが剣を受け止めたのがわかった。
「う、上杉主任?!」
剣を受け止めたのはカナエだった。ケンジは目を見開き、ベノイは驚いて動きを止めた。
「武田とは私が戦う。手を出さないでくれ」
そう言ったカナエの瞳に強い決意が見て取れた。ケンジは風の剣を鞘に納めた。
「わかりました。でも殺されそうになったら僕は加勢しますからね」
ケンジの言葉にカナエはうなずくとタカオを振り返ってみた。タカオはただ成り行き面白そうにみているようだった。
「ケンジ!俺は反対だ!奴は俺が殺す!」
ベノイはタカオを睨んで金の剣を握りなおす。
「ベノイ、ベノイにはメイちゃんだっけ?その子と鳥を探し出してほしいんだ。多分このあたりにいるはずだから。これ以上犠牲を出したくないんだ。橘さんもベノイについて行って」
ケンジは珍しく有無を言わせない口調でベノイとユリに言った。
エンの遺体をみた。やっかいなのはタカオではなく、その人間のような気がしていた。
「お願い、早く!」
ケンジが再度そう言うと、ベノイは無言で剣を納め店を飛び出した。ユリもケンジを一度見つめるとうなずいてベノイの後を追った。
これ以上、誰にも死んでほしくない。
ケンジはそう心の中でつぶやくとカナエとタカオの戦いを見守るため視線を酒場に戻した。
「なあ。木。怒るなよ。しょうがなかったんだ」
フォンは緑色の目に怒りを湛えて自分を見てるレンにそう優しく語りかけた。少女姿のレンはフォンの言葉に怒りが静まるどころか、ますます怒りを顕わにする。
「風……。アナタは人間に構わない過ぎだわ。人間は必死に生きているの。ワタシ達精霊とは違って命が短く、はかない人生なの。それを壊す権利はアナタにないはずだわ」
レンは怒りを隠さずそう言った。フォンはレンの怒りが理解できず、ただ不可解な表情を浮かべるだけだった。フォンにとって人間は別の世界に生きるもので、そのひとつひとつの命なんでどうでもよかった。
「アナタに理解してもらおうと思うのが間違いだったかもしれないわ」
フォンの表情に、レンは寂しげに微笑むと木の姿に変化した。フォンはため息をつくと攻撃に備えるべく、構えをとった。
「さっきまでの威勢はどこにいったの?」
カーナは両手で火の鞭を握りしめて、宙に浮かんでいた。アクアとカーナの戦いで酒場はほぼ全壊しており、屋根が完全に吹き飛んでいた。
「くっつ」
アクアは氷の槍を支えにして立ち上がると、カーナを見上げた。常に精気をもらっているカーナと違ってアクアやレンは無駄に精気をケンジからもらっていなかった。
そのせいか、パワーに違いが現れていた。
アクアは氷の槍をカーナに投げつけた。カーナは余裕な笑みを浮かべると火の鞭でそれを粉々にした。