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南国の魔法  作者: ありま氷炎
金と銀
64/151

ヤップとエン

「エン、エン!」

 ぼんやりする意識の中で、血は流し倒れている妻の姿のヤップの目に映る。

「エン、俺が悪かった。頼むから死なないでくれ。俺を置いて行かないでくれ」

 ヤップはエンのところまで這って行くと、体を起こしエンを抱きしめた。ヤップの服がエンの血によって赤く染まっていく。

「ヤップ……やっと私を抱きしめてくれたわね。私ずっと寂しかったの。あなたは変わったしまった。メイが生まれてから……メイは正真正銘あなたの子なの。信じてお願いよ……」

 エンはヤップの腕の中でそう言った。その緑色の瞳には涙が溢れている。

「俺が悪かった。俺が……。愛してる。お願いだ。死なないでくれ……」

 ヤップは涙を流しながら叫んだ。エンは微笑むと夫の顔にそっと触れる。

「私はもうだめだわ……ヤップ。お願い、メイを、メイを助けて。あの子を……!」

 そう言うとエンは咳き込んだ。黒い血が床に飛び散る。

「私もあなたを愛してる。ずっと愛してる。メイを……私たちの子をお願い」

 エンはヤップの目を見つめると、その手を力強く掴んだ。

「エン、エン!」

 ヤップが涙を流し、その手を握りしめる。

「ヤップ。お願い」

「わかった。わかったから。もうしゃべるな」

 ヤップの言葉にエンは微笑むと、掴んでいたヤップの手を放し、目をゆっくりと閉じた。

「エン?エン、起きてくれ、エン!」

 ヤップはエンの頬を撫で、何度もエンに呼び掛けた。しかしエンの目が再び開くことはなかった。

「ちくしょう!エン!エンーー!」

 半壊した家の中でヤップの悲しい叫び声が響いた。



「橘さん、ベノイ!」

 破壊音を追ってケンジ達が駆け付けると半壊した家があり、その家の外に倒れているユリとベノイを見つけた。

「ケン……ジ?」

 ユリがうっすらと目を開いた。その横で意識を取り戻したベノイが金の剣を支えに立ちあがる。そして半壊した家をみて顔色を変えて家の中に入った。

「ベノイ?」

 ケンジがその後を追って家の中に入る。

 散らかった家の中でベノイが茫然と立ちすくんでいた。視線の先には血の海があり、その中心に美しい布がかけられていた。

 ベノイはゆっくりと血の海にちかづき、布を取った。

 そこには静かに目を閉じて眠るエンの姿があった。その美しい金色の髪は血にそまっていた。

「畜生!メイはどこだ?」

 ケンジがエンの遺体に布をかけ直す。ベノイは急いで2階に上がった。

「あいつら、メイごと鳥を奪いやがった!」

 ベノイは1階に駆け降りると外に飛び出した。そして左右を見渡す。しかし逃げた先がわかるはずもなくベノイは立ちつくすしかなかった。

「エンさん!」

 ユリは家の中に入りエンの遺体を確認し、声を上げた。

 黄金の鳥のせいでエンがこんな目にあったのか、ユリ達にはわからなかった。しかし自分達を吹き飛ばすほどの風の力が関わってるということはタカオがその影にいるのは確かだった。ベノイは拳を血が出るほど握りしめ、どこかにいるはずのメイのことを思った。



「こんなところに一人でいるなんて……」

 タカオはカナエの姿を見ると猫のように目を細めた。

 タカオ達はトン達が黄金の鳥ジンを連れてくるのを酒場で待っていた。そしてそんな時カナエがふいに一人で酒場に入ってきたのだ。

 カナエが酒場に入ると男達は好奇な視線でみた。線の細い美しい男が入ってきたのだ。フォンも美しい男であったが、カナエにはそれとなく色気がある美しさだった。男でもふと心が奪われそうな色気が漂っていた。

「こんなところにいるわけないか……」

 男たちの無粋な視線に苛立ち、酒場を出ようとするとカナエはある視線を感じた。振り返らなくてもカナエは誰が見ているのがわかった。

「武田か……」

 期待せずこの酒場に入ったので奥まで確認しなかったのだ。カナエは振り向いてタカオを見つめた。



「トン!待て!メイを放せ!ぶっ殺してやる!」

 トンと、メイを抱えるウンはその声に振り向く。

「おう、ヤップか。まだ生きていたのか」

 トンはニヤっと笑ってそう言った。しかしその顔には冷や汗が浮かんでいた。ヤップはナイフを握りしめ、鬼の様な形相をしており、空気が切れそうなくらい殺気を放っていた。

「ウン、お前にまかせる。」

 トンは暴れるメイを抱きかかえるとヤップをウンに任せて先を急ぐ。もたもたしていたら自分の命も危ないと感じたからだった。

「くそがっ。待ちやがれ!」

 ヤップはナイフを握りしめてトンを追おうとしたが、ウンに道を塞がれた。ヤップはウンを睨むと刃先をウンに向けた。


「タカオ」

 そう言って火の精霊カーナが人体化した。そして二人の間に入るように立ち、カナエを見つめた。

「カーナ」

 タカオが珍しく諌める声をかけた。カーナには、ここで人体化すれば気配が悟られ、ケンジ達来るのがわかっていた。しかし、タカオがカナエと二人きりで話すことが彼女には許せなかった。

「まったく、オマエは」

 フォンがあきれるようにカーナに向かってそう呟く。


「せ、精霊だ!火の精霊だ!」 

 酒場の男たちはふいに現れた真っ赤に燃える美女を見て、噂の悪魔のような精霊だと悟る。そして悲鳴をあげると逃げ出し始めた。

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