メイたち一家に襲い掛かる悪党
「はい、ベノイ」
ユリは木の樽に座り、そっと家の様子を窺っているベノイに買ってきたパンと葡萄酒を差し出した。
「ユリ。ありがとう」
ベノイは笑顔でそう言ってパンと酒を受け取る。
ユリとベノイは、タカオ達が黄金の鳥を狙ってまたメイ達の元へ現れる恐れがあるので、家の外で見張ることにしていた。旦那のヤップがあの調子では話しても無駄だと思い、そうすることにしたのだ。
「それにしても、あの旦那。最低だわ。私がエンさんだったらとっとと別れてるけど」
ユリはリンゴをかじりながらそう言った。
ベノイはそれに何も答えずただ家の方を見ていた。ベノイはヤップが酔っていたがエンを愛しているのがわかった。またエンもヤップに対して愛情を持っていると感じていた。
「ベノイ、見て人だわ。こんな時間に何のようかしら?」
ユリとベノイが見守る中、二人の男はヤップの家の扉を叩く。ヤップを男たちの顔を見て嫌な顔をしたが、素直に家に中に招きいれた。
ユリ達はその男たちがタカオの指示で動いてると思いもせず、ただ成り行きを見守ることにした。まさかその男たちがヤップ達に危害を加えるとは思いもしなかったのだ。
「おい、ヤップ。お前の娘、なんでも黄金の鳥を持ってるみたいじゃねぇか」
ヤップの元同僚トンが家に入ってくるなりそう切り出した。その表情は少し奇妙でおびえてるようにも見えた。
「なんで知ってるんだ?でもお前にやるつもりないぜ。帰ってくれ」
ヤップはトンにそれだけ言うと背を向ける。
「そうはいかないんだ。ヤップ。俺の命と金がかかってるんだ。素直に鳥を俺によこしな」
トンがもう一人の大柄の男に合図をすると、男はヤップの首を絞め上げる。
「死にたくないなら。鳥を渡すんだな!」
「ヤップ!」
2階から人の声に気づいてエンが降りてきた。首を絞められているヤップを見て悲鳴を上げる。
エンの悲鳴に気づき、ベノイとユリが家に飛び込んできた。
「くそったれ!」
ベノイはそう言って金の剣を鞘から抜き、切りかかろうとした。トンはそれを見ると慌てて胸元から小瓶を取り出し蓋を開けた。すると中から竜巻のような風が発生し、ベノイとユリを家の扉と壁ごと外に吹き飛ばす。
「いいものもらっててよかったぜ」
トンはほっとしてそう言い、中身の無くなった小瓶を投げ捨てた。タカオ達はベノイ達がいることを予測して、フォンの力を入れた小瓶をトンに渡していた。
「さて、エンさんよ。相変わらずきれいだなあ」
トンはその顔に下卑た笑みを浮かべ、青ざめた顔のエンを見上げた。
「俺とすこし楽しまないかい?」
「エ……ン」
ヤップが首を掴まれた状態で手足をバタバタと動かし反抗するが、その腕はびくともしなかった。トンは階段をゆっくりと上がりエンに近づく。エンは恐怖で顔を歪めたまま立ちすくんでいた。
「お母さん!」
2階の部屋から黄金の鳥を抱えたメイが出てきた。首を掴まれてもがいている父の姿と母のおびえる姿をみてメイの顔が青ざめる。
「ああ、黄金の鳥か。これはこれは本当にきれいだな」
トンはエンに向けていた視線をメイと黄金の鳥ジンに向け笑いかけた。メイはジンを抱いたまま後ずさる。
「メイ、逃げて!」
母の声にメイは逃げようと背を向けたがトンが素早くメイを掴まえた。
「お嬢ちゃんもエンに似て別嬪だなあ。黄金の鳥は渡さないといけないが、お嬢ちゃんとは楽しめそうだな」
トンがメイの首筋にその汚い顔を近づけて囁いた。
「そんなことさせないわ!」
エンはトンに向かって走り出した。しかしトンはメイを捕まえたまま、簡単に避けた。
「娘を放して!」
再度エンはトンから娘を奪おうと手を伸ばす。トンは薄笑いを浮かべるとエンをその脚で蹴り飛ばした。
「お母さん!!」
エンは蹴られた勢いで2階の踊り場から下に落下した。
「うっ」
床に体を打ちつけ、全身から血が流れだす。
「ちっ、ちょっと強く蹴りすぎた。ウン!行くぞ。このガキと鳥を連れてずらかるぜ」
エンが流す血をみて少しびびったのか、トンはヤップを掴む男にそう声をかけて、階段を下りた。ウンと呼ばれた男は気を失いかけているヤップを投げ捨てるとトンが抱いてるメイを代わりに担ぐように掴んだ。
「お母さん!お父さん!」
メイはそう叫びながら手足を動かし抵抗したが、男の力は強くびくともしなかった。
「黙らせろ」
トンの言葉をうけてウンはメイの口に布を巻く。メイは涙を流しながら床に伏してる父親と母親の姿を見つめ続けた。