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南国の魔法  作者: ありま氷炎
金と銀
62/151

次なる手

「ユリお姉さん、もっと見せて!」

 メイの言葉にユリは再度矢を川に向けて放った。川の水面を炎の矢が勢いよくとび、落ちる。

「ユリお姉さん、すごいねぇ!」

 メイは腕に黄金の鳥ジンを抱え、木の根っこに座りながら大喜びで手を叩いた。ベノイとエンが話しこんでる間、メイの面倒をユリがみていた。ユリが持っている火の弓矢を見たいというので、川に向けて矢を放って見せていた。


「ひっく、いい度胸じゃねぇか」

 ふいにドスの利いた声がして、真っ赤な顔のヤップが現れた。エンは顔色を変え、ヤップを見つめる。

「おい、客取りは嫌じゃなかったんだっけ?それとも何か新しい男か?」

 ヤップはよどんだ目をエンに向けながら笑った。

「おい、失礼だぞ」

 ベノイがヤップを睨みつけるとヤップは大笑いをしてエンの腰に手を回し、口づけた。

「自分の妻に何言おうと俺の勝手だろ?」

 ベノイは何もいわずヤップを見つめた。エンは蒼白な顔をしているが否定しないところみると本当にヤップが旦那だろうということがわかった。

「ふん。おい、エン。帰るぞ」

 ヤップは鼻を鳴らすと、エンの腕と掴み、ベノイに背を向けた。エンは申し訳なさそうに振り向いてベノイを見た。

「メイ、帰るわよ」

 母の声にメイは視線を向け、父の顔を見るとおびえた表情を見せてジンを抱きしめた。

「メイ。お前、いいもの持ってるじゃないか」

「ヤップ。これは借りものなの。この人たちの……」

 エンがそう言ったがヤップは聞く耳をもたなかった。

「メイ、その鳥連れて帰ってもいいぞ。」

「本当、お父さん?」

 メイはヤップの言葉を聞くと嬉しそうに笑った。

「メイ、それはこの人達のでしょ」

 エンがそう言ったがメイはジンを抱きしめ放そうとしなかった。

「エン。鳥はメイのだろう?持って帰るぞ」

 ヤップが鳥を高値で売るつもりでそう言っているのがわかっていた。しかしメイはそんなこととは知らず、めずらしく父が許可したので嬉しそうだった。

 エンの困った顔をみて、ベノイが口を開いた。

「明日返してくれればいいぜ」

「ベノイ!」

 ユリはびっくりしてベノイを見たが、メイの嬉しそうな顔をみてため息をついた。

「そうね。明日でいいわ」

「ありがとうございます。」

 エンは二人に深々とお礼をするとメイの手を掴んだ。ヤップはベノイとユリを睨みつけると舌打ちをして歩き出した。エンはメイの手を引いてヤップを追い掛けながら再度ベノイ達をみて頭を下げた。



「おかしいわね。気配が消えたわ。風の気配まで。木はどう?」

「私も何も感じられないわ」

 タカオ達が去った後、ケンジ達は後を追おうとして精霊たちの気を探っていた。しかし、先ほどから水の精霊アクアと木の精霊レンが火の精霊カーナと風の精霊フォンの気を探っていたが見つけられなかった。

「火は石になってるとしても、風まで……どういうことかしら」

 アクアの疑問に誰も答えるものはいず、ただ焦った顔で暗くなった空を見上げた。

「アクア、とりあえず、ベノイ達を先に探そう。手分けすれば探せるはずだよ」

「そうね。カナエは奇跡の星のかけらを持ってるから気配でわかるし」

 ケンジの言葉にアクアはうなずき、ケンジとカナエは別行動をとることにした。

「上杉主任、一人で無茶しないでくださいね。何かあったら僕がベノイに殺されますから」

 ケンジが念を押すように言い、カナエは苦笑しながらも頷いた。

「わかってる。私もまだ死ぬわけにはいかないから」

 タカオの心を取り戻すまで、カナエはタカオに殺されるつもりはなかった。カナエはタカオに10年前に伝えられなかった自分の気持ちを伝えるつもりだった。だからそれまで死ぬわけにはいかなかった。


 腕っ節が強そうな男たちが集まる酒場で、タカオともう一人男―黒髪に黒い瞳の美しい男は完全に浮いていた。

 二人は男たちの無粋な視線を気にする様子もなくお酒を飲んでいた。

「さあ、どいつにする?」

 黒髪の美しい男はタカオに聞いた。

「そうだね。フォン。あの人はどうかな」

 タカオはお酒の入った木のカップを片手に大柄な男に視線を向けた。

 黄金の鳥の行方は地図で探すことができるが飛んでいっても、またケンジ達に気を探られ邪魔されるのがわかっていた。そこでタカオ達は気を消し、さらに人間を使って鳥を手に入れようとしていた。

 気配を消すため石になれないフォンは人間に化けて気配を消していた。黒髪に黒い瞳と地味な配色で本人は気に入らないが精霊の姿と同じであれば人間として違和感があるので仕方なかった。カーナはつまらないそうに石の姿でタカオのポケットでじっとしていた。

「おい、男」

 フォンはその大柄の男のところへ行き、そう声をかけた。男は不機嫌そうにフォンを見る。

「なんだぁ?お前は?」

 男はその醜い顔を怒りで歪めてフォンを睨みつけた。

「いっ」

 フォンは男の手をひねるように掴んだ。

「人間ごときがこのオレ様に対してその態度とは。気に食わないな」

 フォンは男の手をひねったままそう言った。男の顔が苦痛にゆがんでる。周りにいた男たちも大柄の男に比べ細身のフォンが簡単に男を制したのが奇妙で、タカオ達は店の中で注目を浴びていた。

「フォン。放してあげなよ。構っていてもしょうがないし。とりあえず話を聞いてもらう必要もあるしね」

 タカオがそう言うとフォンは舌打ちして男の手を放した。

「さて、僕はお願いがあるんだけど……」

 フォンに解放され、床に力なくしゃがみこんでる男にタカオを笑顔で要件を切り出した。


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