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南国の魔法  作者: ありま氷炎
金と銀
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金色の鳥を巡る戦い

「風!」

 愛しい木の精霊レンの声がして、風の精霊フォンは動きを止めた。

「あーあ、またお邪魔虫だわ。アンタがとろとろしてるから」

 火の精霊カーナは苛立ちまぎれにそうつぶやくと火の鞭をいつでも使えるように握りしめた。タカオは楽しげに笑みを浮かべたまま、風の剣を構えた。

「その子を殺したらゆるさないわ!」

 レンはその緑色の目に怒りをにじませそう叫ぶ。

「レン、オマエを石から解放するためだ。わかってくれ。たかが人間一人や二人のことだろう?」

 フォンは穏やかにレンに言ったが、レンはその怒りの瞳をフォンに向け、戦うため木の姿に変化した。

「ガルレンのように殺させるわけにいかないの!」

 レンの枝がフォンを襲う。フォンはため息をつくとその攻撃を避けた。


「ベノイ!その人たちをよろしく」

 ケンジはそう言って水の剣をタカオに向けた。ベノイはカーナの視線から守るようにエンとメイの前に立つ。

「こざかしいわね」

 カーナは火の鞭をベノイに向かって伸ばしたが、それは水の精霊アクアの氷の槍に防がれた。

「またアンタ。本当いらいらするわ!」

 カーナはそう言って、鞭も持たない別の手に火の塊を作るとアクアに投げた。ケンジは水の剣を振り、その火の塊を水の塊によって消滅させた。タカオはその隙に風の剣をカナエに向かって振り下ろす。カナエは地面を拳で叩いて、土の壁を作り、襲ってくる風を防いだ。

「上杉。やるね」

 タカオは嬉しそうに微笑んだ。

 ユリは元気になったとはいえ、まだ矢を射ることに戸惑いがあった。タカオの体に残る火傷の痕がユリがしたことを主張してるようで矢を射ることができなかった。

「橘さん!」

 ケンジはユリに振り下ろされた火の鞭を水の剣で防いだ。剣に鞭がからみつく。

「ベノイ、橘さんとその人たちを連れてここから逃げて」

 ケンジの言葉にベノイは心配そうにカナエをみた。カナエはタカオと対峙したままだった。

「心配ない。僕が上杉主任を守るから!」

 そう言ってケンジはからみついた火の鞭を立ち切った。カーナは鞭を再生し、再度ケンジに振り下ろしたが、それはアクアが氷の槍で止めた。

「橘さん。とりあえずベノイと一緒にその人たちと逃げて」

 ケンジの指示にユリは悔しそうな顔をした。

「ケンジ、ごめん。役に立たなくて」

 しかしユリは今の自分が戦力にならないことがわかっており、そう言うとメイとエンのところへ走った。

「ふん、逃がさないわ!」

 カーナがアクアを睨みながらも鞭を持つ手とは逆の手をユリに向けた。

「俺を忘れるなよ!」

 ユリに発せられた炎の塊はベノイが金の剣を使い防いだ。ケンジはほっと胸をなでおろした。

「じゃあ、俺らは行くぜ。後は頼む!」

 ベノイはケンジに不敵な笑みを浮かべた後、メイを抱きかかえ、ユリとエンと共に走り出した。

「逃がさないっていってるでしょ!」

 カーナが再度作り出した火の塊を今度はケンジが水の剣で粉砕する。

「君の相手は僕とアクアだ!」

 ケンジはベノイ達が走り去った道を塞ぐように立つと、水の剣を両手で構えた。


「木!やめてくれ!」

 レンとフォンの戦いは同じことの繰り返しだった。フォンはレンから繰り出される攻撃をただ避けていた。フォンはレンを深く愛しており、傷つけるつもりはなかった。しかしこのまま無駄な戦いを続ける気もなかった。


「上杉、元気になったみたいだね。僕と会えなくてさびしかった?」

 タカオは目を猫のように細くしてそう言った。その手には風の剣がしっかり握られている。カナエは土のグローブをはめた拳を握りしめた。

「相変わらずだね」

 タカオはふっと笑うと風の剣を振り下ろした。カナエはそれを両手で受け止めた。

 二人の視線が重なりあう。

 タカオの黒い瞳を間近にみて、カナエは10年前のタカオの優しい視線を不意に思い出した。そして繰り返されるベッドの上で優しい口づけ、自分の腕の中にうずくまるタカオの感触が蘇った。

「上杉。ぼーとしてると死んじゃうよ」

 タカオの黒い瞳がすぐ側でカナエを見つめていた。その瞳には嬉々とした光が浮かんでおり、以前のような優しさは影をひそめていた。タカオの剣先が首筋を狙っていた。カナエは剣を両手で押し戻すと、後ろに飛んだ。

「おしかったね。あと少しだったんだけど」

 タカオは風の剣をくるくると回してそう言った。



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