タカオの願い
なんだって言うんだ!
わけわかんないよ。
なんであんな温和な人が悪魔みたいになってるんだよ。
願いっていったいなんだったんだ。
ケンジは先ほどの血まみれの男に掴まれて血に染まった自分の肩を見つめた。
生臭い匂いがそれが現実に起きたことであることを証明していた。
カナエは茫然とタカオが消えた場所を見ていた。
その顔はタカオの血塗られた手で触れられため、赤く染まっている。
ユリはカナエの後ろで青白くなっていた。
そうだ、あのくそガイドに聞けば何かわかるかもしれない。
「ガイド!ガイド、出て来い!出てきて説明しろ!」
数時間前までは敬語で話しかけていたのだが、この状況下、あのガイドに敬語なんて使おうというは気は毛頭なかった。
「お客様、うるさいですねぇ」
けだるそうな声がして、ガイドが現れた。
「私だって忙しいんですよ。色々と……」
ガイドは最後までものをいうことができなかった。
カナエがガイドの胸元を掴んでいた。
男になったカナエは結構力があるようで、ガイドの体が少し地面から浮いている。
「どういうことだ!どうして武田があんなにおかしくなってるんだ!説明しろ!」
カナエはガイドを射抜くように見つめて言った。
「お、降ろしてくだっ」
ガイドは苦しそうにそれだけ声に出す。
「上杉主任、それじゃ話せないですよ」
ケンジがそう言うと、カナエはガイドの胸元から手を放した。
会社ではいつも冷静沈着なカナエが、こんなに怒っているのを見るのはケンジもユリも初めてだった。
「もう乱暴ですね」
ガイドはそう言いながら自分の乱れた服を正す。
「武田様のことですか?武田様は心を失うことを願ったのですよ」
「?!」
その言葉にケンジとユリは顔を見合わせる。
「どういう意味だ?」
カナエはガイドを睨んだまま聞いた。
「なんでも心があると煩わしいということで、光の噴水が心を武田様から取り去ったのです。心といっても良心ともいえる部分ですが。今の武田様にあるのは快楽を追及する本能のみ。まあ、悪魔と言われていましたが、それに近いかもしれませんね」
ガイドはそう淡々と説明する。
そんな願いがなんて……
ケンジは血の気が引き様な恐ろしさを感じていた。
「心を戻すことはできるのか?」
カナエの問いにガイドは口を開く。
心を取り戻す方法、それは願いをキャンセルすること、つまり失ったものの泉に行くことだ。
それを聞いて一行は落胆したが、失ったものの泉というのは、場所というより空間であった。つまり行く方法とは、その空間に行く条件を満たすことで、条件とはこの世界に伝わる奇跡の星という石を探す必要だった。
石が見つければ、おのずと道が開けるといい、場所を聞くとガイドは地図を参考にしてくださいと消えてしまった。
そしてケンジ達一向はまずその石を探すため、地図が指す石がある場所―ジャランを目指すことにした。