金の石を求めて
「ケンジ!追いかけましょ」
ユリは火の精霊カーナに掴まれていた首を擦りながら立ち上がった。その表情は朝の表情とは違いすっきりしたものだった。
ケンジはユリがいつもの元気を取り戻したのがうれしくて思わず微笑んだ。
「そうだね。追っかけよう。でもその前に。アクア、上杉主任のところへ戻って」
アクアはケンジの言葉にうなずくと、二人を連れて飛んだ。
「おお、無事じゃったか」
ナトゥは稽古場に現れたケンジとユリの姿をみてほっと胸をなでおろした。
ケンジは座り込んでるカナエの側に行き、声をかける。
「上杉主任」
カナエはケンジを見上げた。カナエの目は力なく、いつものような強い光は影を潜めていた。
「これから僕達は武田係長を追います。これ以上武田係長に人殺しをさせるわけにいかないんです。僕達は一緒にこの世界に来たんです。一緒に帰りましょう。」
ケンジはカナエに手を差し出しながら微笑んだ。カナエはケンジの顔をじっと見た後、ぎこちないが笑顔を見せた。
「そうだね。一緒に帰ろう」
そしてケンジの差し出した手を掴んで、立ち上がった。
「さて、ぐずぐすしてられんぞ。地図をもっとるからな。すぐ金の石を見つけられるぞ」
ナトゥは表情を厳しいものに変えて、そう言った。
「そうだ、さっさと追おうぜ」
ベノイもそれに呼応して、金の剣を握り締めた。
たくさんの犠牲を出した。
でもそれは失われたものの泉に行けばどうにかなるかもしれない。
バルーに殺された人がよみがえったように。
でも武田係長にこれ以上人を殺させていけない。
石をすべて集めて武田係長の心を戻し、殺された人もよみがえらせるんだ。
そして元の世界に戻ろう。
それがたとえ武田係長の望みでなくても僕達は一緒に帰るんだ。
「センリャン。とうとうここに皆さんが来るようですわ。」
金色の髪に金色の瞳を持つ、まばゆい光を放つ女性がそう言った。
「ジャラン、クラン、ロウランではたくさんの犠牲がでたみたいですね」
センリャンと呼ばれた男は女性に敬意を払いながら、そう答えた。
男は王冠をかぶっていたが、女性のような繊細な顔つきをしており王らしくなかった。しかし、王冠をかぶっているということはこの国―アドランの王であることを示していた。
「乱暴な方々のようですが、ここアドランではおとなしくしていただきましょう。それで貴方はどちら側につくおつもりですか?」
センリャンの問いに美しい女性―金の精霊は優雅な笑みを浮かべた。
「さあ、どちらにいたしましょう。あなたが用意したゲームの結果におまかせいたしますわ」
「金の精霊様、ゲームではないのですよ。戦いです。大事な貴方様をお渡しするのです。それなりの覚悟はしていただかないと」
センリャンはそう言うと壁にかけていた鳥篭をとった。黄金に輝く美しい鳥が中におり、そのつぶらな青い瞳をセンリャンに向けていた。
「準備はよろしいですか?ジン?」
センリャンはそう黄金の鳥に呼びかけると、籠の扉を開けた。
「さあ、誰にも捕まらないように逃げるのです」
ジンと呼ばれた鳥はセンリャンのその言葉を聞くと一気に外に飛び出し、開けっ放しの窓から飛び立った。
「センリャン、そろそろ時間ですわ。わたくしを石に戻してくださる?」
外に飛び立ったジンを眩しそうに見ながら金の精霊はそう言った。
「金の精霊様もあと少しの我慢です。今回で石のとらわれるのは終わりになるでしょう」
センリャンは鳥篭を床に置くと、金の精霊に微笑みかけた。
「人間の世界に終わりがくるかもしれませんのに。センリャンは楽しそうですわね」
「私は王になって人間というのが如何におろかな生き物か知りましたよ。今回で人間の世界が滅んでも、それは仕方ないということでしょう」
センリャンはそう言うとそっと、金の精霊の髪に触れた。自分の髪に触れたセンリャンの手に金の精霊は自分の手を重ね、微笑みをうかべた。
「呪文を」
その言葉に、センリャンは少し悲しげに微笑むと封じの魔法を唱えるべく、口を開いた。
「ナジャル」
その呪文の言葉により金の精霊は金色の光を放ち、石の姿に戻った。
センリャンは黄金の石を拾うと、真っ黒な光沢を放ち金色の美しい縁取りがされている小箱に入れた。