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南国の魔法  作者: ありま氷炎
金と銀
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再会

「ケンジ、どうしたんだ、その顔?」

 べノイがケンジの赤く腫れてる頬を見て不思議そうに尋ねた。目を凝らすと赤い部分が手形のように見える。

「あー、お前。ユリに変なことしたんだろう?ケンジも男だったんだな!」

「うるさいなあ」

 赤く腫れた頬を摩ってるケンジに笑いかけながらべノイは風呂場に消えていった。


 橘さんの香りと抱き心地があまりにも気持ちよくて気がついたら背中に手がいき、キスをしそうになった。そしたらバシッと平手打ちをされた。


 自分から抱きついてきたのにさ。

 ま、元気になってよかったけど。


 べノイの家に戻ってから橘さんはずっとふさぎこんでいた。

 僕もだけどね。

 でも橘さんから平手うち食らってなんだか目が覚めた気もする。


 武田係長の死を待っててどうするんだ。

 いくらガルレンやほかの人を殺したからって、あれはあくまでも心を失ったせいだ。


 そう、石を集めて、武田係長の心を取り戻してやる。

 4人で元の世界に帰るんだ。


「ケンジ!」

 ふいにポケットから声がして、水の精霊アクアと木の精霊レンが人体化した。

「ヤツラが来るわ!」

 アクアの声と同時に稽古場の方から眩しい光が放たれた。

 べノイが戻ってきてたから、きっと稽古場には上杉主任しかいないはず!

 今、武田係長と会うとまずいことになる。

「アクア、レン!」

 ケンジは水の剣を掴むと二人に声をかけた。二人はうなずくとケンジを連れて宙に消えた。



 突然眩しい光が目の間に現れた。

 そしてそれは徐々に人の形に変化していった。

 現れた人物にカナエは言葉を失った。

「元気だった?上杉」

 頬に赤い刺青のような痕、首や服の外に出ている部分に赤い火傷の痕を残すタカオは目を猫のように細くして笑った。

 そして火の塊がタカオの近くで燃え上がり、カーナが姿を現す。カーナをカナエの姿を見ると不機嫌そうな顔した。

「おかげで十分な休養がとれたよ。しかもありがたいことに醜い体にもなったし」

 タカオはカーナから受け取った風の剣を弄びながら、カナエに近づいた。

 カナエはそんなタカオから目が離せなかった。目の前にいる無事なタカオの姿を見て嬉しかった。その思いしかなかった。

「上杉?どうしたの?抵抗しないの?」

 身じろぎもせず、ただ自分を見つめるカナエにタカオは優しい笑みを浮かべる。しかしその手は風の剣を握られていた。


 カナエはタカオと2度と戦いたくなかった。タカオが死ぬくらいであれば自分が死んだほうがよかった。


 タカオが風の剣を振り上げる。

 カナエは覚悟を決め。タカオの黒い瞳を見つめた。


「木!」

 フォンがふいに嬉しそうな声を出した。

 ケンジがタカオの後方にアクアとレンを連れて現れた。

「命びろいしたね」

 タカオは目を猫のように細くしてカナエの頬に軽くキスをすると、ケンジのほうへ視線を向けた。

「お邪魔虫がきたわね」

 カーナはタカオの行為に苛立ちながらも、戦うべくアクアに向かって構えをとった。

「またやられにきたの?懲りないのね」

 アクアはそんなカーナに嫌味な笑みを浮かべた。

「ふん」

 それを受けて、カーナは火の鞭を作り出し、両手で握り締めた。


「木、オレはオマエと戦う気はない。オレ達の石集めに協力してくれ」

 フォンは真摯な目でレンを見てそう語りかけた。しかしレンは首を横にふり、木の姿に変化した。




「ナトゥ、外の気が騒がしい。多分タカオ達がきておる」

 神殿の部屋の中でダリンが弱弱しくそう言った。

 ベッドの上でダリンが横たわっていた。衰弱が進んでおり、今ではベッドから起き上がることすら難しくなっていた。

「ナトゥ。私のことは大丈夫だ。皆を、ベノイを助けてやってくれ」

「しかし!」

 心配そうに見つめるナトゥにダリンは柔らかく微笑んだ。

「大丈夫だ。戻ってくるのをここで待ってるから」

「わかった。ベノイのことはわしに任せておくのじゃ」

 ナトゥは眉間に皺を寄せ、心配しながらも壁に立てかけている杖をとり、ダリンを残し部屋を出た。




 べノイは金の剣を、ユリは火の弓矢を担ぎ、稽古場へ急いでいた。家から稽古場のほうで光が見え、ケンジの姿が見えなくなった。タカオ達がきてるに違いないと二人は道を急いでいた。



 アクアが氷の槍を作り構え、カーナが火の鞭を振り回す。


 レンはその枝をフォンに向かって伸ばした。フォンは辛うじてそれを避けた。フォンはレンを傷つけるつもりはなかった。だからフォンはレンの攻撃を避けるだけしかできなかった。


「上杉主任は後ろにいてください」

 ケンジはそう言ってカナエを庇う様に前に立ち、水の剣を構えた。

 カナエに戦意がないことはわかっていた。しかしタカオにみすみす殺させるつもりはなかった。

「山元くん。君も変わったよねぇ」

 タカオはそう言いながら風の剣を両手で握った。


「やっぱり武田さんだわ」

 息を切らせてユリとべノイが稽古場に到着した。

 カーナはユリの姿をその視線に捉えるとアクアの攻撃を避けて飛んだ。

「まずいわ!」

 アクアが慌てて追いかけたが、すでに時は遅かった。

「橘さん!」

 カーナが片手でユリの首を掴んでいた。首を掴まれたユリは苦しそうにもがいている。

「ねぇ。タカオ、殺しちゃっていい?コイツがタカオの体をそんな風にしたのよ」

「そうだね。楽しそうだけど、今日は止めておこうね」

 タカオはカーナにそう答えるとケンジに視線を向けた。

「さて、山元くん。お願いがあるんだ。君の持っている地図を僕に渡して貰えないかな?」

 タカオは微笑みを浮かべてケンジに聞いた。

「ケンジ!だめじゃ」

 神殿から出てきたナトゥがそう言って杖をカーナに向けた。

「マジュラ!」

 杖から氷の槍が発生し、カーナに放たれる。

「爺が、こざかしいわね」

 カーナはユリを掴んでいる手とは逆の手の平をナトゥに向けた。手の平から炎が放たれる。

「アクア!」

 ケンジの声を聞いてアクアは慌てて氷の壁を作り、炎からナトゥを守った。

「アンタ達、この子殺したいの?ほら、息ができなくなってきてるわよ」

 カーナの手の中でユリは青白くなり、動きも鈍くなっていた。

「武田!地図は僕の部屋にある。取ってくるから橘さんを離せ!」

「だめだね。僕が一緒にいって取ってきてあげるよ。カーナも橘さんを連れて一緒においで」

「わかった。ついてこい」

 ケンジはタカオを睨みつけた後、アクアを見た。

 アクアはうなずくとケンジを連れて部屋に飛ぶ。カーナも後を追いタカオを連れると、ユリを掴んだまま消えた。


「これだよ」

 ケンジは机の引き出しから茶色の紙をタカオに渡した。

 タカオはそれをその場で開く。

「それで使い方は?」

「目的の物を言えば、地図が表してくれる」

「ふうん。じゃあ、金の石」

 タカオが茶色の地図を見てそう言うと、矢印が現れた。

「便利なものだね。カーナ、橘さんを放してあげて」

「ええ、本当に殺さないの?」

「今日はそんな気分じゃないんだ。この次ね」

 カーナはタカオの言葉を聞くとユリから手を離した。

「橘さん!」

 ユリが床に投げ出され、ケンジは慌てて駆け寄った。

「ごほっ、ごほっ」

 抱き起こしたユリは咳き込みながらも空気を取り込むため、荒く息を繰り返す。ケンジはタカオを睨みつけた。アクアはケンジの側に立ち、いつでも戦えるように構える。

 タカオはふっと笑うと口を開いた。

「じゃあ、今日はこの辺にしようかな。カーナ行くよ」

 カーナは戦闘態勢に入っているアクアを見て不満そうな顔をしたが、仕方なくうなずくとタカオの首に手をからませる。

「じゃあ、またね」

 タカオはケンジ達にひらひらと手を振ると、カーナと共に炎の塊になり、部屋からその姿を消した。


「木、残念だ。お別れだ。またな」

 フォンはタカオ達が地図を奪い、金の石の場所へ移動したのを確認すると、風と共に空に消えた。

「まずいことになった………」

 魔法の杖を支えにして立ち上がるとナトゥは苦しげにつぶやいた。




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