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南国の魔法  作者: ありま氷炎
金と銀
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夢の中2

 静かな部屋の中で荒い息遣いだけが聞こえる。

 タカオの瞼は苦しげに閉じられ、その額には脂汗が滲んでいた。

 体は以前と同じく熱いままだった。


 火の精霊カーナはタカオの顔を再度見ると、美しい小瓶の蓋を開けた。そして小瓶の中身を口に含み、タカオに口づける。その咽喉が規則的に動き、タカオが液体を飲んだのがわかる。

「うっ」

 タカオが苦しそうにベッドの上で体をクの字にまげる。そしてその目を開いた。瞳にはいつもの煌くような光はなく、鈍い光を放っていた。

「タカオ!」

 カーナがタカオの顔を覗き込む。

「上杉?お母さん?」

 鈍い瞳をカーナに向けると、タカオはそう呟き再び目を閉じた。



「武田。私はもうこんな関係は嫌だ……。終わらせよう」

 カナエが静かな声でそう言った。

 窓から太陽の光が差し込む。光はカナエの背中を照らし、逆光でその表情は見えなかった。


 多分いつものように、かたくな表情なんだろうとタカオは思った。


「どうして?僕を嫌いになったの?」

 今にでも泣き出しそうな瞳をカナエに向け、タカオは聞く。

「私はお前の母親の代わりにはなれない」

 カナエの言葉にタカオは金槌で頭を殴られたような気がした。


「お前が私に興味あるのは、私が母親に似てるからだろう。私はそれが耐えられないんだ……」

 珍しくカナエは自分から口を開くと、そう言葉を続けた。

 タカオは言葉が告げられずに、ただカナエを見つめる。

 咽喉の奥がカラカラに乾いていた。


「ち、違う。僕は上杉が好きなんだ」

 やっとタカオが出した言葉にタカオ自身が違和感を感じていた。


 タカオは心のどこかで気づいていた。 

 カナエの顔に母の面影をみていたのを。

 彼女に抱かれると母に抱かれているような気がしていたのを。

 小さいころから求めていた母の愛情を彼女との行為でごまかしていたのを……


 カナエはタカオの顔色が青ざめるのがわかった。


 カナエは昨日偶然見たタカオの母親の姿に衝撃を受けていた。

 自分に似た顔を持つ、タカオの母親。

 そしてなぜタカオが自分に執着するのか、なぜその関係を秘密裏にするのか

 すべての謎が解けた。


 カナエは泣きそうになるのを堪えて、タカオに背を向ける。


 もうタカオに会うつもりはなかった。



 それからカナエは空手部も辞めた。大学もタカオが都内の大学を目指すのに対し、地元の大学を選んだ。

 卒業後は無難に就職試験を通過し地元の企業に入る。しかし年齢を重ねるにつれ同期の女性は結婚し、次々と会社からいなくなった。カナエはただ生きて行くために、その会社に居続けた。


 そしてある日、会社の名前が変わり、別の会社に吸収された。


 カナエの仕事ぶりを見たとかで、都内の本社に栄転させると上司に言われ、給料が上がるならと承諾した。


 そこでカナエは係長として紹介されたタカオを見て衝撃を受けた。

 10年ぶりに見たタカオは以前より背が高くなり、少し痩せたような気がした。しかしその美しい顔に変わりはなかった。


「久しぶり。上杉」

 カナエを見たタカオは驚きの顔を見せず、笑顔を見せた。

「ああ、上杉くんは武田くんの高校生の同級生だったかね」

 部長がカナエとタカオを交互に見ながらそう言った。

「そうですよ。部長。空手部でよく組み手の相手をしてもらいました」

「おお、空手かあ。なつかしいね。実は私も昔は……」

 部長が昔話を話し始める。

 タカオのその話に相槌をつきながら笑っていた。


 カナエはタカオに会いたくなかった。

 あの時の切なく、つらい思いを二度と味わいたくなかった。


 10年、10年の間、カナエは忘れられなかったのだ。



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