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南国の魔法  作者: ありま氷炎
金と銀
48/151

タカオの記憶2

「役に立たないわね!」

 火の精霊カーナはそう言って目の前の男を焼き殺した。

 これで何人目だろう。医者を街から攫ってきてはタカオの治療ができないものをその力で殺していた。

 タカオの意識はまだ一度も戻っていなかった。その体は熱く、吐く息は荒かった。

 医師達は包帯を巻いたり、傷口を消毒したりしたが、タカオが目を覚ますことはなかった。

「火、なぜオマエはこの男にこだわるんだ?オマエらしくないことだな」

 風の精霊フォンは家の壁に寄りかかりながら聞いた。

「ふん、木にこだわるアンタに言われたくないわよ。このままじゃ、タカオが死んじゃうわ。タカオが死んだらアンタを殺してやるから!」

 フォンはカーナの剣幕にため息をついた。



 次にその子を見たのは入学式だった。

 受かったんだとほっとしたのを覚えてる。


 そして同じクラスになり、名前を知った。


「上杉カナエか……」


 彼女は大体いつも一人だった。仲間はずれにされている様子もなく、ただ一人で過ごしていた。


 彼女は意外にも空手をしているみたいで、部活は空手部だった。

 どうやら空手部の主将が彼女の噂を耳にしてスカウトしたようだった。


「なあ、武田。お前なんか部活入るのか?中学と一緒で剣道部?」

 坂口が昼飯のパンを頬張りながら、聞いた。

「そうだね。空手部でも入ろうかな」

「か、空手部??」

 坂口が驚いてパンを一気に飲み込んだ。


「こんにちは。上杉だよね?」

 空手部に入って数ヵ月後、僕はやっと彼女と話す機会を得た。

「そうだけど……。武田くんだっけ?」

 上杉カナエは僕の言葉に顔を曇らせた後、そう答えた。

「そう、武田タカオ。武田でいいよ。僕も上杉って呼ぶから」

 僕はなぜか上杉と呼びたかった。

 皆がカナエさんとか上杉さんと呼ぶなか、特別になりたかったかもしれない。


「じゃあ、武田……。よろしく。組み手は経験あるんだっけ?」

 組み手の助っ人として連れてこられた上杉は戸惑いながらも僕にそう言った。


 そんな普通の関係が続き、2年生になったあの日、僕は彼女の気持ちに気付いた。


「もう、武田くん。こんなところで」

 クラスメートの鈴木トモエはそう言いながらも僕を誘うように見上げた。

 僕はその頬を片手で包むと深く口づけた。

 トモエが軽くあえぎ声をあげる。


 かたんと音がした。

 トモエは気づいていないようだ。

 音をした方向をみると、上杉が驚いた顔をした僕を見ていた。

 僕はその驚いた顔に別の感情が入り混じってるのがわかった。

 僕は思わず笑みを浮かべて、上杉を見つめる。


 上杉はごみ箱を掴むと慌てて走って、その場からいなくなった。


 そしてその夕方、教室に戻ると上杉が一人で居残っていた。

 どうやら先生になにか用事を頼まれたようだった。


「上杉、見てたの?」

 僕は意地悪く上杉に聞いた。


 上杉は僕の問いに答えず、ただ机の横に置いてあった鞄を取って、教室から出ようとした。


 僕は彼女を逃がす気がなかった。

 強引に上杉の腕を掴み引きよせるとそのつややかな唇に自分の唇を重ねた。


「今日のこと誰にも言わないでね」

 僕は脅すように上杉の耳元でそう囁いた。


 上杉は僕の顔を鞄で殴ると、そのまま廊下へ逃げた。

 その顔が真っ赤になっているのがわかった。



 それから上杉は僕を避ける様になった。

 でも僕は彼女を逃がすつもりはなかった。


「じゃあ、武田さん。俺、先に帰りますね。あとよろしくお願いします。」

 同じ2年の山下がそう言って頭を下げると部室を出た。


 今日は1年生が学校行事で部活には出ていなかった。

 空手の女子部は2年生が上杉一人だったから、彼女が片付けをしているはずだった。


 僕はこの日を逃すつもりはなかった。


「武田……」

 上杉は僕の顔を見ると少し驚いた後、視線をそらした。

「何か用?」

 無造作に置かれたマットレスを片付けながら上杉は冷たくそう言った。

 その背中から緊張が見てとれた。

「ねぇ。僕と付き合わない。僕は上杉が好きなんだ」

 僕が耳元でそう囁くと上杉の肩が震えたのがわかった。

「君も僕に興味がないわけじゃないだろう?」

 その言葉に上杉は怒りを覚えたのか、拳が飛んできた。

「僕だって、だてに2年も空手をしているわけじゃないんだよ。しかも力は僕のほうが上だ」

 僕は上杉の拳を掴んだ後、もう片方の手も掴んで、上杉の体を壁に押し付けた。

「離せ」

 上杉は消えてなくなりそうな声でそう言った。その顔は真っ赤で僕の視線を避けるように横を見ていた。

「離さない。今日から僕達は付き合うんだから」


 その日から僕達の関係は始まった。

 僕は上杉から好きだと言われたことがなかった。


 それでも僕は上杉と体を重ねるだけで満足だった。



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