赤い空
「まだ小さいのにかわいそうに…」
ガルレンの家の隣に住んでいたが、運よく難を逃れた老婆はそう言いながら、ガルレンの小さな墓標に触れた。
戦いが終わり、避難していた人もロウランの街に戻って復旧作業を始めていた。
ケンジ達は父と息子の遺体をロウランの小高い丘に葬った。
ガルナンの遺体を回収するため立ち寄ったガルレンの家近くで、ケンジ達はこの老婆に会ったのだ。それは長い間がガル一族を見守っていた老婆だった。
「あたしは知っていたよ。この子達が偉大な魔法使いガルタンの末裔だったことを。でも曾おばあちゃんに秘密にするように言われていたんだ。こんなことになるなんて……」
老婆は両手で顔を覆うと泣き出した。その老婆の孫だろうか、ちょうどガルレンと同じくらいの年の子が老婆を優しく抱きしめた。
「レンくんはきっと天国でママとパパに会ってるのよ」
少女は微笑んで言った。
その様子をケンジ達はじっと見ていた。
後味の悪い戦いだった。
目の前で小さい命が失われるのを止めることができなかった。
「ケンジ、行きましょ」
橘ユリはケンジの手を掴むとカナエとべノイが待っている場所へ歩き出した。
ユリの手は暖かく、冷え切ったケンジの手に暖かさを与えた。
「じじい、何とかなるんでしょうね!」
町外れの小さな家でヒステリックな声が響く。
それは火の精霊カーナが、連れてきた医者を怒鳴る声だった。
医者はおびえながらもタカオの火傷の手当てをしていた。
「もしタカオが死んだら、アンタを火あぶりにするわ。しっかり治療しなさいよね!」
カーナの言葉に医者は震え上がりながらも、治療を続けた。
家の外では風の精霊フォンが壁に寄り添い、空を見ていた。空は赤く、血のような色をしていた。
空が赤い…
まるで空が燃えているような色だ…
ケンジ達は休息をとるため、水の精霊アクアに頼んでべノイの、ダリンとナトゥのいる家に戻った。
皆が疲れており、無言で部屋に入った。
カナエは窓から空を見ていた。
家は地下に隠れる必要がなくなり、外が見えるように地面にあたる天井部分を壊して空が見えるようにしていた。その大きな穴から赤い光が入ってくる。
タカオが火に包まれたとき、カナエは心臓が止まりそうになった。
悪魔のようになってしまったのに、カナエはタカオを心配していた。
生きてるだろうか…
生きててほしい…
カナエはまだ少し痛む右腕の傷を服の上から触りながら、祈るように再度空を見上げた。