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南国の魔法  作者: ありま氷炎
風と木
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終結する戦い

「形勢逆転って奴だな」

 聞きなれた声が聞こえて、筋肉質で背が高く、額に傷がある男ーベノイが現れた。

 その後ろにはカナエの姿も見える。

「ベノイ、上杉主任!」

 ケンジはほっとした。

 来てくれたんだ……

「上杉か。僕に切られた傷はまだ痛むかい?」

 タカオはカナエを見ると嬉しそうに猫のように目を細くした。

 火の精霊カーナはそのタカオの様子を面白くなさそうに見たが、ふいに何かに気付き、その表情を楽しげなものに変える。

「面白いものを持ってるわね。ねぇ。タカオ、あのウエスギって奴、アタシがもらってもいい?」

 カーナは火の鞭を取り出し、それに指をからませて言った。

「そうだね。いいよ。でも止めは僕が刺すからね」

 タカオがそう答えるとカーナは火の鞭を握り、カナエに向かって飛ぶ。

「フォンはあの忌々しい木の精霊をよろしくね。どうも僕を殺したいらしいから」

 フォンは不機嫌そうに舌打ちをしたが、タカオの言葉に従うしかなかった。

「契約などすべきじゃなかった」

「もう遅いよ。フォン。君は僕を殺せない」

 フォンの悔しそうな言葉にタカオは口元に笑みを浮かべ、風の剣を左手で握った。

 愛しい恋人と戦うことになるなど思いもしなかった。

 しかも人間を守るために‥

 フォンは木の精霊レンに目を向けた。

 その姿は元の美しい女性体ではなくなっていたが、その瞳の輝きは一緒だった。

「ケンジ、ワタシに命じてください。あのタカオという男を殺すように」

 ガルレンの面影をもつ少女-木の精霊レンは怒りをにじませてつぶやいた。

 愛しい恋人と戦うのは嫌だが、ガルレンを殺したタカオが許せなかった。

「レン、ガルレンのためにあの男を倒して!」

 ケンジがそう言うとレンは木の姿に変化した。

「アクア、君は上杉主任を助けてあげて」

 水の精霊アクアはケンジの言葉にうなずくと、カーナと戦っている二人に向かって飛んだ。

「橘さん、僕たちは武田係長……いや、武田を倒そう!」

 ケンジの言葉にユリはうなずき、弓矢を構えた。


 あと少しだわ!

 カーナはカナエのポケットの奇跡の星のかけらに執着していた。


 あのかけらを手に入れれば私は無敵!


「ちっ」

 ふいに氷の壁が目の前に立ちふさがる。カーナは舌打ちをするとその手で壁を壊した。

「水ね。いつも邪魔をするわね」

「当然よ。ワタシ達は相容れないものなのよ」

 アクアはそう言いながら手の平を空に向ける。

 氷の塊が出来上がっていくのが見えた。

「アナタを真似て作ってみたけど、どう?」

 アクアは手の平の氷の塊をカーナに向かって放った。

「ふん」

 カーナは火の鞭でそれを叩き壊し、さらにカナエに向かって鞭を振り下ろした。

 しかし、その鞭は金の剣を持ったベノイによって防がれる。

「火、アナタの負けよ。ワタシとアナタの力は互角なの。カナエとベノイはただの人間じゃないわ」

 アクアは二人を守るようにカーナの目の前に立ちふさがった。

「アタシは負けない。負けるわけがないのよ!」

 悔しさで顔を歪めて、カーナはアクアに火の鞭を振り下ろした。



 フォンは大木の姿になったレンと対峙していた。

 レンはその枝を使ってタカオを殺すために幾度となく攻撃をしかけるが、フォンがことごとくそれを防いでいた。

 タカオはレンの攻撃を防ぐフォンの動きを見ながら、無傷の左手で風の剣を握り、ケンジ達に攻撃に備えていた。

「武田!覚悟しろ!」

 ケンジは両手で水の剣を握るとタカオに切りかかった。

 振り下ろされた剣をタカオは風の剣で受け止めた。

 しかし、心なしかタカオが力で押されており、その顔には脂汗が浮かんでいた。間髪入れず、ユリから火の矢が飛んでくる。

 タカオは咄嗟に後ろに飛び、体に刺さることを避けたが、矢は皮膚をかすり、服に血がにじんでいた。

「ちょっとこれはつらい状況かもね」

 めずらしく息を切らせて、タカオはつぶやいた。

 カーナやフォンはそれぞれ精霊と対峙しており、タカオに手を貸す余裕はなさそうだった。

「じゃあ、これはどう?」

 タカオは息を整えるため、息を吐くと、風の剣をケンジに向かって振り切った。

 すると竜巻が発生し、ケンジ達に襲いかかる。

 ケンジは同じく水の剣を振り下ろし、大量の水をそこから発生させ、竜巻を飲み込んだ。

「ほ~。やるね。山元くん」

 タカオは愉快そうに笑いながら、風の剣を器用にくるくると手の中で遊ばせた。

「じゃ、本気でいくよ」

 タカオはジャンプすると剣を使って、次々と無数の竜巻を発生させた。

「うっ」

 ケンジはそれを水の剣から大量の水を発生さて、飲み込もうと試みる。

「今だわ」

 ユリは無防備なタカオに向かって火の矢を放った。

 力の篭った矢は火を発生させ、タカオに向かってまっすぐ飛んでいく。


「しまった!」

 フォンとカーナが気づいた時はすでに遅く、タカオの体は火に包まれていた。

「タカオ!」

 カーナはすぐさまアクアに背を向けるとタカオを抱きかかえた。

 体の火がカーナに吸収され、消える。しかしタカオの体は真っ赤にはれていた。

「タカオ、タカオ!」

 カーナが呼ぶとタカオはうっすらと目を開けた。

「上杉……?よかった…。もう会えないかと思っていた」

 タカオはそう言って微笑むと再び目を閉じた。

 カーナは悔しそうに唇を噛んだが、タカオに早急な治療が必要なことがわかっていた。

「次こそ、アンタ達殺してやるから。覚えてなさい」

 カーナはタカオを抱きかかえると火の塊になって空に消えた。

「木、また会おう」

 フォンはレンを悲しげに見つめるとカーナの後を追って、風と共に空に消えた。



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