タカオの狙い
タカオは風の剣をケンジ達に向けて振り切った。すると風が巻き起こり、ケンジ達に襲いかかる。
水の精霊アクアは水の壁を作り、風がケンジ達に当たるのを防いだ。間髪いれず、空に跳び上がった火の精霊カーナが火の塊を投げつける。
ケンジはそれを水の剣で跳ね返し、その横から橘ユリが火の矢を放った。
カーナはそれを火の鞭で打ち落とす。
風の精霊フォンがガルレンに構っているおかげで、ケンジ達はタカオ達と互角に戦えていた。
しかし息を切らしているケンジ、ユリに対して、タカオは息一つ乱さず、楽しげな笑みを浮かべたままだった。
「風!何をちんたらしてるのよ。おかげでこっちの戦いが長引くじゃないのよ」
巨大の木になすすべもなく、ただ攻撃を避けてばかりいるフォンに向かって、カーナは悪態をついた。
「そんなこと言われても、オレは木を傷つけるつもりはない」
フォンはカーナにそう返して、襲ってくる無数の木の枝を避けていた。
「そうだねぇ。僕もそろそろ飽きてきたかな……」
タカオは風の剣の刃先を手のひらに触れさせながらそう言った。
手のひらの皮が少し切れて、赤い血が見えた。
タカオはその血を舐めた後、風の剣を両手で構えた。
ケンジとユリが緊張して構える。
アクアもいつでも力を出せるようにタカオを見つめた。
しかしタカオが剣を振り下ろした先は、巨大な木だった。
「タカオっつ!」
思わぬ攻撃でフォンが止める前に、風の剣が生み出した竜巻はガルレンの乗った巨大な木を襲った。
ガルレンが巨大な木から振り落とされ、その本体の木も吹き飛ばされる。
「タカオ!木に手を出すなと言っただろう!」
フォンはタカオを怒鳴りつけた後、吹き飛ばされた巨大な木、木の精霊シティに駆け寄った。
「ガルレン!」
そしてケンジとユリは地面に振り落とされたガルレンに駆け寄る。
ガルレンは全身を強く打っており、体のあちらこちらから出血していた。
「ケ、ケンジさんっ」
ケンジの姿を見るとガルレンが焦点の合わない目を向けた。
「ぼ、僕、死んじゃうのかな……」
ガルレンの口から黒い血が吹き出る。
「ぼ、僕はただみんなに認めてほしかったんだ。父さんも母さんもみんな死んじゃった。誰も僕達を助けてくれなかった。ただシティだけがっつ、ごほっつ」
ガルレンは痙攣をした後、再度吐血した。
「もう、話さない方がいい!」
ケンジはガルレンを抱きしめながら言った。ガルレンの小さい体は血で赤く染まっていた。
こんな小さな体でこの子は一人で戦っていたんだ。
「僕、死にたくない。まだ死にたくなっ」
ガルレンはケンジの腕を掴んでそう叫んだが、
再度痙攣すると、不意に力がなくなりケンジに体をゆだねた。
「ガルレン!ガルレン!」
ケンジはガルレンを抱きしめながら、その名前を呼んだが
ガルレンが再び動くことはなかった。
その見開かれた目はどこか遠くを見つめたままだった。
「あーあ、死んじゃったね。可哀想に」
タカオは感情の入っていない声でそう言った。
「さすがタカオ、いい腕してるわよね。それにしても風の奴は何にも役に立たないわねぇ」
カーナはそう言って巨大な木の姿から元の女性体に戻った木の精霊を抱き起こしてるフォンを睨んだ。
「さて、木の精霊は僕がもらっていくね。どんな名前をつけようかな」
タカオは怒りで震えているケンジの目の前で楽しそうに笑った。
この人は!
「武田!」
ケンジは自分の行動が制御できなかった。
ただ目の前のタカオが憎かった。
ケンジは水の剣を掴むとタカオに切りかかった。
カーナがそれを止めようと手の平をケンジに向ける。
しかし、そのすぐそばにアクアが来ており、カーナに水の槍をお見舞いした。
「いつも私の攻撃が遅れると思ったら大間違いよ」
「くっ」
カーナは悔しそうにアクアを睨みながらその体にささった水の槍を抜く。
その隣でタカオは風の剣でケンジの攻撃を受け止めていた。
「やるね。山元くん。インドア派の君にしてはなかなかだけど。甘いね」
タカオは目を輝かせると一気にケンジの剣を跳ね返した。
水の剣が宙を飛ぶ。
「君と別れるのはつらいけど、これでバイバイだね」
タカオがケンジに向かって剣を振りおろそうとした瞬間、その手に火の矢が刺さった。
「痛いな。橘くんかあ」
タカオはその手に刺さった火の矢を抜く。
傷口から血が滴る。
「やるね」
滴る血を拭おうともせず、タカオは笑った。