木の精霊の理性
ケンジ達がガルレンのいる場所へ到着すると、そこにはすでにタカオと火の精霊カーナがいた。
そしてもう一人、精霊とおぼしき男が巨大な木の側に佇んでいた。
風の精霊??
ケンジはその銀色の髪の男―風の精霊フォンを見つめる。
「ああ、山元くん。橘さん。久しぶりだね。元気だった?」
巨大な木のほうを見つめていたタカオが、ケンジ達に気づき声をかける。
それはいつもの通り柔和な笑顔だった。
「今日は上杉は来てないんだ。結構切ったからなあ。まだ完治してないのか」
タカオは風の剣をもてあそびながらそう言う。
ケンジは心臓が早鐘を打つのがわかった。
あいかわらずタカオの奇妙さはケンジに違和感を与える。
「僕の風の精霊が木の精霊の相手をしてるから邪魔しないようにね」
タカオは目を猫のように細くして、風の剣を握ると、剣先をケンジとユリに向ける。
二人は息を飲むと、それぞれの武器を構えた。
巨大な木の中枢で木の精霊はただ小さくなっていた。
契約により契約主が命ずれば嫌なことでも実行しなければならない。
木の精霊は自分の好きな人間という生き物、その世界が自分の力で破壊されていくのを、ただ見つめることしかできなかった。
「?!」
ふいにガルレンは目の前に男が現われたのを見て驚く。
男は人間と同じ姿をしていたが、その色彩と宙を浮かんだままでいることで、精霊であることがわかった。
「あんたはなんの精霊?誰と契約してるの?」
ガルレンはその赤く充血した目を風の精霊フォンに向けた。
「このクソガキが。キサマに教えるつもりはない。木を早く解放しろ。木はキサマごときが契約する精霊ではない!」
フォンはその手に小さな竜巻を発生させるとガルレンに向けて投げた。
ガルレンは口元に笑みを浮かべると、木の枝を使ってそれを防ぐ。
枝が破壊される音がしたが、ガルレンは無事だった。
「ちっ。木を傷つけてしまったぞ」
フォンはそう言って腕を組んだまま、少し上空に跳んだ。
ガルレンだけを排除したかった。
下手に攻撃すると先ほどのように木を傷つける。
「木、聞こえるか?オレだ。目を覚ませ」
風?
木の精霊は木の中枢で逃げるように丸く小さくなっていた体を起こした。
風がいるの?
かつての恋人の声を聞いて木の精霊は心が騒ぐのがわかった。
神と精霊の世界で別れたきりの愛しい恋人。
「シティは僕のものだ」
ガルレンはそう言うと、木の枝をゴムのように伸ばして上空にいるフォンに攻撃を仕掛けた。
「ちっ、変な名前つけやがって!」
フォンは舌打ちしてその攻撃を避けた。