少年の涙と木の精霊
その夜、ふてくされたガルレンは早く床についた。
そしてトイレに行くために夜中起きると、部屋の外で何かの物音がしたのがわかった。
「お父さん…?」
部屋を出て父の部屋に向かうと、ドアが少し開いており、かすかな明かりが漏れていた。
さらに部屋に近づくとドアの隙間から話し声が聞こえる。
「おう?息子か?」
ガルレンの足音に気がついて、ドアの隙間から男が顔を覗かせた。
それはガルレンの父の友人で仕事仲間の男バトンだった。
「もしかしてそいつがもってるんじゃないか?」
バトンの側にいた、太った男が部屋から出て来てそう言った。
「このナンが勇敢な魔法使いガルタンの末裔で、伝説の木の精霊の石をもってるなんてデマにきまってるぜ」
バトンは太った男にそう言って下卑た笑いを見せた。
この人たちは!石を狙ってるの?
ガルレンは足がすくむのがわかった。
男の後ろに父が倒れてる姿が見える。
「まあ、でも物は試しという奴だ」
太った男は逃げようとしたガルレンの首元を掴み、ポケットを探った。
「おい、見てみろよ。緑色の石だ!」
男は興奮してバトンにその石を見せた。
「木の精霊の石か!呼び出してみようぜ」
「いでよ、木の精霊よ!」
男は石を持ったまま、次々に木の精霊を呼ぶために呼びかけたが、石には何にも変化がなかった。
「けっ、やっぱりでまかせか!」
バトンはそう言うと石をガルレンに投げつける。
「この嘘つき野郎がよ。デマかよ。あーあ、殴りすぎたかな。殺しちまったかもしれないなあ」
太った男はガルレンにつばを吐き捨てると、バトンの後を追って、ゆっくりと家の階段を下りていった。
今、殺したって?
ガルレンは顔についたつばを手の甲でぬぐうと慌てて部屋に入る。
そこには血を流して倒れている父の姿があった。
「父さん!」
ガルレンが父親の側に近づくと、少しだが息をしてるがわかった。
「レンか…無事でよかった…」
父親のガルナンはそう言って口元に笑みを浮かべた後、ガルレンの後ろを見た。
その視線の先には床に落ちている緑色の石があった。
「バラン…」
ガルナンがかすかにそうつぶやくと石の姿が美しい緑色の髪をもつ女性に変化した。
「木の精霊…お願いだ。私の息子を守ってくれ…」
ガルナンがそう言うと木の精霊はゆっくりとうなずいた。
その目には悲しみが見てとれた。
「ありがとう…」
木の精霊がうなづくのを見て、ガルナンは安心したのか
静かに目を閉じた。
「父さん!なんで今頃、もっと早く呼び出せば!」
ガルレンがそう叫んだがガルナンには永遠に聞こえない言葉だった。
「ちくしょう。なんで僕達がこんな目に!木の精霊、僕を守ってくれるんだよね。そうだったら力をちょうだい!あいつらを殺せるような力を!」
木の精霊は悲しそうにガルレンの姿を見ながらも、力を得る方法、契約を結ぶ方法をガルレンに教えた。
そしてその夜、ガルレンは木の精霊の力を得た。