表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
南国の魔法  作者: ありま氷炎
風と木
34/151

過去に溺れるカナエ

 タカオを初めて見たのは高校の入学式だった。

 背が高く、甘いマスクのタカオには女生徒の人気が集中した。

 2度目に見たのは高校で初めての授業のときだった。


 タカオはいつも人に囲まれ、穏やかな笑みを浮かべていた。


 人に馴染まず、特定の友人としか話をしない上杉カナエとはまったく逆だった。


 そんなタカオと話すようになったのは同じ空手部に所属するようになってからだった。


 小学校から空手を習っていたカナエは一年生のときから期待されていた。


 タカオは空手は初心者だったのだが、その上達ぶりは早かった。


 女子と男子は練習を共にしないのだが、カナエの空手暦を見込まれて時々男子の組み手の助っ人として呼ばれるときがあり、その際にタカオの相手になることが多かった。


 部活で見るタカオは教室で見るタカオとは雰囲気が異なり、切れ味のいい刃物のような視線をカナエに向けた。

 組み手中であれば当然なのだが、カナエはそれ以外になにか別のよくわからない感情をタカオから感じていた。


 そういうこともあってか、カナエはタカオという存在が自分にとって理解不能で、苦手意識しかなく、部活で話すことといっても授業のことなどだった。


「ねえ。上杉。体で急所っていえばどこになるの?」

 ある日タカオがふいに教室で話しかけてきた。

 回りにいた女子も驚いたようで、すこし距離を置いて、カナエたちを見ているのがわかった。

「えっと、空手だと水月って部分でみぞおちのところだと思うけど」

 戸惑いながらカナエが答えるとタカオは猫のように目を細くした後、微笑んだ。

「ありがとう。じゃ、また放課後、体育館でね」


 2年になってもタカオとカナエの関係は変わらなかった。

 ただカナエはタカオとできるだけ二人っきりにならないようにしていた。

 1年の時の部長の送別会でタカオに掴まれた腕の感触が、時々よみがえりカナエに警告してる気がしていた。


 そして2年生のあの日、二人の関係は激変した。



「休まないのか?」

 ベランダの椅子に座ってぼんやりしてるカナエにべノイは話しかけた。

「病気じゃないからな。腕の傷だけだ」

 カナエは振り返ろうともせず、そう答えた。べノイが自分に興味あることは知っていた。しかしカナエは色々詮索されるのが嫌だった。

「タケダのせいか?」

「お前には関係ない」

 カナエはそう言って逃げるように椅子から立ち上がった。

 べノイは部屋に戻るとするカナエの左手を掴んで引き止めた。

「タケダの心を取り戻してどうするつもりだ。いまさら意味があるのか」

 その問いにカナエはべノイを射抜くように見つめただけで何も答えなかった。

 そしてカナエはべノイの手を振りほどくと部屋に戻った。


 そんなことはカナエが一番知っていた。

 心を取り戻したところで、それはタカオが苦しむだけだ。

 あれだけの人を殺した。


 石を集めるのは本当に重要なことなのか。

 自分は本当にあの世界に帰りたいのか。


 カナエ自身、自分が何をしたいのかわからなかった。


 ただ、あの時、

 タカオと対峙したとき、殺されてもいい、

 むしろ殺されたいと思った自分がいたのは確かだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ