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南国の魔法  作者: ありま氷炎
風と木
33/151

少年ガルレン

「あー―驚いた!」

 少年――ガルレンは水のない水路から這い出て、息を吐き出した。

「僕をずっと追っかけてくるんだもん」


 この少年はガル一族の次期41代目で、初代のガルタンは勇者と共にバルーと戦った魔法使いだった。

 しかし、その栄光を知ってる者はこの街には誰もいなかった。


 初代ガルタンが木の精霊の石を管理することになり、意図的に隠居的な生活を送ったことと、一族に石の秘密を守るように言いつけたことで、ガル一族は人知れずひっそりと、この森の都――ロウランで暮らしていた。


 しかしガルレンはそんな生活が嫌だった。

 勇敢な魔法使いの末裔で力のある石を持つのにひっそり暮らすのはおかしいと思っていた。


「木の精霊もそう思うだろう?」

 ガルレンはポケットから緑色の石を取り出すとそう話しかけた。

 しかし緑色の石はいつもどおり何も答えず、ガルレンはため息をつくとポケットの中に再び石を入れた。


「ケンジ!ここよ!」

 ユリは少年――ガルレンの姿を見つけ、ケンジを呼ぶために叫んだ。

 ユリはあのまま諦めるのが癪だったので地図を見ながらガルレンの姿を探していのだ。

「まずい!」

 ガルレンはユリとは逆の方向へ走りだそうとしたが、目の前に突然出てきた男――ケンジに阻まれた。

「ちょっと僕たちの話を聞いてくれないかな」

 ケンジはそう言ってガルレンを捕まえようとしたが、ガルレンはすばやくその股下をくぐり逃げ出した。

「ケンジ!何やってるのよ、本当どんくさいわね!」

 ユリの怒鳴り声を聞きながら、ケンジは慌ててガルレンを追いかけた。

 しかし逃げ足が速く、ガルレンの姿はケンジの視界から消えようとしていた。

「しょうがないわ。ワタシが助けてあげる!」

 そう言う声が聞こえると、ケンジのポケットが光り、ガルレンの元へ光が一直線に伸びる。

「放せ!」

 光を追ってケンジ達がたどり着くと、水の精霊アクアがガルレンの襟首を捕まえていた。

「本当やんちゃなお子さんね。ケンジ達が話したいって言ってるでしょ」

 アクアは襟首を掴んだまま、ガルレンにそう話しかけている。

「放せ、この化け物!」

「ば、化け物ですって?!」


 まずい……

 水の精霊も結構短気なんだよね……


 ケンジは慌てて間に入ると、ガルレンをアクアの手から取り上げた。

「まあ、まあ、アクア。落ち着きなよ。子供がいうことなんだから」

 ケンジの言葉にアクアは不満そうだったがため息をついた。

「じゃあ、私は元に戻るわね。逃がさないようにね」

 アクアはケンジにそう言うと石の姿に戻る。ガルレンはその様子に愕然として座りこみ、もう逃げるつもりはないようだった。

 ユリはその青い石を拾いながらガルレンに近づく。

「私達は水の精霊を持つもので、木の精霊の石を探してるんだけど。どこにあるか知ってる?」


 ぐるるる~


 その問いに答えたのはガルレンではなく、そのお腹だった。



「で、君が偉大な魔法使いガルタンの末裔ってことなんだね」

 ケンジの問いにガルレンはうなづいた。

 頬は食べ物でぱんぱんに膨らんでいた。

 ケンジ達はお腹が空いてるガルレンを連れて宿に隣接してるレストランのようなところにきていた。

ガルレンは食べ物を口いっぱいに頬張りながらケンジ達にガル一族ことや木の精霊の石のこと話した。

 通常は一族と石のことは話してはいけないと父親に言われていたのだが、水の精霊を連れていることや、とても悪人には見えないケンジ達なら大丈夫だと安心したからだった。

「それで石はあんたのお父さんが保管してるの?」

 ユリはガルレンのコップに水を継ぎ足しながら聞いた。

「ううん。ここにある。木の精霊と話がしたくて家から持ってきたんだけど、やっぱり何にも答えないんだ」

 ガルレンはきょろきょろ辺りを見渡して誰もこちらに注目してないのを確認して、ポケットからそっと緑色の石を取り出した。

 石は光を受けてきらきら光っていた。

「あーきれい。エメラルドみたい」

 ユリは石をうっとりと見つめた。

「確かに木の石ね」

 ケンジのポケットから不意にアクアの声が聞こえた。

「!?」

 声にびっくりしているガルレンを無視してアクアは言葉を続ける。

「でも魔法がかけられてるわね。これじゃ、呪文を言わない限り木の精霊は出てこれないわ」

「呪文?!聞いたことない。そんな話……お父さんなら知ってるかな?」

 石のままでも言葉を話す水の精霊アクアに驚きながらもガルレンはつぶやいた。

「そうだわ。あんたのお父さんのところに連れていってもらえる?私達は木の精霊の力が必要なのよ。説明すれば協力してくれるかもしれないでしょ」

 ユリの真剣な視線をうけて、ガルレンは少し考えた後、うなずいた。


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