日の光
エンタル……
これで私もお前のところへ行ってもいいだろう?
水の巫女ダリンは火の精霊と武田タカオが去るのを確認すると、ほっとしてその場に座り込んだ。
「ダリン!」
倒れこむその体を支えたのは戦友のナトゥだった。
「ナトゥ、戻ってきたのか」
ダリンはナトゥの顔を見ると微笑んだ。こころなしかその笑みはやわらかい。ナトゥはダリンが急に老け込んだような気がした。
「私の役目は終わった。もうやることはない。べノイはあの者たちといくだろう」
「ダリン、お前は気づいてなかったじゃろうが、わしはお前がずっと好きだったのじゃ。40年前、お前を放すべきじゃなかったかもしれん」
ナトゥの言葉にダリンはふっとまた笑った。
「知っていた。でもあの時はそうしなければならなかった。」
「ダリン、これからはわしのために生きていくことはできないじゃろうか。年老いたわしと共に……」
ナトゥはダリンを支える手に力をこめてそう言った。その目はかぎりなく優しく、せつなかった。
そうしなさい。ダリン。
お前は十分やった。
あとはお前の人生を生きればいい。
エンタルの言葉がふと聞こえた気がした。
自然にダリンの目から涙がこぼれる。
「なあ、ダリン。見るのじゃ。朝日が見えるぞ」
水の精霊を解放したときに空いたと思われる、
神殿の屋根の穴から外の光が漏れていた。
30年間見ることがなかった。
外の太陽の光。
ダリンはナトゥの腕の中で、その光をまぶしそうに見つめていた。
「よおし、帰るか!」
べノイは気を失ったカナエを背負うと地下の自分の家にあるところに向かって、歩き始めた。
「え~?またあの暗いところに戻るの??」
水の精霊アクアが不満そうに言った。
「とりあえず休息をとる必要があるからな。なあ、ケンジ、ユリも疲れただろう」
「そうね。ちょっとお風呂でも浴びてゆっくり休みたいわ」
ユリは火の弓矢を担ぎ直し、ケンジは無言でうなずいた。
初めての剣の特訓に引き続き、過酷な戦闘でケンジの体は疲れ果てていた。
「わかったわ!休んだら色々見て回りましょ。ね、ケンジ?いいでしょ」
「う…ん」
ケンジの返事にアクアはうれしそうに笑うと元の石の姿に戻った。ケンジはそれをズボンのポケットにそっと入れる。
「水の精霊はかわいらしいな。好戦的だが、火の精霊に比べればまだいい」
べノイは先頭を歩きながらそうぼやいた。
「でもちょっと、うるさいわよね」
後ろを歩くユリはべノイにそう返す。
「なんですって!」
ケンジのポケットからそんな声が聞こえた。
「ごめん、聞こえてたの?」
「ふん!」
そのやり取りにケンジは心地よさを感じながら、べノイ、ユリについて地下へ通じる洞窟へ入っていった。
「あー悔しい。負けちゃったわ」
火の精霊カーナは悔しそうにそう言った。
「まっ、今回は楽しめたからいいじゃない?」
タカオは気にしない様子で木に体を預けている。
「アタシとタカオの力だけじゃ足りないわ。ほかの精霊の石を手に入れなきゃ」
カーナはいらいらして親指を噛みながらそう言った。その様子をみて、タカオはふと思った。
「そう言えば、石の精霊には風がないよね。でも僕の持ってるこの剣は風の剣だ。風の精霊っているのかい?」
タカオの問いにカーナは何かを思い出し、うれしそうに笑った。
「そうよ。奴がいたわ。奴なら神を恨んでるから仲間になるかもね」
「風の精霊か……。神様を恨んでるんだって?面白そうだね」
タカオはカーナの言葉に楽しそうに答えると空を見上げた。
空はすでに黒色から藍色になっており、朝が来たことを示していた。